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なぜ「採用広報」はこんなにも流行っているのか?4つの時代背景

「採用広報」がとても流行っていますね。

昨年くらいから「人事×広報」の融解現象が盛り上がり、Twitterなどで〜@○○採用広報と名乗っている人も増えてきました。

採用広報系のイベントも多いですし、noteも本格参入してきましたね。先日のこちらの発表はびっくりしました。

キャスター、ピースオブケイクと業務提携。noteを活用した採用広報業務の一括アウトソースを実現する 「note pro for HR」を共同提供開始

採用広報という言葉をほとんど使ったことがない私にすら、「採用広報をお願いしたいです!」というご依頼がくるようになり、身をもってブームを実感しております。

しかしこんなことを思っていて、ツイートしたら少しいいねがつきました(数は少ないけど層が濃いw)。

いきなり物申すのはやめますが、今回は「なぜ今、こんなに急速に“採用広報”がブームなのか」について思っていることを淡々と書きます。


「採用のための関係づくり」が大事になった

まず前提として、「採用広報」は新しい職種ではないと思っています。

今までも人を採用するにあたってPR(Public Relations)の視点は欠かせなかったし、私もPRの人の立場から採用目的の施策をお手伝いしたこともあります。

特に中小企業・ベンチャー・スタートアップにおいては、「採用」はほぼ例外なく優先度の高い課題です。今まではその課題にたいしてやることにはセオリーがあったので、やることをやっていればよかったのが、時代が変わって複雑怪奇になりました。だから今までと同じことをやっていると置いていかれる。

あらゆるPRのステークホルダーのなかでも、とくにコミュニケーションを頑張らないといけない対象として「採用候補者(※便宜上そう呼ぶ)」が浮かび上がってきて、経営者や人事にもPRの発想が届いたという感じかなと。

「“採用広報”が大事になった」のではなく「採用のために今まで以上にコミュニケーションを考えないといけなくなった」というのが正解。

採用広報の定義は人それぞれだと思うけど、最近は「情報発信が大事だ!コンテンツ制作だ!」という空気になってきていて焦りますね。Googleで【採用広報】と検索すると、けっこう「違くね?」という記事が出てくるのでだいぶ焦ります。。

本当に焦ったので、まずは前座的に、時代背景を4つにわけて整理しておきます。


背景1. 転職が当たり前になり、「採用候補者」の母数が爆増した

今に始まったことではないですが、転職が珍しいことではなくなりました。

日本では「転職」をネガティブに捉える空気もありましたが、最近はそんなこともありません。むしろ、定年まで一度も転職しない人のほうがレアになってきています。

これは、1人の人間が一生涯に勤める会社の平均数が増えたということで、すなわち、見込み採用者(※)の延べ人数が爆増したと捉えられます。(※便宜上この言葉を使っていますが、要は「自分が一員になる可能性を少しでも含んで“会社”を見ている人」はすべてここに該当します)

今すぐ転職したいわけでなくても、今はその会社のことを知らなくても、
何かのきっかけである企業に興味をもつかもしれない。ほとんど全労働人口をステークホルダーとして見なければならない時代になったといえますね。

こうなると「自社のことを“働く先”として見てくれる人(今見ている人も、過去に見てくれていた人も)」へのリレーションは一貫して行われるべきになってきます。

採用する前(見込み採用者)

採用してから退職するまで(従業員)

退職したあと(アルムナイ※)


※アルムナイ……アメリカのコンサル企業などを発端に、企業の離職者をアルムナイ(英 alumni:卒業生、同窓生の意)と呼んでネットワーク化し、辞めてしまったあとも関係を保ち続ける動きが増えているよ

こんな感じで、ポイントは退職後まで含まれていること。最近では、退職マネジメントとかも注目されるようになっています。

辞めるのが当たり前の時代なので、辞めた人も「資産」として活用していかない手はありませんね。一貫した細やかなコミュニケーションが求められます。


背景2. 採用候補者に情報を届けるメディアが多様化した

それに伴って、彼らに情報を届けるための媒体が多様化しました。

かつては企業が人を採用したければ、求人サイトでの書き方を工夫するくらいしかできることがありませんでした。

私も2013年頃に求人コピーライターをしていたことがありますが、ほんとに、“限られた掲載スペースでいかに魅力を伝えるか勝負”なんですよね。求人広告はあくまで「広告」なんです。

「広告ではなく広報を」って、まさにプロダクトのほうで2008〜2013年頃に起こった流れです。広告で一方的にメッセージを伝えるのはやめて、第三者(メディア)の視点を通して情報を世の中に伝えていきましょう〜、というやつ。それが、ちょっと遅れて採用にもやってきただけですね。


最近では、いわゆる採用広報的なコミュニケーションに適したメディアがたくさんあります。キャリア系に特化したメディアもあるし、一般メディアにも「企業で働く人」にフォーカスした連載が設けられたりしています。

PR Tableさんは企業ストーリーの先駆者的存在ですし、最近はForbesさんもForbes CAREERというキャリア領域のメディアをローンチしました。

さらに、オウンドメディアやnoteなどでの「自分たち起点」で情報を伝えられるメディアも増えました。PRや広報は“発信するだけ”の活動ではありませんが、最終的なアウトプットとして発信が大事なのは事実です。

出し先のメディアが多様化したことは、大きな影響があるといえます。人々は、企業の中の情報に飢えているのですね!


