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プラン_高気密高断熱

古民家を新築住宅のような高性能住宅へと生まれ変わらせることは、このプロジェクトの最も重要な課題の一つだった。家を『住むための道具』としての側面からみた場合、良い雰囲気に改装された古民家再生住宅であっても、そこで無理なく快適な生活を送ることができなければ本当の意味での再生とはいえない。さらに、地球環境からみれば、エネルギー消費を抑えることができる燃費のいい家へとアップデートすることは、住宅をフルリフォームする上では必須の課題に思えるからだ。

家のエネルギーの消費を抑えるには、高い気密性能断熱性能が求められる。そこで、次世代エネルギー基準をクリアするような高い気密/断熱性能を作り上げる工法/材料をこの古民家リフォームにおいても実践することで、新築にも劣らない性能を持たせることを試みた。箇所毎に、実際に用いた工法/材料を以下にまとめます。

1.床

建物の歪みがそれほどでもないこと、構造材に劣化がみられないこと、費用を総合的に判断した結果、今回のリフォームにおいて基礎を組み換えることは見送った。その代わりに、既存の構造を活かしながら、大引きを架け替え、床束を増やすことで土台を補強しました。これらの補強は、同時に断熱材を仕込むことも考慮していて、大引きを910mmピッチで架け替えることによって規格化された断熱材を扱い易くなります。天井高さを確保するため床の高さを上げないように、今回は大引きの間に厚さ100mmのスタイロフォームを仕込みました。スタイロフォームは、大引きとの間に隙間が出ないようにびしびしに仕込むことが気密性を高める上で大切になってきます。『気密性=隙間がない』ということなので、このような細かな部分の施行精度や気遣いが気密性能には大きく関係してきます。そして、大引きの上に根太引きの必要のない厚さ24mmの構造用合板を敷き、畳の下に隠れていた荒板を加工し仕上材として張り直しました。

旧床断面

新床断面

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2.壁

壁に対しては、外部と接する全ての壁面の内側にもう一枚壁を立てその内部に断熱層を作りました。断熱層は、壁を作る為に立てた間柱の間に厚さ100mm 2400K相当のグラスウールを敷き詰め、その上から防湿気密シートを張り込みました。このシートが気密性を高め、壁内部に湿気が入り込むのを防ぎます。土壁に対して内側から断熱を行なう場合、壁内部での結露が問題となるのでシート施行とその精度が重要になってきます。また、古い土壁(=漆喰壁)には柱や梁、窓枠との接点で土が収縮し隙間ができてしまっていることが多い。そういった隙間はすべて、外部側からも内部側からも発泡ウレタンやシールを充填しました。既存壁は外部に漆喰が塗られているためある程度の断熱性能は期待できて、土壁に対する付加断熱の役割を担うはず。佐久穂は空気が乾燥していることもあり、真冬に入っても心配していた結露はまったくみられません。結果、内側に厚さ約12cmの壁を足すことになり、既存漆喰壁を足すと壁厚は合計約24cmとなった。

新壁断面

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断熱材には様々な種類があり、環境負荷が少ない、新聞紙を細かくして作られているセルロースファイバーをもともとは使いたかった。ただ、竣工後に建物をいじることには向いていないこと、需要が少ないため割り高なこと、専門業者による工事となるため工程の融通が利かなくなることから、最終的に施行実績のあるグラスウールによる断熱を採用しました。

3.屋根

屋根は、屋根面の内側に垂木でフレームを組み、そこに壁で使用した2倍の量の断熱材を用いた。壁同様、グラスウールの内側には防湿気密シートを敷き詰め、気密と湿気にも考慮しました。屋根面は上を向いているので壁面よりも当然日射量が多く、夏場の涼しさを確保するために特に重要になってくる。実際、2012年に改正された省エネルギー法の中では、屋根に求められる断熱材の厚みは外壁の1.5倍以上の数値となっている。つまり、屋根面の断熱性能は家の燃費に大きく関わってくるということになる。今後、地球温暖化によってさらに気温が上昇していくことを仮定すると、屋根面の断熱はますます重要になってくると考えられます。

新屋根断面

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4.窓

建物の開口部、窓や扉などからの熱損失は建物全体の半分を占めともいわれています。つまり、燃費のいい家を作るには断熱性能に優れた窓を選択すべきだということになります。ただし、窓や扉こそ仕様やメーカーによって金額の開きが大きく、性能も大きく違いが出るので、どこに標準を合せて選択するかが重要になってきます。
今回は断熱性能を最優先し、窓に関してはトリプルガラスのものを採用しました。採用したサーモスXという窓は、3枚の硝子によって作られる2つの中空層にガスを封入することで熱伝導率を下げ、アルミと樹脂のハイブリットフレームで熱貫流率1.03W/(m2・K)という高い性能を誇っているものです。テクノロジーが詰まった部位だけに、コストパフォーマンスが高い最大手の商品を採用する結果となりました。サッシュ回りも、壁/天井同様に枠との隙間にはテーピングを施すことで気密性を高めます。

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以上が、今回行なった気密/断熱性能を考慮した主な施行内容になります。これらはすべて設計側から指示したものではありません。気密/断熱性能はその地域の気候が相手となるため、地域によって対策や工法が異なってきてます。どのくらい断熱すればどのくらい暖かくなるというような感覚や、流通している資材の細かな部分の取合いは、施行業者の経験に頼る部分が大きいのです。したがって、何をどのように使うかに関しては施行会社とよく話し合いながら決めていくことが大切だと思います。今回お願いした施行会社や職人達は軽井沢を中心に別荘を多く手掛けられていることもあり、寒冷地の対策の経験値が高かったのでとても助けられ勉強になりました。

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