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NovelJam2018回顧録 第5話

ローリング・ストーンズと山田太一

お題が発表された。T理事長がそれっぽいメガネをかけ、それっぽい額縁を持っていたので、おいおい小渕官房長官かよ! と小声でつっこんだら、本当に小渕氏のモノマネだった。そう、テーマは「平成」である。

平成か……。「平」「成」という漢字からアイデアを膨らませて書いて良い、という指示も出た。そういう使い方をした班も実際にはある。だが、E班は両作品とも時間軸や時代性をベースに作品は生み出された。意外とテーマをひねった作品も多かったので、我が班のストレートさも目立っている。

さて、まずは藤崎いちかさんの制作プロセスを振り返ってみよう。

チーム決定から三木一馬氏の講演までの間で行ったことは2つある。

ひとつは自己紹介タイムだ。といっても、ただ単にお話して終わりではつまらないので、「偏愛マップ方式」を採用した。偏愛マップとは国語学者の斉藤孝教授が提唱したコミュニケーション方法で、自分の好きなモノをマッピングし、可視化させながら相手に伝える手法だ。

ただ、書きすぎるとその後の時間割が押せ押せになってしまう。個人的な経験を踏まえ、好きなモノの発表は5個までに絞った。それが一人が覚えられる最大の範囲であり、かつ5個あれば1個は近い共通点が見つかるものだからだ。幸いにも、好きな本や作家の話題でワイワイ盛り上がった。よしよし、チーム内の緊張感は大分ほぐれたな……。

もう一つは「15分で短い文章を書く」というものだ。いわゆる波野式測量法から発想を得たものだ。とくに利用制限は無かったので、ありがたく拝借した。なぜこれに特許がないのかがわからないくらい、良いシステムである。お題は十二支を乱数ソフトで選び、「辰」になった。ドラゴンでも竜でも良いことにした。

15分後、僕と藤沢さんを含めた4つの文章が完成した。それぞれに目を通す。
藤崎さんの文体の第一印象は「穏やか」であった。精神的な揺らぎがない。この独特な穏やかさと空気感は、多種多様な作品が集う審査時にも色分けされて、目立つことができるのではないか……。

とはいえ、藤崎さんは久々の小説執筆をたいそう不安を抱いていた。なにより、その独自の穏やかさが「ストーリーに抑揚が無い」と捉えられたらどうしよう? というのがネックだと感じているようだった。

例えば、楽しかった思い出や体験を、そのまま登場人物に体験させてみれば良いのでは?

そう提案した。先日藤崎さんはお仕事で山梨県まで車で行き、そこでの道中のあれこれ非常に楽しかったとのこと。それをベースにし、登場人物とストーリーの流れが記されたプロットとなった。先ほどのアイスブレイクで書いた「カナブンになったドラゴン」の文章に若干の未練があるみたいだが、さすがにカナブンと平成を繋げるのは今の僕には……。

さて、これをベースにどう膨らませようか? プロットを見ながら、部屋の中で悶々と考えにふける。

あっ。このフレーズ、なんか良いな。

それはさり気なく記されていた。これをどんどん広げていけば、ゴールに辿り着けそうだな……。

大きなテーマは『平成最後の逃避行』にしませんか?

朝一番のアドバイスはこういう内容だった。結婚式場を抜け出したアラサー女子二人が、山梨県をぐるぐる回る。平成最後の一日という大きな事件と、二人の逃避行という小さな事件を並行させ、クライマックスでぶつける。それを具現化させたフレーズが『平成最後の逃避行』だった。

何より、僕は二人の逃避行を手助けできる自信があった。山梨には土地勘がある。父親がバブル期にうっかり買って、どうしようもなくなった別荘。幼いときはよくここに連れて行ってもらった。だから、ペーパードライバーの僕でも、山梨のどこに何があるかのイメージは持っているのだ。

ここからは作家の内なる思いを優先させた。僕のアドバイスと言えば、どこのユニクロに立ち寄らせようとか、どこの蕎麦屋に行かせようかとか、水信玄餅とは何かをひたすら調べることである。

『平成最後の逃避行』というフレーズが持つ影響力は大きかった。
タイトルを変えますか? という話し合いはもちろん行った。だが、これの代替となるフレーズは出てこなかった。
結果として、あまりタイトルらしからぬ文言では? という指摘を頂いたのも承知している。ただ、物語を制作するプロセスにおいて何が正解かと言われたら、僕ははっきりと『平成最後の逃避行』をタイトルにすることが正解だったと答えたい。このフレーズから物語は生まれ、かつしっかりとピリオドが打たれたのだから。

タイトルが決まると、表紙も決まる。登場人物の人生とドライブでの出来事が合致するだなんて、「人生ゲーム」みたいですね。という話になった。そこを藤沢さんがピックアップしてくださり、すごろく風の表紙となった。

チェックポイント②の段階でほぼ完成(!?)という状態であり、残りはストーリーに合わせて小ネタをつぎ込んでいった。
間違い探しみたいになるが、両者を見比べると「あっ!」となる発見が沢山あって楽しいものである。ストーリーの成長と表紙の成長は、同時進行で行われていった。

藤沢さんからの助け船はもう1つあった。

聞いたことはあるが、タイトルは知らなかった。ローリング・ストーンズの「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」という。
この物語には「平成ジャンプ」というキーワードがでてくる。
でもって、ジャンプに関するテンポの良いBGMを探したところ、これはどうだろうか? とのこと。

なるほど。意外な組み合わせだ。ついついアイドルグループに頭が行きがちだが、こちらのほうがロードノベルという設定に向いているのでは。「雨」というシチュエーションも合致している。主題歌にするならこれだ!

