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「軸」定まらず、「武器」は減った ~2017 中大ラグビー部のシーズン総括~

後半35分でSHの成田圭は退いた。この試合の、いや、今シーズンのMOMとも言える素晴らしい活躍をみせた1年生だ。
ピッチに退く前、PRの金子がそっと労った。成田はバックスタンド沿いを、とぼとぼと歩いている。
ファインダーで表情を覗く。口を真一文字に結び、目が少し充血しているように見えた。
果たして、何を思って、彼はこの試合に挑んでいたのだろうか。

3勝3敗で、大学選手権出場には勝利しかない状況の中大ラグビー部。最終戦の相手は、前の試合で東海大を破った大東大。ここ数年は毎年のように激闘を繰り広げている、因縁の相手だ。

中大はどのような手を打つのか? それは「奇策」とも言うべき戦いだった。
「キック」を多用したのだ。ハイパント、ショートパント、ゴロキック、ボックスキック…。ありとあらゆるキックを用いて、敵陣に入ることを試みていた。ボールを持ち、前を向いたらすぐに蹴る。パスよりもキックが多いのでは? と錯覚するくらいだった。
その一方で、この試合は80分通してモールを組む機会は皆無だった。ディフェンス、キック、モール。これが中大ラグビー部における三種の神器だ。そのうちの一つを捨てた。たしかに、今シーズン、いや、昨シーズンから続くラインアウト禍を考えると、合理的な選択である。

この奇策が前半はハマった。大東大のパワフルなランナーたちは、なかなか前に走れない。中大ディフェンスの集中力も、今シーズンで最も高かった。前半は0ー7と最低限のビハインドで中大は折り返す。

後半6分、敵陣に攻め混み侭田のフラットなパスを楠本がしっかり受け取り、インゴールゾーンへ走り込む。この瞬間までは、「ひょっとすると?」を予感させた。
しかし、奇策はあくまでも奇策に過ぎない。前半からFWのセットプレーは脆く、効果的なボールキープができない。そして、頼みのキックも相手は慣れてきてしまった。後半16分にミスキックから展開され、注意していたアマトに力強く走り込まれてトライ。この一本が、中大の今シーズンを決定付けさせてしまったのかもしれない。

その後も一進一退で進んだが、着実に得点機会を活かした大東大が逃げ切り。10ー29で中大は敗れ、大学選手権出場を5年ぶりに逃した。

この試合は非常に中身のあるものだったが、シーズンを通してだと、やはり悪い印象は否めない。中大は最後まで戦い方に「軸」と呼べるものが無かった。
中大ラグビーの3要素は粘り強いディフェンス、キックでのゲームメイク、そしてモールでのトライである。松田・酒井体制になって以降、この要素はより強固になっていた。

それに綻びが生じたのは、昨シーズンからだった。モールでトライが取れない。正確にいうと、ラインアウトが急激に不安になってしまった。いくら頑張って敵陣を奪っても、その後にボールロストをしてしまっては意味がない。
ラインアウトだけでなく、スクラムも弱かった。三枝、佐野という柱もいるし、小さな選手たちのタックルには胸が熱くなった。しかし、彼らが塊になると、なぜか弱くなってしまった。そこに対して成長、あるいは育成の跡があったかと言われると、首を横に降らざるを得ない。

また、キックの有効活用に関しても、「これだけ使えるなら法大戦でも…」と思わざるを得ない。スタイルは違うが、共に攻撃はランナーを活かしたものだった。なぜ、あの試合は真正面から高速ラグビーとぶつかってしまったのか? なぜ攻撃はラインアウトモールに拘ってしまったのか? 理解に苦しむ。

結局のところ、中大ラグビーはモールという錆びた武器を手放し、それに替わる新しい武器を見出だせずにシーズンを終えてしまったのだ。武器が一つ減った。この事実を重く受け止めないといけない。上位も下位も混線模様が続く、関東大学ラグビーリーグ戦。その渦に悪い方向に飲み込まれないためにも、早急なチームの建て直しを望みたい。迷っている、ヒマなんてない

どうもです。このサポートの力を僕の馬券術でウン倍にしてやるぜ(してやるとは言っていない)