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英日のフリーランス産業翻訳者です

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  • 聞言師の出立

    ファンタジー小説『聞言師の出立』全話と、作者からのメッセージ「聞言師由無し事」をまとめました。

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2023年の収穫

去年もおととしもその前も今年とさほど変わらなかったし、きっと来年もおんなじような感じなんだろうな。 2022年の年末頃は、そんなことをぼんやり考えていました。 ところ…

わんたろ
7か月前
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創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』が、昨夜完成しました。
友情と絆、知恵、欲の物語をお読みくださり、ありがとうございます。
(多分)最後のメッセージを投稿しましたので、よろしければご覧ください↓
https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e

わんたろ
1年前
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創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』最終章とエピローグに、手を加えました。
友情と絆、知恵、欲の物語の大きな更新はこれで終わりです。よろしければご覧ください。
詳しくは↓
https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e

わんたろ
1年前
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創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』第5章に、手を加えました。
友情と絆、知恵、欲の物語もあと1章+α! よろしければご覧ください。
詳しくは↓
https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e

わんたろ
1年前
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創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』第4章に、手を加えました。
友情と絆、知恵、欲の物語はあと2章ちょっと続きます。よろしければご覧ください。
詳しくは↓
https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e

わんたろ
1年前
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創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』第3章に、手を加えました。相当書き換えたので、前より読みやすくなっていると思います。
友情と絆、知恵、欲の物語はまだまだ続きます。
詳しくは↓
https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e

わんたろ
1年前
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創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』第2章に、手を加えました。ずいぶん読みやすくなったと思います。
友情と絆、知恵、欲の物語はまだ続きます。
詳しくは↓
https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e

わんたろ
1年前
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創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』第1章に、手を加えました。
詳しくは↓
https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e

わんたろ
1年前
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聞言師の出立 第32話(完)

 空は暗い。  薄暮の光も雲間から切れ切れにしか届かない。  ——降りそうだ、まずいな。  テリュク村を発って三日。リメンの町はまだ少し先だった。  村から都まで…

わんたろ
1年前
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聞言師の出立 第31話(第6章 4)

——————————  それからの十日間は、アクオにとって長いようで短かった。  日限を切ったのはアクオ自身だった。  まず、漂陰の残っている石を盗んだという疑い…

わんたろ
1年前

聞言師の出立 第30話(第6章 3)

 アクオらが村に帰り着く頃には、すでに空が赤らんでいた。  ルクトやエクテと久しぶりの湯家へ行ったアクオは、面映ゆさを味わわされた。夕食の時間なのか、ほとんどの…

わんたろ
1年前

聞言師の出立 第29話(第6章 2)

 巫の小屋は一人で住むには大きい。  独りきりだったら広い方がいいのか、狭い方がいいのか。  初めて小屋の中を見たとき、そう思ったのをアクオは覚えている。アイオー…

わんたろ
1年前

聞言師の出立 第28話(第6章 1)

6 「逃げろ!」  叫んだアクオも無我夢中で飛びすさり、漂陰の石の残骸からゆらゆらと立ちのぼる闇を凝視した。  松明の赤い光の作るどの陰よりも濃い闇がゆっくりと渦…

わんたろ
1年前

聞言師の出立 第27話(第5章 5)

—————————— 「アクオっ!」  返事はない。  光を失った目がゆっくり閉じられていく。 「だめだ、いくな!」  ルクトは首を振りながら、熱い涙をアクオの顔に…

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1年前
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聞言師の出立 第26話(第5章 4)

—————————— 「手遅れになります、早く!」  叫んだアクオは〈山〉を駆けのぼっていったが、残された者たちは逡巡した。  だが、筆の中の漂陰が教えてきたとい…

わんたろ
1年前

聞言師の出立 第25話(第5章 3)

 目の前に広がった、荒涼たる白茶けた岩と砂の景色。曇り空はもう赤みがかっている。  アクオは汗も拭わず、荒い息遣いで辺りを見回す。  巫の姿はない。  右手の小屋…

わんたろ
1年前

2023年の収穫

去年もおととしもその前も今年とさほど変わらなかったし、きっと来年もおんなじような感じなんだろうな。 2022年の年末頃は、そんなことをぼんやり考えていました。 ところが。 2023年も終わりのいま、今年を振り返ってみると、あらまあびっくり。全然違う年になっていたではありませんか。 そんなわけで、今年の自分の「総括」(←生まれて初めて使った言葉)をしたいと思います。自分のための備忘録です、来年になったらすっかり忘れているような気がするので。悪かったこと嫌だったことはガン無視でい

創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』が、昨夜完成しました。 友情と絆、知恵、欲の物語をお読みくださり、ありがとうございます。 (多分)最後のメッセージを投稿しましたので、よろしければご覧ください↓ https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e

創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』最終章とエピローグに、手を加えました。 友情と絆、知恵、欲の物語の大きな更新はこれで終わりです。よろしければご覧ください。 詳しくは↓ https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e

創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』第5章に、手を加えました。 友情と絆、知恵、欲の物語もあと1章+α! よろしければご覧ください。 詳しくは↓ https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e

創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』第4章に、手を加えました。 友情と絆、知恵、欲の物語はあと2章ちょっと続きます。よろしければご覧ください。 詳しくは↓ https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e

創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』第3章に、手を加えました。相当書き換えたので、前より読みやすくなっていると思います。 友情と絆、知恵、欲の物語はまだまだ続きます。 詳しくは↓ https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e

