【洒落怖漢譯】一夫爲影(原題:不明)

譯文

昔時淡季,客能登舎館。其房舊而有珍羞、靈泉。夜更,欲再入湯,出而歩廊,有一夫亦歩向我。相瞥而過。數歩之後,鞏音俄已。異之反顧,見其形爲漆黒而墨入地板之間。

引用元:短くて讀みやすい怖い話【3】全10話 – 洒落怖 ショートショート の2

書き下し文と語彙解説

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昔時せきじ淡季たんき、能登の舎館しやくわんかくたり。其の房きうにして珍羞ちんしう靈泉れいせん有り。夜更けて、再び湯に入らんと欲す、出でゝらうを歩くに、一夫のた歩きて我にむかふ有り。相ひべつしてぐ。數歩すうほの後、鞏音きようおんにはかにむ。之をとして反顧はんこすれば、其のかたちの漆黒とりて地板ぢばんの間に墨入ぼくにふするを見る。

○昔時:むかし。 ○淡季:[現代漢語]オフシーズン。 ○舎館:民宿、旅館。 ○客…:…に客として身を寄せる。 ○房:部屋。 ○舊:古びてゐる。 ○珍羞:上手い珍味。 ○靈泉:上質な温泉。 ○廊:廊下。 ○瞥:ちらりと見る。 ○鞏音:足音。 ○俄:急に。 ○已:とまる。 ○異…:…を奇妙に思ふ。 ○反顧:ふり返る。 ○形:すがた、かたち。 ○地板:[現代漢語]床板。 ○墨入:「墨」は副詞で、「まるで墨のやうに黒く」。すなはち「眞つ黒になつて入つて行つた」。


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