ワープスペース/WARPSPACE
「宇宙でしかできないことがある」宇宙ビジネスコンサルタントが考える社会課題の解決【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#8】
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「宇宙でしかできないことがある」宇宙ビジネスコンサルタントが考える社会課題の解決【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#8】

ワープスペース/WARPSPACE

「宇宙開発」と一口に言っても、開発しているものやその目的はさまざま。

このシリーズでは、ワープスペースのChief Dream Officerに就任した伊東せりか宇宙飛行士と一緒に宇宙開発の今と未来を思索していきます。

第八弾となる今回のテーマは、宇宙ベンチャーキャピタル(宇宙VC)です。宇宙に特化した「宇宙フロンティアファンド」を運営するスパークス・イノベーション・フォー・フューチャー株式会社(以下スパークス)で宇宙ビジネスコンサルタントとして活躍する大貫美鈴さんをゲストに迎え、せりか宇宙飛行士と民間主導の宇宙開発の意義について議論しました。

世界に先駆けて宇宙ホテルを提案したのは日本の総合建設会社

©︎小山宙哉/講談社

せりか:はじめまして。大貫さんは、宇宙フロンティアファンドで投資を担当されているほか、宇宙ビジネスの講演会にご登壇されたり、本も出されたり、幅広くご活躍されていますよね。大貫さんが宇宙ビジネスに注目されるようになったのはなぜですか。

大貫美鈴さん

大貫さん:もともと「宇宙好き」や「ロケットガール」で宇宙業界に飛び込んだのだろうと思われがちですが、宇宙の仕事に就くようになった経緯は、実はハプニングと同然です。

私が新卒で就職活動をしていた頃は、建設会社が「地図に残る仕事」というキャッチコピーを打ち出して、バンバンと事業を進めている時代でした。建設現場に行きたくて、清水建設に入社したのですが、配属されたのはまさかの「宇宙開発室」。衛星がロケットで打ち上げられることすらもよくわからなくて、焦って会社の近くの本屋でタイトルに宇宙が付くものを全部注文したほどです。

せりか:宇宙開発室に配属されたのは、望んでいなかったことだったんですね。

大貫さん:そう。宇宙は私にとって難しそうでとっつきにくそうなイメージしかなかったです。仕事として携わるということはありえないとかなり混乱しました。それでも宇宙の仕事を続けようと思ったきっかけが3つあります。

一つ目は、国際宇宙大学の窓口をやっていたことです。

メモ:国際宇宙大学
宇宙業界を担う人材を育てるために設立された教育機関。本校はフランスのストラスブールにあり、アメリカやアジア太平洋地域にも拠点があります。
https://www.isunet.edu/

国際宇宙大学は世界で初めてできた大学院大学です。国際宇宙大学には衛星やロケットなど宇宙工学の学科だけではなく、Space Business and Management学科もありました。だから、政府主導の宇宙開発が中心だった時代から、宇宙ビジネスが身近だったんです。

二つ目は宇宙ホテル構想を提案したことです。1950年代にフォン・ブラウン博士が宇宙ステーションの構想を発表し、1960年代にはジェラード・オニール博士がスペースコロニーを提唱していました。このようにアカデミアの世界では、宇宙での暮らしの構想が発表されたことがあったのですが、企業が宇宙ホテルを提案したのは世界初でした。1991年のことです。

せりか:産業界で初めて宇宙ホテルを提案したのは清水建設だったんですか!?

大貫さん:はい。宇宙ホテルがあれば、宇宙飛行士だけでなく、一般の人も宇宙に滞在できると、社内の横断組織で宇宙居住施設の設計や工法、そして宇宙旅行についての検討を行いました。その後、宇宙での衣食住アートについて共同研究するような機会にも恵まれて宇宙がぐっと身近になりました。

宇宙ホテルのイメージ ©︎清水建設

展示会に宇宙ホテルを出展したときに、宇宙開発の中心的な企業の社長さんが来てくださって「エプロンをした主婦が宇宙に行く時代になるね」なんて声をかけてくださったんですよ。偉い方がこんなに柔らかい言葉で接してくれるなんて、嬉しくて、嬉しくて!この出来事は私の宝物です。

せりか:それは素敵なお話ですね!宇宙が身近に感じられた瞬間だったのではないかと思います。宇宙の仕事を続けることになった三つ目のきっかけは何ですか?

大貫さん:1990年代に世界で初めて民間企業が有人宇宙飛行に挑戦するAnsari X Prizeというコンテストが開始されました。2004年に宇宙に到達して10Mドルの賞金を獲得するフライトを見ることができたんですよ。そのときに、民間の宇宙開発が盛んになるなと潮目が変わると思ったのです。これが民間の宇宙の取り組みを応援しようと独立する転機にもなりました。

宇宙専門のファンドが生まれたわけ

せりか:国際宇宙大学や宇宙ホテルで宇宙が身近になり、そして民間初の有人宇宙飛行に立ち会ったことで、宇宙ビジネスに飛び込むことを決意されたのですね。宇宙ビジネスコンサルタントとしては、どのような活動をされていますか。

