【ぶんぶくちゃいな】香港コロナ対策のつまずき 加速する中国政府頼り

オンライン会議の相手に「そちらの感染状況はどんな感じ?」と尋ねられて、あんまり気にしていなかったことに気がついた。香港に入って約1週間、ちょうどホテル隔離の折り返し地点に入ったところだった。

その時の数字は1日あたり新規陽性確認が約2000人ちょっと。日本が2000人だった時はいつだったけな、と思いつつ、全人口750万人の香港の割合でいうと、日本で3、4万人の新規感染者数が出ているレベル。となると、それほど前のことではない。

具体的な感染者の数にはあまり関心を寄せていなかったものの、毎日のニュースチェックをしながら、香港の感染対策が次第に混迷しつつあることはひしひしと感じていた。

だが、冒頭のやり取りからわずか3日で1日の新規患者が6000人を突破、今週内には1万人に達するのではないかという声もある。そして、18日朝に並んだニュースのタイトルを拾ってみるとこんな感じである。

「1日新規6116件 高齢者が屋外で2日間入院待ち 週末は気温低下の予想」
「1日の死者報告24件、うち9件は事後追加 『個別ケース多すぎで報告漏れも』」
「検査は1日平均14万サンプル 林鄭長官『月末には30万件検査が可能に』」
「病院管理局職員、さらに151人が隔離へ うち39人は患者と接触なし」
「観光バスをレンタルして改造 陽性患者搬送に投入」
「陽性者搬送専用タクシーの営業開始 運転手『いまだ手順不明、混乱も』」
「拘置・刑務所で全面検査実施 月末まで裁判出廷をストップ」
「香港サッカーリーグで12人が陽性反応」

…ここから読み取れるのは、現状に対応が追いついていないことだ。急速に事態が進み、すでに検査も報告も遅れ気味になっていることが担当者の声からも伝わってくる。

ニュースのタイトルからもわかるように観光バス40台やタクシー(運転手200人)などの営業車両に政府が特別手当を支払って借り上げ、陽性患者あるいは陽性が疑われる患者の搬送用とするのは、すでに消防処配備の救急車434台と24人乗りミニバス7台では間に合わなくなっているからだ。香港消防処のデータによると、1日平均200人、多いときで500人あまりを搬送し、乗車担当者も通常の3人から2人に減らしてまわしているものの、完全に間に合わない状況に陥っているという。

また、16日には病院敷地内の屋外に患者を乗せた移動型ベッドがずらりと並べられた写真がメディアによって報道され、市民に衝撃を与えた。その直後から香港では雨天が続き、この週末はそのおかげで気温も急降下するという予想がある。いくら亜熱帯だからといってもいつまでも屋外でベッド待ちをさせるわけにはいかないと、18日午後からは各病院で患者を「収容」する手配が始まった。

そしてそのさなか、林鄭月娥・行政長官は3月27日に予定されていた行政長官選挙の投票日を5月8日へと繰り延べると発表。記者から飛んだ「わずか数日前まで『スケジュール通りに行う』と自信たっぷりだったではないか」という声に、「わたしは水晶玉を持っているわけではない。あの時はあの時点における判断を口にしたまでのこと」と述べた。

もちろん、記者が聞きたかったのはそういうことではないだろう。彼女がどんな予測とアドバイスと状況判断によって動いているのか、行政のトップならばある程度先見性を持つべきではないのかと問いかけたわけだが、彼女の返事は「自分の個人的能力」という立場からの釈明だった。

林鄭長官はすでに孤立無援…彼女の言葉を聞いた多くの人たちの脳裏にそんな想像が浮かんだ。

●「習の一声」で動き出した「愛国」システム


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