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小さな興味から選択肢や可能性は広がる わくわくの伝道師になるために力を尽くしたい

わくわくして動き出さずにはいられない原動力「わくわくエンジン®」を持って活動している方たちを紹介する連載「わくわくエンジン®図鑑」。
認定NPO法人キーパーソン21がお届けします。

明るく優しげな笑顔が印象的な“ひとちん”こと、藤谷仁美さん。キーパーソン21の理事であり、事務局としてキーパーソン21のまちづくりを全国に普及する役割を担っています。
わくわくエンジン®は「そこにあるものを組み合わせたり、別の角度からみたりして、新しい価値をつくりだすこと」
今回お話を伺って、そのわくわくエンジン®はすでに幼少期から発動されていたことがわかりました…!

【図鑑 No.13】
お名前
藤谷 仁美(ひとちん)
おしごと
キーパーソン21まちづくり領域担当。キーパーソン21の教育プログラムを軸に、地域をわくわくであふれる市民でいっぱいにする“地域みんなで子どもを育む持続可能なまちづくりプロジェクト”推進中。
わくわくエンジン®
そこにあるものを組み合わせたり、別の角度からみたりして、新しい価値をつくりだすこと

進路選択で悩んだ高校時代


ーーキーパーソン21にかかわることになったきっかけを教えてください。

2015年、友人に誘われてキーパーソン21の講演会に出向いたのが最初の出会いです。

当時私は、世界中の異なる文化を伝えるのが私の使命(笑)だとツアーコンダクターとして働いていました。一見華やかな仕事におもわれるツアーコンダクターの離職率は当時50%ぐらい。実際、繁忙期には月に20日も添乗をすることもざらな中、夢や憧れを持ってついただろう仕事なのに体力的にも精神的にもしんどく疲れ切って辞めていく同僚たちの姿がありました。ただもう一方で、どんなに忙しくともこれぞ天職!といきいきしている仲間もいました。

そんな光景を通して私のなかに芽生えたのが、「人にとって“働く”とはどういうことなんだろう?」という問い。ふらりと入った書店で偶然みつけたレジ横のパンフレットの中にあった“働くことを学ぶ”というようなキャリアコンサルタントの資格を説明する言葉が目に飛び込んできて、私はその答えを見つけようと、資格の勉強を始めてみることにしました。その学びを深めるにつけ、「子どものうちから自分のキャリアを考えることを学んだほうがいい、私は今後キャリア教育に関わりたい」という思いを強くしていったんです。

そんな状況の中で参加したキーパーソン21の講演会。キャリア教育の深いところを大切にして、私がやりたいなと思っていたことをすでに多くの子どもたちに実践している団体が存在していたという事実に衝撃を受けました。なかでも胸を打たれたのが、「野球が好きなA君、B君、C君」の例でした。3人とも同じ野球が好きなんだけど、その“好き”の理由は3人それぞれ違う、という話にズキューンと射抜かれてしまいました!(笑)

A君B君C君

ーーずいぶん衝撃的な出会いだったようですが、射抜かれてしまった理由は?

私は高校生の時、進路選択でかなり悩みました。
中学は決められたとおりの学区の中学校に行き、そして高校は小さい頃から行きたいなと思っていた県立高校に進学したのですが、その先大学進学を考える頃になって、「あれ?私、この先どうしたらいいんだろう?」とわからなくなってしまったんです。何を軸にして進学先を決めたらいいのか、まったく手がかりがないことに愕然としてしまいました。これまでの狭い世界から急に広い世界に放たれたような気がして。今ならいろいろな情報を手に入れることができるインターネットも当時はなかったですしね(笑)。

それでも進路選択の時は容赦なく迫り「私は何に興味があるんだっけ?」と一生懸命自問自答した結果、やっとのこと人の“心”に興味があることに気づいたんです。心を学ぶのは心理学かな、だから心理学を学べる大学に進みたいって進路調査票に書きました。でも、先生から返ってきたのが、「心理学に進んだらあなたが潰れちゃうよ。」というアドバイスだったんです。

ーーえ?潰れちゃうとはどういうことでしょう?

直接先生に聞いていないので憶測になるのですが、もしかしたら、私の性格上、深いところに入り込んでしまうことを心配されたのかもしれません。あとは当時、そういう分野を学ぶ人の職業=精神科医というように狭義に捉える傾向があったというか、学びと職業が直線的に考えられていたように思います。だから、先生もそれを前提に話をされていたのかもしれないですね。

キーパーソン21の講演会で「野球が好きなA君、B君、C君」の話を聞いたときに、進路選択に悩んだ高校生の時の自分が思い出されました。

“心”に対する興味がある、でもなんで心に興味があるのか、その理由までは考えなかったなと。「心⇒心理学=精神科医」だとか「心⇒心理学=臨床心理士」だけじゃなく、心の何にわくわくするの?ともし理由が問えていたら、もしかしたらマーケティング的な心の動きに関心があったのかもしれないし、他にも自分で様々な進路の選択肢が考えられたんじゃないかと大きな気づきがあったんです。

小さな興味から選択肢や可能性は広がる


ーーなるほど、たしかに私たちは、「野球=野球選手」だとか「心理学=精神科医」というふうに直線的に考えがちですね。結局、大学は心理学の方に進んだのですか?

