【読んでみましたアジア本】東南アジアを青銅器時代から21世紀までをくまなく網羅した一冊:古田元夫『東南アジア史10講』(岩波書店)

日本人がアジアの歴史を振り返る時、さまざまな感情が湧いてくる。知っていること、知らないこと、何を自分が知っているのか、何を知らないのかということでさえ、考えてみようとすると心臓がどきどきしてくる。

もちろん、そんなことはない、そんなことは気にしない、そんなことを気にする必要はない、という人もいるだろう。だが、どんな態度を取ろうとも、アジアの歴史を掘り起こす時、日本の存在は「不在」ではいられない。

それを是とするか、非とするか、で、受ける印象も変わってくるのだろうが、それにまず向き合うことから始めなければならない。それが重いのだ。

だが、今の我われは以前にもまして、それに向き合う必要に迫られている。毎日のようにメディアには中国や韓国や北朝鮮や、さらにはインドやミャンマーや…といった国々のニュースが並び、それが自分たちとどんな関係があるのかを考えさせられる日々をいきている。

それこそ、今話題のTPP一つだけをとってみても、アメリカの動向ばかりを見ていれば良い、というものではないわけなのだから。

だが、隣接する中国や韓国、北朝鮮はまだしも、東南アジアとなると、ちょっとそのイメージがぼやけてくる。ちょろちょろと聞きかじったその国の歴史や政治事情、旅行で訪れたときの見聞や遺跡などで、そのイメージを補っている人は少なくないだろう。

でも、我われが短期間に目にした片鱗にはたくさんの歴史が詰まっており、我われの目には垢やホコリのように映るそれはまた、その国にとって大事な歴史の一部なのだ。その何がどんなふうにどうやってその国を育んできたのか、それを知るのは並大抵のことではない。そして我われはそれらの一つ一つにコミットする時間もない。

学校教育でもアジアが語られるのはほぼ「日本の目」を通してのことが多く、それ以外の歴史はあまり記憶がないし、テストにも出てこない。メディアが事細かにとりあげるのは圧倒的に欧米の話題が多く、アジアのちょこまかとした話を目にする機会はほとんどない。

これじゃあ、いつまで経ってもぼんやりしたままだなぁ、という焦りがずっとあった。

そんなぼんやりしたイメージを本書『東南アジア史10講』を読んで、やっとのことでかなり埋めることができた気がする。

ハンディな新書に青銅器時代から21世紀の現在まで東南アジアの歩みがぎっしりとまとめられており、東南アジアのことを系統的に理解したいと思う人にはぴったりの一冊である。

●先住文化はインドとイスラム


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