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コザの夜に抱かれて 第6話

 みゆきは、屋上でシケモクを吸っていた。そして、メガネを外した。白い体液で濁っていたそのメガネを、彼女は店の前、空港通りの道路にひょいと投げた。すると、ちょうどよく車が通り、ガシャ、という音とともにメガネがくだけた。
「あーあ。死んじゃいましたね」
 すると後ろのドアが開いた。みゆきは見向きもしなかった。
「おっつー、みゆきさん」
 そこに現れたのは、仕事終わりの岬だった。ハイボールを持ったまま、みゆきの横に来た。みゆきもすでにのんでいた。
「あれ? みゆきさん、メガネは?」
「コンタクトにしたんです」
「へー、そうなんですね」
「明日には、新しいメガネを買いに行きますけどね」
「そうなんですか?」
「ええ、流行りじゃないみたいなので」
 ふたりは、酔いどれのまま、子どものように風の歌を聴いていた。
 すると、岬が先に切り出した。
「みゆきさんって、こっちやります?」
 細い親指と小指を立て、口元に寄せ、岬が大麻を吸うしぐさを見せた。みゆきはそれを一瞬見て、持っていた<一番搾り>に口をつけた。そしてそのあと口を開いた。
「わたし、酒とタバコしかやらないので」
 岬はバツが悪そうに笑った。
「それがリアルっすよねー」
「吸いたかったら、どうぞ」
 そう言いながら、みゆきは肩かけカバンから、ドロップをとり出した。何度もジャカジャカふって、ハッカのアメが出てくると、酒を全部のんで、口にふくんだ。岬はジョイントをとり出して、ふかしていた。
「岬さんは、月の真実って知ってます?」
「……なんですか? それ」
「わたし、知ってるんですよー」
 そう言って、みゆきは微笑んだ。岬は、なんのことだかわからなかった。
 青のハイライトの空き箱を握り潰して、みゆきは道路に投げた。ちょうど車が通った。クシャ。聞こえない大きさで、タバコがぺちゃんこになった。
「死んじゃいましたね」
 岬は、なにも、応えなかった。

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