古い道をゆく【コラム】

 沖縄は、未だに「祈り」が生活に深く食い込んでいる。霊的な能力で相談者に道を示すことを生業としている者もいる。この活動をしているものを「ユタ」と呼び、そのほとんどが女性である。沖縄には「御嶽」(ウタキ)と呼ばれる聖地が各地にある。神々への祈りをささげる場である。そこは男子禁制であったりするのだが、近ごろのパワースポットブームで、男なのに、その聖なる場所へ土足(心情的な意味で)で行く人もいる。土地の「神」を勝手に理想化し、信じ、祈祷や瞑想をしている。そんな現状が沖縄にはある。
 とくにそういった外部からの被害を受けているのは、斎場御嶽(セーファーウタキ)と久高島である。すこし頭をひねればわかることだが、その土地に土着した信仰が個人の運気をあげたりはしない。
 御嶽信仰とともにあるのが「オナリ神」信仰である。兄弟に対しての姉妹の霊的優位のことだ。村落の祭行事に最高位の象徴的な力を持つ根神(ネガミ)という女性神役があり、その家の当主の姉妹がつくのが原則的なパターンである。また旅に出るにあたってその姉妹たちから手作りの布や紙をもらって出かけるという習俗もあった。
 
沖縄では台所に祭壇をおいているところも多いのではないだろうか。これは火ぬ神(ヒヌカン)といい、中国伝来の竈(カマド)神信仰の要素をうけついだものと言われている。火、自体を信仰する宗教は世界に点在し、それは出産のときに母屋の火を絶やすことがないようにするという信仰であり、生まれるときの光を信仰の対象にしている。それは祖先崇拝であり、家内安全を祈ることだ。
その火ぬ神の出自は東の海の果てにあるとされる、ある意味では桃源郷のような根源的世界「ニライカナイ」だという。この観念は奄美から先島まで潜在する。それはどこまでも青く、白波が岩礁に吹きつける沖縄独自の【コスモロジー】である。

歴史的に宗教、と聞くと差別と迫害、残虐性などがイメージにあがるが、その悪しきイメージが日本人に定着したのは、戦後の神道のGHQによる接収。オウムによる地下鉄サリン事件。それらによって、宗教=危ない。というのが身についたものである。
しかし、宗教は排他的になるどころか、そこに住むひとびとの意識をまとめ、作法、行動、思想をいきいきと表現できる、文化の基本をつくっているといえる。
沖縄固有の根強い信仰がアウトサイダーによってどう表現されようと、その信仰は長い時間の積み重ねの慣習であり、これを守ってきた慣行自体が、実在としての霊魂をあらわしているのだろう。
また、沖縄の信仰生活で顕著な維持、推進者に焦点をあてると。巫女にたいする信仰ともいえるだろう王族に仕えるユタの祝女(ノロ)。民間で伝承をするノロとツカサ。その副産物的に僧侶などの伝承のみになっている職能者もいる。
 15世紀以降沖縄は尚真王のもと「聞得大君」を頂点とした全域のノロを統括させた。ノロ以上の神女は国王から土地を与えられたり、共同労働から外されたりした。それらは官人であった。ノロの職責は世襲制度とされるが、その継承にいたっては、様々な変容が見られる。
 ユタはシャーマンであるとされがちである。ユタが霊的に憑依現象されることをカミダーリというが、根神になる過程にあるが、ユタの場合その霊能力の異常性をウマレとかサーダカーと呼んでいる。多くのユタはどの幻想的体験をかたるのである。
 ひとがユタを依頼する動機はままあれど、近親の死者との橋渡しをしてもらい子孫の加護を願い、儀礼が充分であるか、などを確認するのである。その意味からユタは祖先崇拝の維持者である。

 今日では神女のなかにはその職能の義務を果たすためおざなりの儀式的活動が見られる。年輩者ほど信仰儀礼の関心の度合いが高いといえよう。
 ユタはかつての束縛から解放され、その機能を果たせるようになったとはいえ、まださまざまな信仰のかたくなさを示している。
 こういったところに沖縄的信仰の基盤はシャーマニズムであるといえる。

 とにかく本とにらめっこして羅列したが、これほどの邦である。この文章を読んでくれたひとはシャーマニズムの沖縄の立ち位置がわかったと思うので、パワースポット巡りなどをするさいは、ひっそりと、御願(ウガン)のひとたちに迷惑をかけないでいただきたい。

 では、沖縄でカップルでどこにいけばいいかって? 
そうだな………。「平和祈念資料館」なんてどうだい?

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