「自由進度学習」、公教育で広がる。   他地域&学校に広げるためのヒント〜一問一答〜      広島・廿日市市立宮園小での実践事例③

広島県廿日市市立宮園小学校で実践されている、【自由進度学習】
文字通り、子どもたち自身が授業の進度を自由に決めることができるスタイルです。

授業と言えば、「1人の教員が数十人の児童生徒に対して、一律の内容を一斉に教授する」形式が一般的。
これとは一線を画す新しい授業の形として
また、【個別最適な学び】【協働的な学び】の一形態としても注目を集めているのが、自由進度学習です。

面展開できてこそ、公教育の発展につながる!

先ごろ開催された文科省の有識者会議では、自由進度学習を取り入れている広島県廿日市市立宮園小学校における実践事例が、中谷一志校長により報告されました(詳細は参照)。
報告後は各委員から、取り組みに対する賛同の声と共に、質問が多数挙がりました。
各質問の焦点は【自由進度学習のような革新的な取り組みを、他の地域・学校にも広げていくために有効な手立ては何か】
その模様を一問一答形式でお伝えします。(質問は各委員、回答は中谷校長)

Q.自由進度学習について、行政主導の面展開はどのように進んでいるのか、また進む可能性があるか。

A.廿日市市については、本校のほかにもう1校が自由進度学習に取り組み始めた。
そのほかは、まだまだといったところ。
県による面的広がりについては、本校を参観した学校が十数校、取り組み始めたと聞いているが、まだ数としては圧倒的に少ないかなと思っている。

Q.授業づくりやファシリテーションなど、自由進度学習は通常の授業よりもずっと手が掛かる印象。どれくらいの学級規模であればやりやすいか、肌感覚でいいので教えてほしい。

A.本校は1学級35人ほど。教員たちががんばってくれているが、もう少し人数が少ないといい(=やりやすい)な、というのが本音ではある。
ただ、自由進度学習では子どもたち自身が自然と協働して学ぶので、その意味では人数がある程度いた方がいい。
結論としては、肌感覚で25〜30人くらいがいいかな、とは思う。

算数・理科との相性良し。国語・社会でも挑戦中

Q.自由進度学習を実践しやすい教科はあるか。

A.算数は、自由進度学習に必ず取り入れている。これまでの研究の蓄積があるから(やりやすい)。
ほかに、理科も取り入れることが多い。理由は、操作や実験を何度でも繰り返せるから。
通常の授業では、実験はグループで1回行って終了だが、自由進度学習では何度でも行える。1回やってうまくいかず、また今日も実験している…という子もいる。
また、国語や社会についても(自由進度学習の実践に)チャレンジしている学年もある。

余剰スペースを保有する優位性

Q.空き教室や廊下など、教室外の空間も活用しながら実践されている様子。
余剰空間などがない学校で自由進度学習を展開する際の、代替案があれば教えてほしい。

A.空き教室があるなどして学校空間に余裕があれば、授業ごとに片付けなくてもいい、休憩時間中も使える、といったメリットがある。
余剰空間のない学校では、例えば廊下や理科室などを(自由進度学習のために)一定期間占有する、といったやり方があるのではないか。
また今後、校舎を新規に建設する際、(自由進度学習などを念頭に)余剰スペースの確保を意識することはとても重要だと思う。

1・2年生でも実践中

Q.自由進度学習との相性がいい学年について。低学年でも実践できるか。

A.自由進度学習に取り組んだ初年度は《3年生から》としていたが、昨年1年生を担任していた教員から「挑戦したい」との声が挙がった。
そこで試行してみたところ、「できるんだ!」という手応えをつかみ、今年度の2学期後半からは1・2年生においても本格的に実施し始めた。

どこに異動しても使える力に

Q.授業づくりの方法について。

A.(教員たちが)やっているのはごく基本的なこと。まず学習指導要領を読み込み、その狙いをしっかり汲み取る。その上で、各単元でどのような力をつければいいかということを確認する。
もう1つは、(教科書を発行する)全社の教科書をそろえて比較研究すること。
具体的には、各社の教科書に共通している要素や、教科書ごとの特色に着目しながら、学習コーナーの制作に反映させることを常にベースとしている。
授業づくりに関してはそういうサイクルを確立している。これは教員たちにとって、今後どの学校に異動しても生きて使える力になる、とわたしは思っている。

そもそも「授業改善したい」と考えているか?

【自由進度学習を横展開するためには?】という観点から、たくさんの質問が挙がりましたが
中谷校長は、まず【教員たちの意識が授業改善に向いていること】
自由進度学習を実践する際の前提になる、と指摘。
その意識が教員間で共有されていない状態で取り組み始めることは、「危険だとすら思う」と強調しました。

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《公教育の改革》という文脈で考えると、子どもたち主体の学びをいかに横展開するか、ということこそが重要だと思います。
その意味では、有識者会議でのこの最後の質疑応答が最も実りある時間だったように感じました。

最近思うのは、よりよい公教育を目指す際に、保護者サイドからはどのようなアプローチが可能なのだろう、ということ。
向上心のある現場の教員の方々と、学校教育に前向きな意味で関心を寄せる保護者たちが接点をもつにはどのような手立てがあるのだろうか…と模索しています。
具体的にはまだわかりませんが、保護者の方々にとってはその一助になりうると思うので、文科省の政策動向にぜひ関心をもってほしいです。

亀ペースですが、わたしも発信を続けていこうと思います!


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