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映画「呪いの館 血をすう眼」_今なお色褪せない、岸田森の和製吸血鬼。

現在、Amazon Prime ビデオにてプライム会員特典としてお蔵出しされている東宝特撮作品群。「ゴジラ」シリーズはもちろんのこと、「ゴラス」「海底軍艦」「ガス人間第一号」といった佳作もあって、嬉しいところ。

ラインナップの中でも異彩を放つのが、「血を吸う眼」シリーズ三部作だろう。
ゾンビ映画もオカルト映画も草創期、日本ではまだブームすら起こっておらず、本邦において恐怖映画といえば怪談ものorモンスターが驚かすものと、ある種牧歌的な時代だった70年代初頭、当時イギリス発で人気を博していたハマー・プロの吸血鬼ものに影響を受けた作品だ。
吸血鬼という極めて西洋的で乾いた素材を、日本という(いま以上にさらに)湿った土地に見事に着地させた、作り手の手腕はただものではない。

全3作の中で、いちばん出来が良いのは「血を吸う眼」だろう。
洋館に住む吸血鬼、迷い込み恐怖する主人公…これだけ聞くと、ややアナクロだけれども、岡本喜八の助監督を長らく務めた山本迪夫のテンポ良い演出、そして岸田森のショッカーぶりが見どころだ。


あらすじ

画家志望の秋子は少女時代に見た夢に悩まされていた。それは美しい夕焼けを背景に洋館に迷い込んだ彼女が、花嫁の生き血を吸う青年に出会うというものだった。その青年の眼があまりにも恐ろしくて、トラウマになっていたのだ。或る日、彼女が暮らす湖畔の別荘に棺が届けられる。そして、彼女の見た夢が、実は夢ではなかったことが次第に明らかとなる.....。

本作の成功は、なんといっても、吸血鬼に扮した岸田森によるところが大きい。
大の酒好きだったこともあり、色が白くて植物的。そんな岸田が演じた吸血鬼は、エレガントで上品で、且つ凶悪で凶暴で、それでいて吸血鬼として生まれた悲しみを湛えており、見事。
この男が眷属を増やすため、幼い夏子(秋子の妹)の首元に噛みつき、催眠術で秋子(藤田みどり)の忌まわしい記憶を蘇らせようする、いやらしさ、妖艶さ、不気味さ。只者ではない。

もちろん、吸血鬼といえば、とうぜん死に様も重要になる。
秋子の恋人・佐伯(高橋長英)と屋敷の中でステゴロになり、最後は、二階から突き落とされた弾みに、階段の手すりの破片に胸を突き刺されて、悶えに悶え絶叫に絶叫を重ねた挙句、身体が急速に溶け崩れて、骸骨が露出した死体となって、ようやく息たえる。
ごちそうさまでした、と言いたくなる、大仰で、しかし忘れがたい演技だ。

CAST
高橋長英/藤田みどり/江美早苗/岸田 森
STAFF
監督:山本迪夫  脚本:小川 英/武末 勝


なお、中村敦夫が顔をケロイド化させて逝く第一作「血を吸う人形」、
吸血鬼の始祖:伊藤雄之助が岸田森より恐ろしい第三作「血を吸う薔薇」、

前者は予算が少なすぎ、後者は予算が多すぎた。それが完成度に悪い影響を与えているが、しかし観ておいて損はない。「血を吸う眼」を見たついでに、ぜひ。

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