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おれは三体を黒暗森林まで読んだ結果、これは3部作の完訳を待たずして今すぐ読んで良いということを声高に主張したくなった。

『三体Ⅱ 黒暗森林』を読んだ。宇宙に浪漫を感じるなら読んだほうがいい。しかも、読むなら今だ。

三体は中華SFであり、最近中華SFはアツい。作品自体はおよそ10年前のものだが、日本語版の一作目が発売されたのが2019年のことになる。本屋でもたくさん置かれているので目にした人も多いだろう。2015年にヒューゴー賞を受賞したが、英語以外で書かれた作品がヒューゴー賞長編部門を受賞するのは史上初であった。

作品自体は三部作となっており、日本語訳が出ているのは二作目までである。二作目の時点ですでに上下巻になっており、一作目の1.5倍ぐらいの分量。三作目はさらに分厚く一作目の倍ぐらいの長さがあるらしい。

三体が三部作だと知っている者は、全部翻訳されてからでいいや、などと思いがちだ。話が途中で終わってしまっては困るからだ。だいたい三部作の真ん中というのは不吉だ邪悪な敵が自分の父親だと発覚して、心身とも傷ついたりするし、友達がカチコチの石板みたいなものにされ、この先どうなるか全然わからない状態で話が終わる。そういう危険地帯なのだ。アイアムユアファーザー・・・そういうやつだ。

おれも、最初はそう思っていた。しかし、そうやって、全部そろったら買おうなどと思っているうちに、人は、生活資金を得るためのクソのような仕事に追われ、JPYをマイニングし、スマホゲーに多大な時間を費やしてすっかり読書を忘れ、三体・・・そういえばそういうのもあったな・・・とか言いながら、Superドライを飲んでTVショウをみて寝るだけの日々を過ごしてしまう。人生はいつもそうだ。

しかし『三体Ⅱ 黒暗森林』は一味違う。おれも途中までは、物語内で起こる事態の解決がまったく見えてこなかったので、やはり、三部作はそろってから読むもの・・・などと100回ぐらい思ったが、忍耐強く読み進めた結果、なんと、話がめちゃくちゃキリよく終わった。驚くべきことだ。どちらかというと、さらにこの後つづきがあるということが信じられないぐらいだ。つまり、邦訳が完結していないことを理由に読むのを躊躇している人がいたとしたら、全く心配いらないから、今すぐ全部買って読むべきだ。

要約すると、今日おれの言いたいことはそれだけだ。今読めば、三体Ⅲを楽しみにして1年ぐらいは元気に過ごせるだろう。すぐ読めばそういう効果も得られる。


以下は、内容について頭に浮かんだことを適当に書いておく。ある程度中身を確認してから読みたい人の役に立てば幸いだ。

大雑把に言うと、一作目『三体』は巨大な序章だ。しょっぱなの話がどう宇宙につながっていくのか全然わからないかもしれないが、我慢してとりあえず読み進めればあとは何とかなる。

『三体Ⅱ 黒暗森林』に突入すると、サスペンスめいたSFとして面白くなってくるので、何の心配もなく読み進められるだろう。



多少ネタバレしたからといって、すぐれた作品の面白さは損なわれない。しかし、世の中にはまったく予備知識なしで作品を楽しみたいという人もいるだろう。おれはどちらかというとそっち派だ。そういうやつは、イチかバチか、アマゾンの紹介文すら読まずに邪悪な1クリックで買うボタンを押すべきだ。特に、黒暗森林の紹介文を読むと、それまでのあらすじが大まかにわかってしまうので、見ないで押す。もしくは、本屋で黙って買うことが推奨される。また、この記事は、あくまでも三体Ⅱを読了した時点までのおれの思い込みにより書かれており、三体Ⅲを読んだら全く話が違っているという可能性も無きにしもあらず、というか、おれも若干それを期待しているふしがあることを予め考慮に入れておいてもらいたい。



「三体」(地球往時)

一作目は、天体物理学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)、ナノテク素材の研究者・汪淼(ワン・ミャオ)の2人の人物を軸として描かれる。あっさり言ってしまうと、この一作目自体が一冊丸ごと前フリになる。贅沢だ。

