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おれはインターネットで見かけた、清志郎の『ロックで独立する方法』にピンと来たので、さっそく購入し、おれの中の精神論に火をつけた

忌野清志郎『ロックで独立する方法』(新潮文庫版)

■おれは大学の時に「ロック」を標榜する部活に所属していた。よくある中二病をこじらせたようなクラブで、いちおう音楽もやらないではないが、精神がロックであることが重んじられるという、まあなんというか学生らしいクラブであった。

もちろん、ほとんどのやつはバンドとかして青春したいだけなので、部活の外では普通の学生だ。ある時たまたま、我々について、「バンド」をしているのでも「ロック」をしているのでもなく「部活」をしているのだ、と表現した同回生がいた。練習中だったので、「ええ!?」みたいなノリではあったが、ふっと目が覚めたように「確かにそうだよな」と大いに笑いあったものだ。

一応サークルではなく部活なので、それなりに体育会っぽさもあった。演奏技術も当然そこそこ重視はされたが、やはり精神論が重んじられるというのが、古今東西変わらぬマッチョな組織の特徴だ。我々は「ロック」を体現することに熱中しすぎて、学部に8年ぐらいいるような伝説クラスのパイセンなどを適度に敬ったりしつつ、学生生活を謳歌したのだ。

というと「おれはそういう子供じみたたことからは、クールに距離を取ってたぜ」という雰囲気になるが、実際はそうではない。おれはそういうのを拗らせやすいタイプで、いわば精神的ロックというものにすっかりとらわれてしまったのだ。はや何十年も経つ。部活は少々面倒なことがあって早々に辞めてしまったのだが。

しかし、部活のレジェンドたちもやがては大学を去る。めちゃくちゃギターがうまかろうが、カリスマ的であろうが何だろうが、案外あっさりと「いいとこの会社」に就職しちゃったりするのである。数日前まで、口を開けば「ロック」と言っていたような人間が、あっさりスーツをきてネクタイを締めてしまう。そんなことでいいのだろうか。そういうことを思ったものである。

ゴリゴリに「ロック」を求めていた者たちの多くは、なぜかあっさりと「トーショーイチブ」であったり「コームイン」になったりしてしまった。バイバイロックンロール、ハロー社会人。不思議な話だ。自分は、その時思った・・・「ああは、なるまい」と・・・それが、基本的には多くの間違いの出発点となってしまったわけである。

おれは、なぞの「ロック」組織への短い所属期間を通じて、結局は2つのことを学んだ。「いやなことはやめるに限る」と「ロックであり続けること」だ。ちなみに、どちらも完全にはできていない。その中途半端さも含めて、迷子になりがちな人生の主たる原因となってしまったので、やはり親御さん方には、子どもにロックなどという危険物を与えないことを強くお勧めするところである。

なお、誤解が無いように言っておくが、おれは、世間ではどちらかというと常識人のカテゴリーに入っている。おれにとっての「ロック」というものは、いつの間にか高度に抽象化され、独自のアレンジが施された結果、奇妙にねじれた複雑で繊細なものになっているのだ。よって、その辺を安易に指摘してはいけないし、追及してもいけない。


■「ロックで独立する」というのは、色んな意味が込められた言葉だ。「ロックで独立」とはなんだろう。それは、この本を作った清志郎自身にも完全にはわかっていなかったようだ。よくわからない部分もあるが、そんなような話をしてみよう、そんなコンセプトで作られた本である。

「独立する」それはある部分は「自由」ということを意味する。「自由」は大事だ。自分は「自由」を重んじる精神を重視するという理由で、頑固に新幹線の「自由席」に座り続けていた時期もあるぐらい「自由」というものに強いあこがれを抱いている。ちなみに、実際のところは「自由席」に座るためには、始発駅から乗る必要があったり、ハイシーズンには、2列車分ぐらいホームで並ばないと座れなかったりもするので、「自由席」に座るほうがむしろ「不自由」にも見えるという矛盾を抱えている。

「自由」を自分のものにするのは大変だ。それが「自由」なのかどうかも実のところよくわからない。でも「おれがそうすると決めたことだから」。これがイチバン大事な事なんだ。些細なことだと思うかもしれないけど、決められた席に座る習慣が、大事なことを忘れさせてしまうこともある。その危険をあなどってはいけない。

ロックスターになると、何か独立した者になれるような気がする。しかし、実際は、非常に多くのステークホルダーに囲まれてしまうことになる。何かから独立すると、また独立しなければならない何かにとらわれてしまうのだ。そういったものをひとつひとつ乗り越えて、「ロックで独立する」の実践を続けてきた清志郎の言葉にはやはり色々と感じるところがある。

この本には「答え」は書かれていないように感じる。書かれているのは「こういうことはわかった」「この部分についてはこういうことがあるとわかった」そんな断片だ。独立とは・・・自由とは・・・そして宇宙とは・・・。それは人によって異なるので、「答え」を示すことは難しい。しかし、偉大な先人が、どういうふうに探そうとしたか、どうたどり着こうとしたか。それを知ることは、自分にとっての「独立」や「自由」を目指すヒントになる。

結局「自由」というものは、どこかたどり着いた先にある特定の場所やステータスみたいなものではなく、「不自由」と常に向きあい、なんとかしてそれを片付けてやろうという、コトやムーブメントがその正体なのかもしれない。そのためには「独立する」を続けていくしかない。いや、単純にそれではだめで、もしかしたら「ロックで独立する」という不思議な言葉でしか示せない何かが、まさしく答えなのか。

人生迷子になりたい人は、ぜひ手に取ってみるべき本である。


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