見出し画像

宇宙は研究開発の試験場!ユーグレナ社のミドリムシ博士に聞く、宇宙開発の魅力【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#21】

「宇宙開発」と一口に言っても、開発しているものやその目的はさまざま。このシリーズでは、ワープスペースのChief Dream Officerに就任した伊東せりか宇宙飛行士と一緒に宇宙開発の今と未来を思索していきます。第21弾となる今回は、微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)を活用した食品やバイオ燃料などの研究に取り組むバイオテクノロジー企業・ユーグレナ社の執行役員CTOでミドリムシ博士の鈴木健吾さんをお迎えして、開発中の宇宙食や宇宙分野とのコラボレーションについてうかがいました。


未来の味を先取りできるスペシャルなラーメン

鈴木さん:ユーグレナの鈴木です。今日はせりかさんに「2040年サステナブルラーメン」をお持ちしました!

©︎ユーグレナ

こちらは、宇宙での長期滞在においてもサステナブルかつ栄養バランスに優れた食事の提供を目指す取り組みの一環で開発した新商品です。ぜひ召し上がってください!

せりか:このラーメン、気になっていたんです。ありがとうございます。いただきます!あまり見慣れない具材がトッピングされていますが、これは何ですか?

©︎小山宙哉/講談社

鈴木さん:​具材の野菜は、南アメリカや地中海、中東地方などで栽培されている「ウチワサボテン」の茎ですね。ウチワサボテンは、暑さや乾燥などの環境に対する耐性が注目され、砂漠化や土壌侵食の防止に利用されているだけでなく、緑黄色野菜と果物の両方の栄養素を含んだスーパーフードとしても注目されている食材です。そしてチャーシューは、代替肉を開発する日本のスタートアップ・ネクストミーツ社の代替肉に、ユーグレナを加え乾燥させた特別品です。ユーグレナは宇宙でも培養可能なんですよ。

せりか:そうなんですね!ユーグレナさんは、ユーグレナを活用した食品を開発されていますが、今回ラーメンを開発することになったのはなぜですか?

鈴木さん:ラーメンは日本人のソウルフードになりつつありますし、面白いと思ったからです。日本のラーメン店が海外に出店すると、値段は安くなくても人気が出ますし、ラーメンはグローバルに知られている料理です。作り手側の視点でいうと、ラーメンはスープと麺、具材の相性が大事で工夫が必要ですし、チャレンジしがいがありますね。

せりか: 2040年サステナブルラーメンのおすすめのポイントはどこですか?

鈴木さん:ラーメンを宇宙でも食べられるように再現するだけじゃなく、まだあまり食卓に上っていないものをうまく組み合わせて、美味しいものを作れれば、今までにない感情を覚えることができるんじゃないかと思ったんです。だからこそ、名前をラーメンにすること自体も逡巡しました。

ラーメンというカテゴリーの中で、新しい味を提案していくには、材料にゲテモノを使うのも一つの手だったかもしれません。でもせっかくなら、未来に必要な食材で広く受け入れられるものを作りたかったんです。今は生産が難しいから出回っていないけれど、生産技術が整ったり、社会の環境が変わって受容されるようになったりすれば、食卓に上る機会が増えてくるような、そういう食材を集めて、お届けすることができればいいんじゃないかなという考えから2040年サステナブルラーメンを作りました。つまり新味を一杯のラーメンで先取りできるスペシャルなセットです!

植物であり、動物でもあるユーグレナが持つ可能性

せりか:ところで、ユーグレナとはどんな生き物なのでしょうか?改めて教えてください!

©︎ユーグレナ

鈴木さん:どういう生き物かというと、植物と動物の両方の性質を兼ね備えた微細藻類で、コンブやワカメなどと同じ藻の一種です。光合成をするので、二酸化炭素と水と光があれば増殖できます。ほかの植物プランクトンと比べると複雑な遺伝子情報を持っていて、研究対象として面白いんです。生き物としての面白さを語り出すと切りがなくなってしまいますね(笑)。

せりか:鈴木さんはどういう経緯でユーグレナの研究を始めましたか?

鈴木さん:学生だった頃に所属していた研究室に、ユーグレナによって食料問題と温室効果ガスの削減による温暖化対策の2つの課題を解決することを掲げられていた先生がいらっしゃったんです。

温暖化対策には、植物を育てて、光合成で二酸化炭素を減らすアプローチも実効性があると思いますが、限界もあると思っています。しかし、ユーグレナは、砂漠でも水槽を設置すれば育てられますし、育った細胞には色々な用途があります。当時の技術では、ユーグレナを大量には培養できなかったのですが、実現できればすごく面白いなと思い、先生の考えに共感しました。

そして2005年、私が25歳のときに仲間と一緒に株式会社ユーグレナを起ち上げました。同年にユーグレナを大量に培養できるようになり、その規模をどんどん拡大しながら、バイオ燃料をはじめ、多岐にわたる研究を進めて事業展開の幅を広げています!

