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【24th Global MilSatCom】欧州軍事衛星通信カンファレンスに参加。光通信は安全保障に何をもたらすか?

去る11月7-10日、イギリスはロンドン。エリザベス2世女王の国葬が行われたウェストミンスター寺院にほど近いQueen Elizabeth II Centreに、人工衛星を用いた安全保障(中でも特に通信)に関する世界各国の政府、企業、軍事関係者が集いました。そこで開催されたのは24th annual Global MilSatCom Conference & Exhibition。ここでは、500名程の参加者が3日間、ブースやメインステージでのパネルセッションにて、安全保障について通信という切り口から意見交換を行い、新しい技術の情報共有を行いました。参加企業には航空宇宙産業にも存在感を放つHoneywellや パリに本拠地を置く巨大人工衛星運営企業Eutelsat、超大手衛星通信会社であるOneWebなど、宇宙業界でのビッグネームが並びます。加えて、NATOなど欧米の安全保障に関わる政府関係者も列席します。ワープスペースからはCSOの森が参加し、プレゼンに加えパネルディスカッションに参加しました。

安全保障の観点からも際立つ光通信の優位性

 森も参加したパネルでは様々なテーマで精力的なディスカッションが繰り広げられました。欧州宇宙機関(ESA)と民間会社であるエアバス社の共同により2016年1月に打ち上げられた、光通信端末を用いてLEOの地球観測衛星のデータを地上へと伝送する時に光通信を利用して中継する衛星、EDRS(European Data Relay System)が6万7千回の通信を実現したという話題の一方で、イギリス防衛科学技術研究所(Defence Science and Technology Laboratory:DSTL、英国版、アメリカ防衛高等研究計画局(DARPA))のテクニカルアドバイザーであるDavid Dean氏は、光通信が電波よりもジャミングし辛いことから通信の安全、信頼性の向上に大きくつながる旨を述べています。
 また会場からは、現在、衛星通信等に用いられている電波の課題についても質問が挙がりました。電波については通信の安全性の課題に加えて、利用可能な波長帯も枯渇してしまうという課題について言及され、このような観点から、防衛上、光通信技術の重要性はもはや揺るがないことが確認されたというのも大きなハイライトです。もちろん、光通信も虹色の技術というわけではなく、通信を接続する難しさという課題があります。しかしながら、

「光通信の課題は認識しており、それゆえ、10年後であっても現在の電波に完全に置き換わることはないだろうと考えられている。しかしそうした見通しを差し引いても、実証を急ぎ開発して欲しいという需要が大きい。

と、パネルディスカッションに参加した森は感じたといいます。

パネルディスカッションの様子。右から二人目がワープスペースCSOの森。その左隣がDSTLのテクニカルアドバイザーであるDavid Dean氏。

存在感を増す各国宇宙軍

一方メインステージでのKeynote Speechでは、世界各国の宇宙軍のロードマップが印象的であったと森は語ります。今ではサイバーセキュリティやミサイル防衛の観点等から世界各国で宇宙軍が発足されており、現に今回のカンファレンスでもNATOや各国の宇宙軍の幹部の発表も増え、各国の宇宙機関設立に続いて陸海空サイバーに次ぐ存在として宇宙軍の活動も活発になってきていることが実感されます。特に韓国航空宇宙研究院(KARI)のロードマップとして紹介されたFuture Vision 2050では、韓国が今後月面も含めて宇宙開発をしていく際にも、通信インフラとして光通信が重要であることが強調されていました。

韓国航空宇宙研究院(KARI)のロードマップとして紹介されたFuture Vision 2050。月面と宇宙ステーション、地上を中継機を介した赤いレーザー(光通信)が繋いでいます。((c)KARI)

米国のアルテミス計画をはじめとして、中国などもいよいよ月面への有人探査計画が現実的なものとなりつつあります。その中でも通信は肝であり、防衛の観点で予算をつけ、20-30年先に鍵となる技術として投資しています。「宇宙」はまさに新大陸。その取り合いはすでに始まっているのです。そして、かつての鉄道や船舶がそうであったように、新時代のフロンティアを開拓するインフラは間違いなく光通信であることが改めて感じられる展示会でした。

(執筆:中澤淳一郎)

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