しゃべくり漫才と観客

今回から数回に渡って、【しゃべくり漫才】、【コント漫才】、【混合漫才】についてそれぞれ考えていく。まずは、【しゃべくり漫才】から。

前回(「漫才の種類について」)で、ミキの漫才は【しゃべくり漫才】であると述べた。
基本的に彼らの漫才は、ボケ・亜生の無知から生まれる非常識な言動に、ツッコミ・昴生が異を唱えるという形で2人の会話が進んでいく。

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それでは、このミキの【しゃべくり漫才】を観客はどのような視点で観ているのだろうか。
『M-1グランプリ 2017』最終決勝での「スターウォーズ」をテーマにしたネタの中で、以下のようなやり取りがある。
昴生「覚えてない?ダースベーダー。コォーコォー言うて歩いとるやつ。」
亜生「それなんで、コォー言うとるん?」
昴生「…あの、呼吸器つけてはんねん。」
亜生「呼吸器?なんで?」
昴生「あの、体の具合が良くない。」
亜生「…かわいそう」
昴生「はよ良くなってほしい。…はよ良くなってほしいちゃうねん!良くなったらあかんねん。」
亜生「なんでや。」
昴生「悪いやつやねん!」

ダースベーダーについての質問をする亜生に向かって、昴生が説明することで会話が進んでいる。つまり、2人はダースベーダーを知る・知らないという相反する関係だ。
観客の多くがダースベーダーを知っているとすると、観客と亜生の関係も相反するものとなる。つまり、観客の視点はダースベーダーを知る昴生と同じである。亜生は観客自身の常識の外にいる存在であり、亜生に向かって放たれた昴生のセリフは、観客の心情の代弁であり、観客は昴生に同情していると言えるだろう。

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また、このネタの後半には次のようなやり取りが登場する。
(ライトセーバーについての説明で)
昴生「光る剣や!光る剣!」
亜生「…光るKENJI」
二人「♪ようこそここへ 遊ぼうよ…」
昴生「…これ光GENJIやろ!俺、言うてんの光るKENJIや!…ちゃう、光る剣や!!なんや光るKENJIって!光る刀、光る刀!」
亜生「…ひかるかなた!」
昴生「どうも!ひかるです!」
亜生「かなたです!」
二人「ひかるかなたです!!」
昴生「…誰やーーー!!!」

ここでは、亜生が音が似ている言葉を列挙し、それに昴生が乗っかったあと訂正する。普通であれば、「光るKENJI」や「ひかるかなた」など初めて聞く言葉に対して即座に反応することは難しい。つまり、昴生は先ほどと違い、亜生と相反する関係ではなく同じ視点で物事を見ていることになる。
観客にとって、亜生は変わらず観客自身の常識の外にいる存在である。そのため、亜生に向けられた昴生のセリフは、観客への解説となりえる。観客はこの解説により亜生のセリフの意味に気づく。

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このように、ツッコミは観客側にもボケ側にもその立場を置くことができる。漫才中、観客とボケの関係性はほぼ変わることがない。そのため、観客にとっては、ツッコミの立場によってそのセリフの機能が変わってくる。



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