創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』第2章に、手を加えました。ずいぶん読みやすくなったと思います。 友情と絆、知恵、欲の物語はまだ続きます。 詳しくは↓ https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e

創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』第1章に、手を加えました。 詳しくは↓ https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e

聞言師の出立 第32話(完)

 空は暗い。  薄暮の光も雲間から切れ切れにしか届かない。  ——降りそうだ、まずいな。  テリュク村を発って三日。リメンの町はまだ少し先だった。  村から都までの長い道沿いには、いつのものとも知れない崩れかけの石の円塔がぽつりぽつりと立っている。村への道中、アクオは夜になるとよく身を寄せていたが、雨露を凌げるその塔もリメンを越えるまではもうない。  聞言師は外套の頭巾を被ると、足を速めた。少し嫌がるような素振りをまた見せた馬も、静かに声をかけるとおとなしく早足になる。  

聞言師の出立 第31話(第6章 4)

——————————  それからの十日間は、アクオにとって長いようで短かった。  日限を切ったのはアクオ自身だった。  まず、漂陰の残っている石を盗んだという疑いは晴れて解けた。  その詫びの印と麦枯れを治した礼として、村の一角にひっそりと立っている土蔵への出入りが許された。中には、遙か昔から連綿と受け継がれてきたさまざまな書が所狭しと置かれており、その光景にアクオは呆然と立ち尽くしたのだった。  とは言え、どれほど時間をかけても読める量ではない。しかもほとんどは、触れるこ

聞言師の出立 第30話(第6章 3)

 アクオらが村に帰り着く頃には、すでに空が赤らんでいた。  ルクトやエクテと久しぶりの湯家へ行ったアクオは、面映ゆさを味わわされた。夕食の時間なのか、ほとんどの男たちが帰り支度をしており、皆から畑の枯れ麦を治したことを荒々しく感謝されたのである。  礼を言われただけではない。身体のあちこちをさんざん叩かれ、背にくっきりとついた赤い手形をルクトにもエクテにも笑われることになった。  少年たちにも、脇腹を覆った白い傷跡を物珍しそうに触られ、くすぐったさを我慢しなければならなかった

聞言師の出立 第29話(第6章 2)

 巫の小屋は一人で住むには大きい。  独りきりだったら広い方がいいのか、狭い方がいいのか。  初めて小屋の中を見たとき、そう思ったのをアクオは覚えている。アイオーニが住んでいた一つきりの板間は、衝立で半分に分けられていた。  アクオは衝立の向こう、無数の本が散らばっている方には足を踏み入れず、手前の壁に身体をもたせかけ、聞言筆を手にした。  ぐるり。  濃い霧の中に、いつもの少女の姿がすうっと現れる。 「漂陰は来た。近くに他の漂陰の気配もあるが、大きなものはもうない」  ——

聞言師の出立 第28話(第6章 1)

6 「逃げろ!」  叫んだアクオも無我夢中で飛びすさり、漂陰の石の残骸からゆらゆらと立ちのぼる闇を凝視した。  松明の赤い光の作るどの陰よりも濃い闇がゆっくりと渦を巻き、巫の背を覆ってゆく。  見えなくなっていく巫の姿から目を引き剥がせないアクオは、気づかぬうちに聞言筆を握り締めていた。 「無駄だ」  頭の中にペティアの声が響く。 「どうにもならぬ。取り憑かれるぞ」  それでも聞言筆を突きだすアクオの腕をルクトが、フロニシが、サレオが掴んで立たせ、後ろへ引きずっていく。 「

聞言師の出立 第27話(第5章 5)

—————————— 「アクオっ!」  返事はない。  光を失った目がゆっくり閉じられていく。 「だめだ、いくな!」  ルクトは首を振りながら、熱い涙をアクオの顔に零し続けた。 「アクオいかないでくれえっ!」  力ない身体にしがみつき、耳元で名を叫ぶルクトの強く閉じた瞼に、白い光が差しこんだ。  誰か来てくれたのかと上げた顔が、明るく照らされる。 「え?」  松明の赤い灯火ではない。  光っているのはアクオの右手。  握り締められた聞言筆。 「なん——」  一閃。 「う

聞言師の出立 第26話(第5章 4)

—————————— 「手遅れになります、早く!」  叫んだアクオは〈山〉を駆けのぼっていったが、残された者たちは逡巡した。  だが、筆の中の漂陰が教えてきたということは、〈山〉で起ころうとしているのはおそらく漂陰絡みの凶事。それならば、聞言師ならぬ身でできることは多分ない。しかも、何かが起ころうとしているのなら村に知らせねばならない。  世話役たちは、アクオに言われた通り〈山〉を下りはじめた。  登れば登るほど重くなっていく〈山〉の空気に、思考も鈍らされていた。  山道の

聞言師の出立 第25話(第5章 3)

 目の前に広がった、荒涼たる白茶けた岩と砂の景色。曇り空はもう赤みがかっている。  アクオは汗も拭わず、荒い息遣いで辺りを見回す。  巫の姿はない。  右手の小屋の戸を力任せに開けるも、雑然とした家の中に人影はなかった。 「くそっ!」  生きるもののない荒れ果てた地に、アクオは視線を走らせた。  ところどころに顔を出す深黒の尖った石の中には、うっすらと漂陰の気配がするものもある。だがアクオの目がその上に留まることはなく、しきりに別のものを探し求めた。  今見つけなければならな