いえ、先生や親のアドバイスもあり、心理学には進みませんでした。大学卒業後は本が好きだったので、書店と出版社をつなぐ取次の会社に就職して営業職を、その後、夫の海外駐在に帯同し、帰国後はツアーコンダクターになりました。実は、この二つの仕事には共通点があることに気がついたんです。

ーー共通点があるようには思えませんが、どんな共通点でしょう?

「どこでも同じようにみえるものに自分なりのアイデアを付け加えることで変化させることができる」

という共通点です。

どういうことかというと、本は全国どちらでも同一書名は同一価格で売ってますよね。それが売れるかどうかは売り方にかかっているところがあるんです。たとえば、本屋さんでの置き場所ひとつで売れ行きが変わる。私は、担当の本屋さんに自分のアイデアを提案しながらいろいろ試し、本屋さんとの関係性を創っていきました。

旅行もツアー自体は各社似たようなものを企画販売しているけど、それをどう料理するかは当日のツアーコンダクターの腕次第のところがあって。案内の順番や方法を工夫してみたりして、お客さんの笑顔が増えるような仕掛けを楽しく考えてました。

こんなふうに、一見差別化しづらく思えるものをどうしたら売れるようにするか、満足してもらえるのかを考えるのがすごく好きで。どうやったら人の心に届くかなとか、どうやったら豊かな時間を過ごしてもらえるかなとか。やっぱり私は人の心に興味があるんだと思います。

そんなツアーコンダクターの仕事も楽しかったのですが、旅だけではなくて、もっと違う軸で人の心や人生に関わりたくなってきて。それで、キャリア教育に関わる今があります。

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ーー高校生の時に感じていた人の心に対する興味は、そんなふうに繋がるわけですね。

そうなんです!

そういう様々な選択肢があるんだということは今だからこそわかるんですけど、高校生の時にはそんなふうに思考を広げることはできませんでした。
でも、すごく大事なことだと。
自分で自分の選択肢が考えられる、自分のキャリアについて考えられる、その年齢はいくつからでもいいと思うんです。

キーパーソン21のプログラムは小学生から大人までだれでも楽しくできる。親や先生、そして親でも先生でもない“第三の大人”が関わる中で、自分に対して「なんで?」「どうして?」と問い考えることができる。
大事なのは、自分の中から答えが出てくること。自分に問い、向き合うことを通じて、自分自身を認め、納得感を持つこと、それが大事なんじゃないかと思っています。

高校生のころ母親からは手に職を!と「薬剤師になれば?」とすすめられていたんです。でも、私の中では、まったくしっくりこなくて(笑)。その時に「なんか違う」とは思いながらも、それをうまく言葉で説明することができませんでした。もしその時、自分自身に「なんで私は薬剤師にしっくりこなくて人の“心”にわくわくするの?」としっかり問いかけることができていたら、そして、その理由を自分で深掘りする方法を知っていたら、進路のことであんなに混乱せずに済んだのかなと思います。

幼い頃から今まで、ぜんぶ繋がっていた


ーーところで、なぜ人の心に興味を持ったと感じていますか?

私は母から常に、「相手の気持ちになって考えなさい」と言われてきました。そして、私もその教えを大切に守ってました。
ところが、中学生くらいから
「あれ?相手の気持になって考えているのに、なんか違うぞ・・・」
と思うことが増えて。

たとえば、相手の気持ちになって、良かれと思ってやったことが、相手にとってそうでもなかったり、私にはとても困難な状況に見えることをむしろ楽しんでいる人もいたり。
「どうやら、相手の気持ちになって考えるってことはなかなか大変なことなんじゃないか?」って思うようになりました。

相手の気持ちになるということは、「自分がこういうことされたらどう思うかな?」と考えること。つまり、相手の気持ちになっているといいながら、自分が軸になっているという矛盾。でも、だからこそおもしろいなと思ったんです。何によって心が動かされるのかが人によって違うのが、すごくおもしろいなと思いました。

ーーそこの興味関心は、今のお仕事にも繋がっている気がします。

昔からの友人にもそんなふうに言われます(笑)。
私は、幼稚園の頃から、そこにあるものを組み合わせて遊びを考えるのが大好きでした。

たとえば、田んぼに遊びに行ったとしたら、そこに生えている草、そばにつんである‎わらを使って、そこにいるメンバーでどんな遊びができるか考えるんです。Aちゃんはこれが得意で、Bちゃんはこれが好きだから、じゃあ、これとこれを組み合わせてこんなことをやろう!と提案するのが私の役割でした。それによってみんなが楽しく過ごせると、「よっしゃ!」ってとても嬉しかったですね。

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現在の仕事も共通するところがあるなと感じています。キーパーソン21のキャリア教育プログラムを活かして、こんな地域の人と協力して、子どもたちにこういうことをやってみよう!と提案する、その原点は幼稚園時代の遊びをつくり出す経験からきていて、ああ、なんか繋がっているなと。

ーーそれを意識して、今のお仕事に就かれたのですか?

