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「OMORI」「オモリ戦」の救い~躁うつ患者の思い~

※一部ネタバレを含みます。
※ゲームラストでの「オモリ戦」に絞った感想となっています。

こんにちは。
適応障害→双極性障害(躁うつ)を患っているものです。

今回大好きなゲーム「OMORI」について色々な感情が生まれたため共有したいと思い書いています。
「OMORI」とはうつ状態で家に引きこもっているサニーが、夢の中の絵本のような可愛らしい精神世界で別人格オモリとして、友人たちと探検に出るお話です。

沢山語りたいことはありますが、特に大好きで、鋭利に心に刺さった「オモリ戦」のBGM「OMORI」について触れたいと思います。

オモリ戦

「オモリ戦」はエンディング分岐も絡む重要な最後のバトルです。敵は「オモリ」。彼は現実世界でうつ状態になり引きこもっているサニーという少年の、精神世界の人格です。サニーは現実で起こった「トラウマ」によって心を病んでしまった結果、オモリという別人格が生まれ夢の中の絵本のような場所で長い時間過ごしていました。しかし目が覚めれば現実の世界、サニーになっています。「トラウマ」は消えません。夢の中で友人たちと楽しく過ごしたいけれど現実から逃げられない。
「どちらの自分になるか」決めるために外のサニーと内のオモリが対峙します。サニーとして現実世界でトラウマを受け止めて生きるか、それとも―。


精神世界での別人格オモリと戦うサニー

この戦闘で、オモリはプレイヤーが操作していた時と同じナイフ、サニー(プレイヤー操作側)はバイオリンを持って対峙します。これまでオモリを操作していたプレイヤーにとって彼の『強さ』は痛いほど分かります。そして彼が何度も屈せずに悲しい言葉をサニーに投げつけるその痛みも伝わります。何度も何度も倒しても、『オモリは決して屈しない』。そうして戦いに何度も戻ってきます。ナイフをこちらに向け、「生きる意味などない」、「生きる価値がない」を説きます。

オモリ戦のBGM「OMORI」

背景で流れる「OMORI」は、そんなオモリの突き刺す言葉、倒しても『オモリは決して屈しない』と蘇るほどに音色が増えていきます。最初はバイオリンだけだったのが、所々ノイズが走り、籠った音、警告するように鳴る音、沢山のレイヤーが次々と覆い、まるで元にあった楽譜が汚れて血に塗れ道筋が分からなくなっていくような、そんな悲痛が集まった大きな音楽になります。

私が初めてOMORIに出会ったころ、私は既に双極性障害を患っていました。そこでこのシーンは激痛を心に感じました。オモリが投げ放つ言葉はどれも私の中の誰かが実際に私にぶつけているものでした。他の本編では自分を重ねる程度に感情移入をしていましたが、オモリと戦っているこのオモリ戦では『私の中の誰か』と戦っている錯覚になりました。

そこに確かにいるのです。何度も何度も戦っても消えない、私に「無価値」だと言う『誰か』。『誰か』がどれだけしぶといか分かります。消えていれば、病気を患うことはない。だから『オモリは屈しない』とオモリが画面に戻ってくる粘り強さを、叩きつけられるように感じました。少し冷静な状態にある今改めて考えるとこのオモリ戦では何とも表現し難い…とても痛々しく、しかし忠実に「うつ」の側面を描いている作品だと思います。

初めて「オモリ戦」を聴いてプレイしたとき、孤独に始まるバイオリンの音は、画面中央にナイフを持って佇むオモリの悲鳴のように感じました。オモリが軽く振り回すときに光ったナイフの鋭さ、刃の切り裂く震え。悲鳴から、自分へのヘイトの言葉ひとつひとつが小節ごとに増していく感覚。「OMORI」という曲はトラウマから生まれた全てで、夢の中まで逃げて逃げて逃げたけれど逃げ切れない、どこまでも自分は醜かった、救いようがない世界を嘆いている声だと感じました

しかし、オーケストラによるコンサートを観覧してから聴き方が変わりました。

「OMORI」オーケストラ演出の衝撃

こちらの公演を実際に会場で聴いたとき、衝撃を受けました。
「OMORI」が一番心に残りました。

オーケストラでは、ヴァイオリニストの方(河合さん)=サニーが譜面台の前に立ち、スポットライトはサニーのみに当たっており、残りのオーケストラには暗く赤いライトが当てられます。その時この曲の中でたった一人だけ、生きる意味を見いだせない暗く赤く染まった世界の中でサニーは必死に抗っていたのだと、私は目を見開いてオーケストラの様子を見ていました。

ゲーム映像内とは少し違うオーケストラバージョンですが、サニーの音にどんどん音が乗っかります。サニー1人のバイオリンとは違う、何人もの何十人ものによる押しつぶすような音の数と音量で。どんどん比率はサニーが小さくなります。周りは真っ赤で更に暗く、音圧が圧し掛かります。それでもサニーも『屈しなかった』。バイオリンを弾き続けた。手を離さなかった。

私は「OMORI」という曲は、全て鬱の重苦しく逃れられずしかし鋭利で確実にじわじわと襲い掛かる暗闇であり、痛いと叫び心で流れ続ける血が止められない絶望の歌だと認識していました。トラウマから生まれたオモリが逃げ切れないと自分で確実視した曲だと。
しかしこの曲に光は存在していたと今は考えています。サニーが持っていたものはナイフではなくバイオリン。彼は確かに痛みを感じて音色を奏でていてもオモリと同様に『屈しなかった』。沢山の楽器による何層にも及ぶレイヤーを抱えても、最後まで主旋律はサニーのバイオリンです。

そう考えてから更に心が痛く感じました。うつという心の病は個人差も多く勿論サニーとオモリが抱えたトラウマと私の抱えているものは全く違います。しかし、うつ状態で希死念慮が混ざるほどの闇の中で「光」を失わず戦ったサニーはどれだけ強いのだろうと思います。悲鳴と罵倒が混ざったような音の中でバイオリンの弓をしっかり握って演奏をすることは容易いことではないはずです。「生きる」としっかり心の方向を向けることは、簡単なことではない。そんなサニーのバイオリンは改めて聞くととても救いに感じます。

OMORIはいいぞ

色んなルートでオモリ/サニーの決断・結末が見られますが、全てのルート、そしてオモリ戦をプレイして、ただただ頑張ったとオモリとサニーに伝えたいです。トラウマの根本の「事実」を考えると様々な意見が出る作品だと思います。実際に当時一緒にプレイしていた母と私は違う意見を持ちました。ただ私はうつ病やうつ状態の一つの側面を知る機会を作ってくれた素敵なゲームだと思っています。また個人的ではあるものの救われました。初プレイ当初は全く思いませんでしたが、しばらく経った今、これまでの苦しみの中で生きるという選択をし続けた自分はとりあえず頑張ったって言っていいのではないかと思いました。「いいこと悪いこと」ではなく、とりあえず生きただけで進んだことにしていいのではないか。今少し気分が上向いているからだとは思いますが、サニーとオモリを、そして私を褒めようと思います。

もし迷っている方がいらしたらぜひOMORIの世界に足を踏み入れてみてください。感情移入しやすい方は無理せずに。自分の心が一番です。

鬱ゲー、と呼ばれて忌避されるには勿体ない素敵な世界が待っています。

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