表の軸が「平成最後の逃避行」というパワーワードならば、裏の軸が「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」だった。僕のもう一つの仕事は、ひたすらこの曲を聞き、歌詞やそれに関する解釈を読みながら、物語の隠し味として少し加えていく……。

なお、当の藤崎さんは途中から自分の好きなBGMを聞いていたとのことだった。

比較的順調な執筆作業だったが、僕の指示ミスもあった。

この物語の肝は現在と過去の時間軸が行き来する中で、二人が成長していくというものだ。初稿はその行き来があまり整理されていなかった。故に、「現在→過去→現在→過去→…」という具合に、パラグラフごとに整理しませんか? と伝えた。

しかし、これが失敗だった。そもそもひとつのパラグラフが短いので、慌ただしいものになってしまったのだ。藤崎氏のリカバーで上手くいったとは言え、この書き直しのロスが無ければ…という後悔と反省は大いにある…

そんなこんなで時は流れ、2/12の午前7時を迎えた。

藤崎氏のタイピングはとても静かだ。キーボードを叩く音が聞こえず、大丈夫か!? と思ったら、めちゃめちゃ叩いて書いていた…ということが3回くらいあった。まるで細雪の如く。

「完成しました!」
遂にそのときが来た。原稿を印刷し、早速読みふける。

嗚呼、素晴らしい。思わずウルッときた。

「ストーリーに起伏が無いのが不安です」。
そう、藤崎さんは何度か悩みを打ち明けていた。
そんなとき、僕は「山田太一先生のように、ドラマチックではないことをドラマにしましょう」と何度も答えた。
「岸辺のアルバム」などのテレビドラマでお馴染みの山田太一氏は、日常的で何の変哲もない箇所からドラマを抽出する脚本家だった。そんな目の付け所と、徹底したリアリティの追究が僕は好きだった。
そんな氏の姿勢をしっかりオマージュしていけば、質の低い作品になる訳がない。そう唱えながら、藤崎さんの不安を取り除いていった。
(※一応、僕の中では「思い出づくり」の平成最後の日版というスタンスも、ちょっとだけ頭の中に入れている)

確かに、冒頭の拉致シーン以外は、一見すると穏やかな場面が続く。というか、冒頭のシーンって本来クライマックスで使うもんじゃねーの? という考え方もある。
でも、拉致シーンには不思議なリアリティがあり、すんなり物語のツカミとして入ってくる。そして、同じテンポだけど退屈にならないスピードで物語がラストまで動く。
ここの部分が、藤崎さん独自の力量であり、なかなか他者が真似できない持ち味なのである。

もうひとつ嬉しかったことを挙げれば、この作品で最も肝になるセリフがあるのだが、ラストシーンではその話者が入れ替わっていたのだ。そして、入れ替わることで深みがぐっと出たのだ。
ここは僕も想定していなかった変化だった。

「書いているうちに、導かれるままに入れ替わっちゃったんですよ~」

登場人物に導かれるままに話が進む。これもまた、素晴らしいことだと思う。

最後の誤字脱字の訂正を指示し、僕は提出の準備を進めた。とりあえず、一歩前進だ。だが…

NovelJamは編集一人に対し、著者は2名つくのがルールだ。
もう一人の著者は、締切1時間前になっても、この部屋に戻ってくる様子はなかった

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本連載をより楽しむには、下記の2冊を合わせて読むと更に楽しいです。

◆平成最後の1日を、逃げる二人の行く末は? アラサー女子が織り成す優しいロードノベル/新城カズマ賞受賞
藤崎いちか著「平成最後の逃避行」
https://uwabamic.wixsite.com/heiseisaigo

◇怪獣が現実に現れるようになった平成を舞台にした、生きる意味と恋を巡る青春ビルドゥングスロマン!!/海猫沢めろん賞受賞
腐ってもみかん著「怪獣アドレッセント」
https://uwabamic.wixsite.com/kaiju

【次回予告】あの日起こったあの出来事は、一体全体なんだったのか? 2夜連続更新予定。お楽しみに?

第6話はコチラ


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1988年3月生まれ、神奈川県横浜市出身。しがないサラリーマンを続ける傍ら、2014年11月よりスポーツライター業をスタート。近年は「ラグビークラスタ」「#susonolife」の編集も担当。近所の試合から日本代表戦まで、スポーツの面白さや驚きを伝え、暖かく見守り続けて参ります

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