【読んでみましたアジア本】興味つきない、東西をつなぐヒンドゥー文化を知る/森本達雄『ヒンドゥー教 インドの聖と俗』(中公新書)

今年もあとわずか。今年読んだ本をとりあげるのは今回が最後となる。

正直、今年読んだ「アジア本」にはなかなか読み応えというか、「手応え」のある本が多かった。「読み応え」は人それぞれだと思うが、ここで「手応え」というのは「こんなことが! ほとんどメディアでは触れられてないよね?」みたいな「発見」が多かったという意味である。

自分が持っている知識を第三者の書籍でなぞったり、確信づけるのもそれはそれで頼もしい経験なのだが、一方で「読むことによって世界が開かれる」わけではない。逆に粗製乱造というか、表面的な知識をさらうことで書籍化して「儲け一発勝負」的な業態も一部で常態化している出版業界において、知識と経験とそして検証に裏打ちされた「目からウロコ」本を出すのは大変な苦労であることも理解している。ネット情報に慣れきった人たちには今や、「知らないことを知る」ことよりも「知っていることをなぞる」という安心感を求める行動習慣が醸成されており、敢えて「目ウロコ本」に挑戦しようとする人が減っているからだ。

つまり、相当な話題本でない限り、知識系本が「バカ売れする」ことはたぶん今の日本では起こらない。本の執筆者が日頃から相当潤っていて小銭を稼ぐことを考えずにじっくりと執筆に向き合うという環境は、大学のセンセイかすでに名を成し財を成した大作家以外にはほとんどありえない状況下になっており、その他の書き手は手にした情報を切り売りしながら小出しにして食いつなぎ、「運が良ければ本にできる」生活を送っているからだ。本を出したところですぐさま大作家の仲間入りができるわけはもちろんなく、既刊本を名刺代わりにまた次の一冊へとつなげていく、自転車操業を続けるしかないのが実情なのである。

そうして出版される本も内容はすでに筆者によってちらちらとあちこちで単発的に発表されているから、刊行されたからといって読者に「目からウロコ」をもたらすほどの衝撃度はない。可能性としてあるのは外国ベストセラーの翻訳出版だけれども、刊行後にすぐに次の本の翻訳が待っている売れっ子翻訳家はほんの一握りだ。だいたい、日本では「翻訳出版は版権料がかかるわりに売れない」という垣根を乗り越えて初めて企画化されるので、それこそ「名の売れた作家+人気翻訳家+実績のある出版社」がガッツリとタグを組まなければ、「目からウロコ」の話題や経済効果を実現するのは難しい。

一方で、読者の方も本を手にとっても驚きや知識の刺激を感じなければ、書籍購入への期待感が減退するのもしかたがない。特にその本が日ごろちょろちょろとウェブで読んでいる内容の繰り返しであれば、人々はますますお金を出して書籍を買って読もうとは思わなくなるはずだ。ネットはスキマ時間にさらっと読めるし、持ち歩く面倒もない。

つまり、「目からウロコ」の楽しみが減ることで出版社の営業は難しくなる。

こんな悪循環が続くことで得する人間がいるとは思えないんだけれども、海外はともかく日本ではこういう状況の繰り返しに落ち込んでいる。

●学者本を新書で読む価値


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