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カメラは機械の癖に仕事をサボりがちだ。

恋人が撮っているかどうかくらいは
被写体の表情などから
安易に推測できてしまうからだ。

「誕生日おめでとう!今度飯行こうよ」
パリに住んでいた中学時代の同級生が
誕生日にLINEをくれた。

このときは僕が大学3年生、
彼が大学2年生のときだった。

僕はこいつが自分の誕生日に
毎年わざわざ文章を紡いでくれるのが嬉しい。

なぜなら彼はLINEを一言返すのに
まずはメモ帳を開いて下書きを作り
何分も相手のことを考えた後に
ようやく返信するような男だと知っているからだ。

そんな彼のLINEのアイコンが変わっていた。

側から見たらいつも通りの表情なのだが、
ちょっと優しい顔をしているのが僕にはわかる。

「アイコン変わってる」と返せば
「いい感じでしょ」
「彼女と旅行行ったときに撮った」
と返信をくれた。

彼の恋愛には興味があった。

彼は絵に描いたような秀才だったからだ。
学生時代はどれだけ努力しても学力では彼に敵わなかった。帰国後も埼玉で一番偏差値の高い男子高校に合格したし、その後は旧帝大に進学した。もっと先の未来では一流IT企業に進んでいる。

そんなエリート街道まっしぐらな
彼にも挫折経験がある。
大学進学の際に浪人したのだ。

浪人の報告を受けたときは衝撃が走った。
「毎日塾講師以外誰とも関わらない生活を送っている」と記載があったので「話し相手になってやるよ」と自ら名乗り出てその日から彼が旧帝大に合格するまでの間、毎日一通ずつLINEを送り合った。

そんな関係性もあってお互い話せないことなど何もなかった。

迷わず「もう童貞捨てた?」と送った。

「すてた」
「あ、そこ割と悩んでいるんだけど」
「夜の方あんまやる気でないのよ」
「なんか、別にやらなくてよくねって思っちゃう」
「出かけたり、話したりで満足」
と返信があった。

非常に彼らしかった。

クラスメイトが下ネタの話をしていたときに、彼がふと「最近できてないんだよね。妹いるし。」と言った瞬間、クラスメイト全員が凍結し、「◯◯、オナニーとかするのかよ!」と悲鳴のような声が教室中に響き渡ったのを思い出した。

「女の子はしないと寂しくなるんだよ」と教えてやった。

春休みで関東に帰ってきているとのことだったので会った時にどんな人を好きになったのか彼にそれとなく聞いてみたところ、入部した競技ダンス部の同級生で一個下だそう。

「顔のパーツが良い」と言っていた。
合理的な彼らしい言葉すぎてふふっと笑ってしまった。

毎年お互いの誕生日にはLINEを送り合っていたし、
関東に帰省する際にはいつも連絡をくれるので毎回会っていたが、次に彼女に関する情報を教えてくれたのは社会人になり就職で関東に帰ってきたときだった。

彼はあっさり「彼女と別れたw」くらいのノリで報告してきた。

相手も同じ東京に就職したけれど
半年くらいで愛が情に変わってしまったので
社会人になるのを機に別れを切り出したそうだ。

一流企業に就職した彼は平日は仕事で忙しいので当日実際に会うまではどんな顔の人が来るのか分からない『バチュラーデート』というマッチングアプリをやっていると続けた。

そのエピソードは相手に返信するのに時間をかける彼らしくて非常に好みだった。

先日、彼の誕生日だったのでこちらからメッセージを送った。

「誕生日おめでとうー!!」

彼のLINEのアイコンが変わっていた。

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