舞台は、文化大革命の時代(1976年)から始まり、最初は物語の全貌がまったく分からない。おれは2019年にこの本を買った時は、このひさんな過去のパートを途中まで読んで、全く何の話か分からず一回挫折してしまった。予備知識不要勢の弱点が完全に出てしまったということだ。

最近になり二作目の邦訳が出たのでおれはようやく三体を所有していたことを思い出し、改めて読んだ。忍耐強く読み進めると、次第にこの文革とかのはなしは、どうも前フリの中でもさらに前フリのパートらしいぞということを感じ始めた。思ったより長かっただけだ。ここを突破した後は何の苦も無く読むことができる。

なんでも、このシーンをどこに持ってくるかで中国のヤヤコシイ事情が絡み、原作と翻訳版では多少順番が異なるらしいが、予備知識なしでいきなり読まされると挫折するやつは結構いそうだ。離脱率を調査したら何割かここで挫折しているに違いない。しかし、葉文潔(イエ・ウェンジエ)を理解する上で、必要なパートではある。このお世辞にも気持ちいいとは言えないパートが、開始から9%地点ぐらいまで続く。これは長めのプロローグだと思って、わからないままとにかく読み進めるところだと思ってもらいたい。なんなら一回飛ばしてもいいぐらいだ。

「三体」パートに入ってやっと汪淼(ワン・ミャオ)が登場し、時は40数年後、すなわち現代に移る。ここからが話の本番だ。

この話の主人公は、登場するや否や早々に拉致される運命にある。突然、国家機関めいたものが訪ねてきたらそいつが主人公だと思っていい。おれはもうすでに、主人公たるものいきなり面倒ごとに巻き込まれないといけないものだとすら思い始めている。

訪ねてきたのはガラの悪い警官、史強だ。こういうキャラはたまにちょいやくのモブにも出てくるやつだが、読み進めると、しばらくこいつが登場し続け、結構いいセリフをもらっていることに気づく。そう、そういうやつはたいてい真の仲間・・・つまり史強も真の仲間だ。なお経験上、真の仲間キャラは、いずれ死ぬやつと死なないやつにわかれるが、それについては述べないでおこう。

何しろ、これは現代のはなしなので、ご多分に漏れず、エライさんは会議ばかりしているようだ、世の中の会議の99%は無駄であるが、本作の中の会議は無駄な雰囲気をかもしつつも重要だ。汪淼(ワン・ミャオ)はそこで、科学者に危機が訪れていることをいきなり知らされ「科学フロンティア」なるいかがわしい組織を調べることを命ぜられ、そして、まあ物語としてはごく当たり前のことだが、奇妙な事件に巻き込まれていく。

この後ずっと変なことがつづく。変なカウントダウンが空に見えたり、ちょっとイってしまっているサイエンティストがわけのわからないことを言ったり、わけのわからない天文現象が発生したりして、そして不思議なVRゲーム「三体」の話が始まる。予測不能の三つの恒星の運動に翻弄される惑星の物語だ。

ずっとそんな調子で、奇妙な話ばかりだ。時折、葉文潔(イエ・ウェンジエ)の過去の話に戻ったり、「三体」の世界に行ったり、現実に戻ったり。そうしているうちに、だんだんと話の筋が見えてくる。奇妙な出来事は全て、その背後で現在も進行している、人類にとって脅威となる出来事の片りんだったのだ。

そのあと話は盛り上がり、ちょっとした?クライマックスを迎え、そして恐ろしい事実が明らかとなり、一作目は終わる。一作目ではほとんど何の問題も解決しない。めちゃくちゃ続きが気になる状態で突然放り出される。おれは、すぐさま二作目を上下巻ともポチり、広い宇宙の旅を続けることにした。

ひたすら長い序章なうえに、不思議な話がたくさん書いてあるので、最初に読んだときはあんまりわからないかもしれない。ただ、今おれがこれを書きながらザっと中身を振り返ったところ、どこかしこに「そういうことだったのか」という発見があった。あまりにもわからなければ、いっそもう一回読むつもりであまり細部には気にしないで読み進めるのがコツかもしれない。


「三体Ⅱ」(黒暗森林)

実は、一作目のあらすじは、最初に言った通り、アマゾンの紹介文におおかた書いてある。よって、以下は、基本的にその範囲はしゃべってもいいだろうという考えによって書かれている。