せりか:ユーグレナの事業は、食品だけでなく、ヘルスケア商品の開発やバイオ燃料の開発にも取り組まれていますね。どういう発想で事業を拡大されているのでしょうか?

鈴木さん:私たちは創業当初から「バイオマスの5Fモデル」を戦略として掲げて、進む研究領域や事業領域を考えています。やはり価値があると思っていただけるものを光合成で生み出して提供していきたいからですから。

©︎ユーグレナ

せりか:食料(Food)・繊維(Fiber)・飼料(Feed)・肥料(Fertilizer)・燃料(Fuel)、この頭文字を取って5Fモデルと呼んでいるんですね!

鈴木さん:そうですね。会社を立ち上げたときも、バイオマスの5Fモデルのなかで最も優先順位が高い食品から事業を始めることになりました。

民間だからこそ実現できる研究開発

せりか:ユーグレナの研究は大学でも続けられたのではないかと思います。スタートアップやベンチャーで研究しようと考えたのはなぜですか。

鈴木さん:やはり若い研究者が多額の研究費をもらうのは、今の日本のシステム上だと結構難しいということが理由の一つです。関連して、ユーグレナを培養する大型の設備に投資が必要になる、あるいはすでにある装置を使っても1回の生産に100万円程度かかることが試算されていました。こういう取り組みを20代の若手研究者が、大学の研究室の中でやろうとすると、かなり長い時間がかかってしまうんです。

今でこそ、論文をたくさん書いて、学術界における信頼を得て、政府からのご支援もいただけるようになりましたが、株式で資本を獲得して、大量培養に関する研究開発費を出すことが、一番スムーズで合理的だと当時は思いました。

せりか:鈴木さんは文部科学省の宇宙開発利用部会の委員を務めていらっしゃいますね。

鈴木さん:はい!部会では、国の予算としても限度があるなかでどうすれば日本がプレゼンスを大きく発揮できるかを考えさせてもらっています。

私の肌感では、ユーグレナを起ち上げた頃と比べると、スタートアップの声は政府に届きやすくなっていると感じています。今の政府も、スタートアップを支援しようと表明していますし。未来は明るいと思いますよ!

2025年、ユーグレナが宇宙へ!

せりか:宇宙空間で科学実験ができる衛星を開発中のスタートアップElevationSpace(目指すは宇宙市場の窓口!ElevationSpaceに聞く宇宙実験・実証ビジネス【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#20】にて登場)と、ユーグレナの宇宙実験を行う予定だと聞きました。どのような成果が期待されますか?

鈴木さん:微小重力下でユーグレナを育てるとどうなるのかは、地上での実験やシミュレーションでも予測できますが、やはり軌道上でしかできないこともありそうなので、まずは1度宇宙実験をやってみようと思ったんです。宇宙実験は国際宇宙ステーション(ISS)でもできるかもしれませんが、せっかくなのでスタートアップと歩調を合わせて取り組みたいなと思い、ElevationSpaceさんとやり取りをさせていただいています。

ElevationSpaceさんのサービスでは、衛星を使って宇宙空間で実験をした後に、サンプルを地上に持ち帰ることができます。なので、宇宙から帰ってきた、生きているユーグレナの遺伝子情報を読んで、行く前と後でどう変わるかを考察できると考えています。

せりか:生きたまま地上で回収することができるんですね!実験の結果が楽しみですね。そのほかに注目されている宇宙開発の分野はありますか?

鈴木さん:個人的には、地球観測衛星なども地上への波及効果が高いと考えていて、自分たちの取り組みにも活用できる技術が提供されるようにならないか期待しています!例えば、ユーグレナを育てるのに適している場所を宇宙から衛星で調べたり、大量発生している環境を探したりできるといいですね。

宇宙を目指していると、普段は利害が関係しない人たちとも一緒に、色んな分野について横断的にディスカッションできます。宇宙は研究開発のテストベッドとしても、すごく大きな魅力がありますね。

せりか:地球観測衛星とのコラボレーション、面白そうですね!ぜひチャレンジしていただきたいです。最後に事業を通じて実現したいことを聞かせてください!

鈴木さん:私たちのフィロソフィー「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」の行き着く先になるかなと思います。ユーグレナから、人が必要とする資源をなるべく多く生み出せるようにしたいです。将来的には、衣食住を全部ユーグレナのサービスで賄えるようになるかもしれません。そしてSDGsの17の目標を2030年までに、一つでも多く実現することが事業上の目標です。そのためにサービスと研究開発による、技術の蓄積も継続していきます!

せりか:鈴木さん、ありがとうございました!

せりか宇宙飛行士との対談シリーズ第21弾のゲストは、ユーグレナ社の鈴木健吾さんでした。

次回は、衛星を活用した農業支援や炭素排出濃度の測定事業を手掛けるオーストラリアのスタートアップLatConnect 60の代表であるヴェンカテシュワラ・ピレイさんをお迎えして、衛星ビジネスのポテンシャルをうかがいます。お楽しみに!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?