背景3. 個人メディアの時代になり、透明性が求められるようになった

さらに、個人メディアの広がりに伴う透明性の高まりがあります。

SNSが出てきたのはもう10年以上前ですが、企業で働く個人が名前や所属をオープンにして発信するようになったのは、ようやくここ2〜3年くらいのことだと思います。

2018年前半には「実名顔出し人事」も話題になり、最近はSNSでの発信をむしろ推奨する企業も出てきています。

そうなると、自社の評判などの情報コントロールが今まで以上に難しくなり、嘘や隠しごとが効かなくなります。良い面だけを見せてキラキラと取り繕ってもすぐにバレちゃいますよ。


退職エントリがバズる流れがわかりやすいです。

今まで、辞めた人が考えや意見を発信することはタブーとされていた雰囲気がありましたが、皮肉にも実際はそういう「ナマの声」こそ今一番求められているコンテンツだったりします。これまで当たり前とされていた慣習が効かなくなるくらい、透明性を世の中が求めているというのは事実です。

採用広報的なコミュニケーションが上手な会社は、残った社員たちが辞めていった人の退職エントリをポジティブにシェアします。となると、在職中はもちろん退職後までポジティブな情報が出ていくようなコミュニケーション設計がますます必要になってきます。

さらには、その会社の社員でもないのに勝手におすすめしてくれる「ファン」のような存在も大切にすべきです。採用広報的なコミュニケーションの最終目的は「採用すること」ですが、そこにたどり着くまでのあらゆる回り道もしっかり観察しなければなりません。

「採用したい人」だけをターゲットにしていては、まだまだと言えます。採用しない人までファンにさせて、勝手に「あの会社なんか最近いいよね〜」という空気づくりをしてこそ、真の採用広報ですね。(本当はPRなんですけどね)


背景4. 働き方が多様になり、選択の基準が複雑になった

昭和からつい最近まで続いた価値観として、やっぱり給与や待遇が大事だし、昇進することこそがサラリーマンの成功でした。

ですが最近は働き方が多様になり、人それぞれ価値観や求めるものが違います。

これまでどおり給与をモチベーションにする人もいれば、一緒に働く仲間が何より大事という人もいる。リモートワークや時短勤務ができるかどうか、週3日や週4日というイレギュラーな勤務体系が認められるかどうかで選ぶ人もいます。

業務で使うコミュニケーションツールすら、就職先を選ぶ条件に入るようになってきました。5年くらい前まではほとんどの会社で「メールと電話」が中心でしたが、最近では「Slackなどのチャットベースの文化が根づいてないと厳しい」と必須条件に含める若者は多いです。

フリードリンクがあるとか、託児スペースがあるとか、福利厚生としてマッチングアプリの登録代がサポートされるとか、書籍代やセミナー受講代をどれだけ出してくれるのかとか。

こういう細かい条件って、求人票に箇条書きにするようなものでもないですよね。具体的エピソードと一緒にストーリーとして伝えていくことで、やっと自分ゴト化できることです。

「こんなふうに働いてるんだ」というリアルな様子をどう伝えるかは、従来の求人媒体が追いつけていないところです。今までは面接で聞いてみたり、入社前にランチなどをセッティングしてもらったりして感じ取るしかありませんでした。

家探しと似たようなもので、譲れない条件・できれば欲しい条件・最低諦められる条件が人それぞれ分類され、複雑に絡み合ってきます。細かい部分まで表に出す企業が増えれば増えるほど、それを出さない企業が相対的に不利になり、選定の俎上にすら上げてもらえなくなります。

だから、もっとオープンにしなければ!という意識が高まってきたんだと思います。


さいごに:PRプランニング全体のなかで“採用”も考える

以上4つの理由から、特に小さい企業が採用活動をするために、「PR活動全体のなかの“採用”をゴールとした活動」の需要が急に高まったように見えるのかなと。

ただ、これは若干嫌味っぽいですが、Public Relationsのさまざまなステークホルダーのなかに「“採用広報”のターゲットっぽい人たち」が含まれるのはわりと当然のことでした。だから「採用広報(だけ)をやってほしい」というご依頼は、実質的に不可能な気がするのですみませんがお断りしています。

社内の雰囲気や社員のストーリーだけ発信していても、本質的な活動にはならないと思います。人が会社に入社したいと思うトリガーは、必ずしもそういうこととは限らないからです。

コーポレートやプロダクトの要素ももちろん影響するし、会社全体の動きかたとの連動は必須。パッと見は採用施策に見えないことだって、遠回りに採用に効いていることも全然あります。

「採用広報=社員の情報発信」と思われて、それが疑いなくどんどん広まっていることに、わりと恐怖感を覚えています。。

「採用広報を専門とする人材」というのも本質的には存在しないんじゃないかな?というあたりの話を、また次回したいです。本音を出しすぎて叩かれないように気をつけたいと思います。

おわり。

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