一作目は壮大な序章だった。しかし、二作目では、物語は解決へと向かって大きく動いていく。

現状の話をまとめると、要するに人類世界は、三体世界から目をつけられていて、侵略軍は既に太陽系に向かっている。到着するには結構時間がかかる。そこで、抜け目ない三体世界は、どういう理屈かはともかく、智子(ソフォン)という十一次元の陽子を改造した、原子よりも小さいスーパーコンピュータを先行して地球に送り込んでおり、科学の発達を邪魔するうえに、あらゆる情報を盗み聞きしている。テクノロジーの差が詰まらない以上、人類に勝ち目はない、といった状況だ。

二作目の、なぞめいたプロローグみたいなパートが終わった後、最初は軍人めいたやつのはなしから始まる。おれはこの時点で、きっとSFらしく宇宙艦隊とのバトルなどでこいつが主人公として活躍するのだろうか、などと想像していた。

しかし、しばらく読み進めると、まもなく、ロクでなしっぽい羅輯(ルオ・ジー)とか言うぽっと出のやつが出てきた。こいつはどうやらインテリだ。しかし、大してやる気もなく生きていて、これといった業績もないぱっとしないやつで、女と遊んだりしている。

おれはあやしいぞと思った。だいたいこういうやつは主人公か、クライマックスでいい仕事をして死んでいくやつのどっちかだ。いずれせよ、話の重要人物であることには間違いない。

こいつも変な事件に巻き込まれ、まもなく拉致された。そしてタフガイ史強と知り合った。おれはこの時点で8割がたこいつが今回の主人公らしいと確信した。おれは最初、汪淼(ワン・ミャオ)がどこに行ったのかずっと気になっていたが、結局いつまでも出てこないのでナノテクのことは忘れていい。これからは、この「ぽっと出」がおまえの相棒となる。

人類社会は三体世界が送り込んできた智子(ソフォン)が常時監視しているため、対抗計画が全部筒抜けになってしまうという問題がある。そこで、人類は、ウォールフェイサー(面壁者)なる者たちを選定し、絶大な権力を与え、そいつらに三体世界との戦いの準備をまかせることにした。

ウォールフェイサーは、真意を隠したまま相当なカネを動かすことが認められている。言葉にされていない真意までは智子(ソフォン)もわからない。そうすれば、三体世界を出し抜くための思い切った作戦を実行できるかもしれない、というわけだ。当然、ウォールフェイサーには基本的にそうそうたるメンバーが選ばれるわけだが、なぜかそこに「ぽっと出」も含まれることになる。明らかに特別扱いだ。

ここで、もしかしたら、ところでこいつ誰だっけ?となるかも知れない。おれはなった。繰り返しているとおり、こいつはぽっと出のやつだ。念のため一作目を読み返したりする必要はなく、強いて言うなら、プロローグを読み返してみるぐらいだ。

そんな「ぽっと出」に何ができるのか?それを我々は地球人類の大多数と同様に、ハラハラしながら見守ることになる。そういうサスペンスめいた雰囲気をまといながらストーリーは進行する。

ウォールフェイサーが内心なにを考えているのか、ということが描かれないのがみそだ。読者はその辺を想像しながら物語を読み進めることになるわけで、めちゃくちゃ頭がいい人は、もしかしたら、ウォールフェイサーの考えを予想するという遊びもできるのかも知れない。おれはまったくわからなかった。

結局、最後らへんまで、真相は明らかにされないまま進んでいく。途中で、人類と読者はなんども絶望することになるが、結末はちゃんと用意されていて、道半ばで放り出されるようなことはない。結末が気に入るかどうかは人によると思うが、おれはなかなかよかったのではないかと思っている。

最終的におれはロクでなしのぽっと出のこともそこそこ気に入った。タフガイ史強とか魅力的なキャラクターも出てくる。文革時代のモブはともかく、あんまり嫌な奴が出てこないのは、この話のなかなかいいところなんじゃないかとおれは思っている。


もっと素晴らしい解説は、ハヤカワとか他の素晴らしいノートとかを見てほしい。おれは素人なりにこの作品を楽しんだ。気の利いたことは言えなくても、楽しんだという声をネットに残しておくことがおれの使命だと思うぐらいには、この作品を気に入ったということだ。

とりあえず、三体を読んでいないことには話にならない。いずれそうなるべき作品だろう。是非手に取ってもらいたい。


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