毒見屋に行ってきた

東京、自由が丘。

今でこそおしゃれの象徴のような形でもてはやされているが、実は戦後に闇市として栄えた町であり、
現在でもその名残を感じられる商店街や横丁、裏路地が多く残っている。

今回はその中でもひときわディープな店のお話。



その店は道を知っているものでなければまずわからないであろう裏路地にある。看板などもなく、完全に一見さんお断りといった雰囲気である。
筆者は毎週のようにこの町を徘徊しているが、知人の紹介がなければ存在すら知らなかっただろう。

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恐る恐る扉を開けると店内には外国人客二人とOLっぽい女性客が一人、なにやら楽しそうに話している。

席に着くと店員さんに「初めてですか?」と聞かれ、そうだと答えるとなにやら誓約書のようなものを出してきた。




……そういえば店の説明をしていなかった。
ここは様々な種類の毒を人体に影響がないレベルで希釈、もしくは味などを再現して提供する店である。誰でもお手軽に痺れなどの効果を体験できるわけだ。
つまり、前回のジビエに続き保健所の申請あれこれとか色々心配なってくるタイプの店である。

安全面に配慮しているとはいえ、毒は毒なのでこうして誓約書を書かされるのは当然の流れといえよう。

複数種の毒を摂取すると思わぬ作用が出ることがあるので、試せるのは一種類のみとのこと。再現系は問題ないらしい。

ていうか再現できるってことは本物の味を知っているということであって、マジで店主何者だよ。




さて、署名をしたらいよいよ毒見体験。
今回は初めてということもあって、初心者におすすめらしい「セントジョーンズワート」という植物にしてみた。うつ病の薬として使われることもあるそうだ。
これはたばこのように巻いて吸うタイプのものらしい。

煙草慣れしていない人間からすると相当煙がきつく、かなり苦戦したが、しばらく吸っていると首から上が熱くなってきた。
頬が火照り、楽しくなってくる。「のぼせ」に近い感じだ。
自然と周囲の客との会話も盛り上がる。

…熊は左手よりも蜂蜜をなめる右手のほうが旨いらしい。左利きの熊っていないのかな。





正直この日はこれでおしまいでもよかったのだが、どうせならということでテトロドトキシンの再現も試してみることにした。ふぐで有名なやつね。

これに関してはたばこ系ではなく液体で出てくるだろうなということは予測していたのだが、奥から「テトロドトキシン」と書かれた業務用調理酒のようなボトルが登場したときは笑ってしまった。
飲食店のカウンターにこれほど似合わないフレーズもないだろうな。



おちょこに注がれた液体を一気飲みする。

いやーこれは凄かった。
本物の毒ではないはずなのにちゃんと舌がしびれるし、足元も若干ふらつく。
ちなみに、あたりまえだけど呼吸困難とかの症状は再現してない。
それだと臨死体験になっちゃうからね。



ほかにもいろいろと試してみたいものはあったのだけれど、これ以上はどれがどの症状かわからなくなってくるし、そもそも自力で家まで帰れるか怪しかったのでここでストップ。

隣の客が注文していた硫黄系のカクテルなんかは提供前のパフォーマンスとして、希釈前の原液に銀のスプーンを入れて黒く変色するところを見せてくれる……


これ知ってる!薬屋のひとりごと と Dr.Stone で読んだやつだ!マジで黒くなるんだ!

最高にイカしていたので次回は是非挑戦したい。


効果が落ち着くまでしばらく談笑して、僕は店を後にした。


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まぁ、嘘なんですけど。(4月1日執筆)

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