いえ、ほとんど無意識だったと思います。ある時、経験してきた本の業界でもなく旅の業界でもなく、教育NPOの職員になると友人に報告したところ
「それは、あなたにとってキャリアを活かしたキャリアアップになってるの?」
というストレートな質問を受けたんです。

その言葉を受けて
「たしかに私は何を軸に職を選んでいるんだろう?」
と考えました。そうやって考えている中で、キーパーソン21のプログラムで私のわくわくエンジンを発見

「そこにあるものを組み合わせたり、別の角度からみたりして、新しい価値をつくりだすこと」

ということを軸にこれまで仕事を選んだきたんだなー、と。
本能的にそれをよりどころにしていたことをあらためて言葉にして気づいて、すべてがしっくりきました。過去にちゃんと意味があったことが、わくわくエンジン®で繋がった感じがしました。自分に納得できたな、この先も軸がある生き方できそうだな、という感じです。

ーー今後は、このわくわくエンジン®を発動させて、どんなことをやりたいですか?

全国各地、一人ひとりみんながいきいきと暮らせるといいなと思っています。

いろいろな地域に伺うなかで、出会うみなさんから「この地域には何もなくて・・・」というふうに聞くことが多いんです。これは、ツアーコンダクターで全国各地をまわっている時からそうでした。

でも、私の目に映る各地はぜんぜんそんなことないんです。素敵な自然や特産、美味しいものにあふれています。そして何より、そこには温かい人がいて、そこにしかない思いやりあるコミュニティーがある、と。

何もないわけがない、絶対にだれにでもどこにでもとっておきの宝物があるという信念のもと、いろいろな方々と交流し、地域の未来を創ろうとするみなさんと刺激し合って、人を中心にすえた豊かな地域づくりに今後も関わっていきたいと思っています!あ、そうそう!私、キーパーソン21に入る時の履歴書に、「わくわくの伝道師になるために力を尽くしたい!」って書いていたんですよ(笑)。

お互いを認め合い、未来を創っていける社会に


ーーキャリア教育の道に入るきっかけになった「人にとって“働く”とはどういうことなんだろう?」という問いの答えは見つかりましたか?

“働く”という言葉にもっと広い意味があると思うようになりました。“働く”とか“キャリア”というのは、断片的なものではなくて、「生きること」そのものだというふうに感じています。働くというのは人生の部分であって、それも含めてどう生きるかということが大切な気がするんです。

もっと言うと、社会にどう活かされるか、自分でどう活かすかみたいな。なんかどんどん哲学的になっちゃいますけど・・・(笑)。

だから、キーパーソン21のプログラムは、いいなと思います。仕事だけにフォーカスするのではなく、もっと自分の深いところに向きあい、自分に対してとことん関心を持つことを大切にしています。そして、自分にだけ関心を持つのではなく、プログラムを通じて人と人とがお互いに関心を持つきっかけができて、敬意を払い合えたり、認め合えたりする経験ができる。その昔、私の母が「相手の気持ちになって考えなさい」と言っていたのは、きっと相手の気持ちになる=関心を持ち合うという意味だったんだなと、今なら深く解釈できます。


ーー最後に、日々多くの子どもたちと向き合っていますが、そんな子どもたちに伝えたいメッセージは?

私は自分の子どもがいません。でもキーパーソン21の活動を通じて多くの子どもたちと接しています。その中で出会う子どもたちを支援の対象としてみたことはなく、すぐ隣に来る仲間だと思って接しています

一緒に社会を良くしていく仲間、未来を創っていく仲間だと信じています。社会に対して不満ばかり言うのではなくて、じゃあどうするかと“その先”に進む、共に行動できる仲間を増やしたいんです。だって、その方が絶対に楽しいじゃないですか(笑)。そう思いながら、日々出会いを楽しんでいます。

私が興味を持ったのは人の“心”でした。そして、そこからさまざまな選択肢を得て、今こうしてキーパーソン21で仕事をしています。だから、私が今までの経験を通じて伝えられることは、「好き」や「わくわく」の気持ちを大切にして、自分の中にも誰かの中にも、どこにでも宝物はあると信じて、深めていってほしいということ。そこから、可能性や選択肢が広がっていくんだよってことを伝えたいんです!

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(編集後記)
自らを「スーパー普通人」と評するひとちん。「普通」の定義は置いておいて(笑)、私の見たひとちんは、普通の枠にとらわれず自らのわくわくエンジン®に従ってどんどん行動する「スーパーわくわく伝道師」でした!
とにかく明るくて、周囲の空気をポジティブに変換するムードメーカー。サバサバとした語り口のなかにユーモアと優しさがあふれていて、お話していてまったく飽きることがなかったです!こんなふうにインタビューを通じて楽しい時間を提供してくれるのも、ひとちんの興味が人の“心”にあるからなのかもしれませんね。

(ライター・ゆみりん)

わくわくエンジンって何?はこちら


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