大貫さん:まずは、市場を創出すること、あるいはすでにある市場を拡大していくことです。政府主導の宇宙開発と民間の大きな違いは市場です。独立してスペースアクセス㈱を設立して宇宙ビジネスコンサルタントとして市場を目指した取り組みを始めました。政府の予算を中心として発展してきた宇宙開発が民間の事業へと拡がっていくには、市場を広げることが必須だと考えました。また、政府の場合は宇宙開発計画が策定されて予算が決まりますが、民間の場合は資金を調達しなければなりません。2020年4月にスパークスに入社しました。

せりか:なるほど。スパークスは宇宙に特化した「宇宙フロンティアファンド」を運営していらっしゃいます。あまり投資家やファンドのことは詳しくないのですが、具体的にはどのような業務をされているのでしょうか。

大貫さん:投資資金の運用や市場調査、そして出資した企業に伴走して企業の成長を支援をしていくことが主です。支援は企業のステージによって異なりますが、市場開拓や資本計画のアドバイスをしたり、ときには人材の紹介をしたりすることもあります。

せりか:ところで、宇宙に特化したファンドは世界にもいくつかありますが、なぜ生まれたのでしょうか?

大貫さん:宇宙の商業化が始まった頃に、宇宙企業に出資するのはエンジェル投資家(創業期のスタートアップに出資する投資家)がほとんどで、出資額も限られていました。本格的に事業を進めていくにはより大きな金額が必要で、ディープテックに特化したファンドが宇宙企業に出資したり、宇宙専門のファンドが登場したりするようになりました。宇宙産業の発展とともに、産業の成長を促す資本の橋渡しの役割が増してきているように思いますね。

宇宙開発は地球上の課題と紐づいている

せりか:大貫さんが特に注目している分野や出資を決める条件は何かありますか?

大貫さん:世界規模で事業を展開していく上で、日本の技術が活かせる事業なのかどうかは一つのポイントです。例えば、日本が先行して研究開発に取り組んでいた技術や事業は、やはり強いです。技術や人材の蓄積がありますから。SAR衛星や宇宙光通信技術はまさにそうですよね。

©︎ワープスペース

ワープスペースに関して言えば、小型衛星のシステムを丸ごと開発して打ち上げて実証した経験があったことにも着目しました。ひと昔前のように数トン規模の衛星が10年かけて開発されるような世界観だと、投資の対象にはなりにくいです。スピード感が重視されます。

あとはスケーラブルな市場やビジネスモデルと起業家や経営陣の信念や能力、そしてやり遂げる情熱も。さらに、ご縁も重要です。良い企業であったとしても、資金調達のタイミングになければ、出資はできませんよね。

せりか:確かに。そういった条件とタイミングがマッチして、ワープスペースにも出資していただくことができたんですね。長年宇宙ビジネスに携わってこられた大貫さんは、宇宙ビジネスの必要性はどういうところにあると考えていらっしゃいますか?

大貫さん:地球観測や通信、微小重力環境を利用した創薬や材料開発、宇宙資源やエネルギー利用、宇宙旅行など、宇宙でしかできないことがあるから、高いお金をかけてでも、宇宙に打ち上げるわけです。

そもそも宇宙開発の起源は、人口爆発や食糧危機、エネルギーの枯渇など、地球上の課題を解決することに紐づいています。だからSDGsで掲げられている17の目標のどれを見ても、宇宙開発が貢献しています。SDGsの目標に当てはめてみると、宇宙開発の社会的な意義はわかりやすくなるのではないでしょうか。

せりか:衛星通信で世界中に高速インターネットが普及すれば、教育水準を向上させられるでしょう。地球観測技術は、水質のモニタリングや気候変動対策にも活かせられます。確かに、どの宇宙技術もSDGsの目標と繋がっていそうですね。こういった事業にスピード感を持って取り組める民間主導の宇宙開発の社会的な意義は、今後さらに大きくなっていきそうです。

最後に、宇宙ベンチャーが成長していくために、取り組んでいくべきだと考えていらっしゃることを教えてください!

大貫さん:「宇宙外交」という言葉があるように、政府が主導の宇宙開発では、国際関係や国家間の交渉が重要です。

一方、民間が主導の宇宙開発では、宇宙外交というよりは、宇宙ビジネスエコシステムのようなものが存在しているのではないかと思います。事業は研究機関や企業同士の毛細血管のような繋がりでできています。何気ないことの積み重ねで信頼関係が醸成され、水面下で事業が動き出すときに戦略的パートナーとしての関係が構築されることもあるでしょう。そういったエコシステムに上手く入っていけると良いのではないでしょうか。

せりか:何気ないことの積み重ねが信頼関係を構築していくというのは、宇宙飛行士同士や管制官、宇宙機関の職員の間でも同じことが言えるように思いました。ありがとうございました!

©︎小山宙哉/講談社

せりか宇宙飛行士との対談企画第八弾は、スパークスの大貫さんに登場していただき、民間主導の宇宙開発の意義について議論しました。

次回のゲストは、ワープスペースのCOO・東です。宇宙分野に求められるサイバーセキュリティについて議論します。お楽しみに。


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