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【キネマ救急箱#15】タミー・フェイの瞳〜ハリウッドに革命を起こす奇才の女優、製作者ジェシカ・チャスティン〜

こんにちは。
ニク・ジャガスです。

いよいよ2日後に迫ったアカデミー賞授賞式!イヤッヒィィィィ

皆様、ノミネート作品をチェックしたり、受賞予想をしたりと楽しい毎日をお過ごしの事と思います。

私はというと、カタツムリのスピードでノミネート作品の鑑賞を続けております。
ディズニープラスで2月より配信が始まった『タミー・フェイの瞳』も、その中の1作品です。

『タミー・フェイの瞳』は1970年〜1980年代にかけて大成功を収めたTV伝道師の夫婦、タミー・フェイ・ベイカーとジミー・ベイカーの実録ドラマ。
アカデミー賞では、「主演女優賞」と「メイクアップ&ヘアスタイリング賞」の2部門でノミネートしています。

私は、2部門ともに受賞すると睨んでいます。
その理由と共に、作品紹介を進めていきますね。


あらすじ

1970年代から80年代にかけ、テレビ伝道師として活躍していたジム・ベイカーは、妻タミー・フェイと共演したTV番組を製作。愛にあふれたメッセージで視聴者は熱狂、瞬く間に絶大な人気を博し、大成功を収めた。そんな中、貧しい生活から一転、華やかな生活に変わったタミーは、泣いても消えないまつげ、独特の歌い方、そしてあらゆる人々を受け入れる寛大さで伝説的な存在となっていた。しかし、金銭的な不正、ライバルの陰謀、スキャンダルなどにより、ふたりが築いた帝国はやがて崩壊していく…。波乱万丈の人生に待ち受けている結末とは。

20世紀スタジオ公式HPより

ジェシカ・チャスティンのズバ抜けた「タミー・フェイ完コピ度」と「映画製作/企画力」

アカデミー賞「主演女優賞」にノミネートされているジェシカ・チャスティン。

オスカー前哨戦である、第28回SAGアワード(全米映画俳優組合賞)で主演女優賞を、放送映画批評家協会賞(クリティクス・チョイス・アワード)で最優秀主演女優賞を受賞しています。

ジェシカ・チャスティン

彼女の受賞を予想しているのには、二つの理由があります。

一つ目は、タミー・フェイ本人と見紛うほどの再現度。

タミーは、自身が好きなアニメキャラクター「ベティ・ブープ」を意識した甲高いハスキーな声で愛を説き、歌い、全米の視聴者を熱狂させました。

独特な笑い方やパワフルな歌声、自分は正しいことをしている(実際は横領なので違法)と信じて疑わないイノセントな瞳。
ジェシカ・チャスティンという女優は、全年代のタミーを見事に表現し切っていました。

2012年にドキュメンタリー映画『The Eyes of Tammy Faye』をドラマ映画化する権利を約5000ドル(安い!)で購入してからというもの、約10年の歳月をかけてタミー・フェイという人物を研究し尽くしたそうです。

そして二つ目は、ジェシカ自身の映画製作にかける情熱と企画力。

近年、アカデミー賞の受賞基準があらゆる意味で「多様化」していることは、周知の事実かと思います。

ジェシカは、2017年のカンヌ国際映画祭で「映画における女性の描かれ方」に疑問を呈したスピーチを行い、話題になりました。
その経験からジェシカ自身が企画/製作を務めた作品に、今年公開されたスパイ映画『355』があります。

こういったジェシカの「女性としての発信力」や「演者だけでなく作品の企画製作もこなす力」が評価されるのではと考えています。

“タミーの瞳“を通して語られる栄光と転落

キリスト教福音派のテレビ伝道師として、愛のあるメッセージと歌を発信し続けて大成功を収めたタミー・フェイとジム・ベイカー夫妻。
本作品は、“タミーの瞳“を通して見つめた約60年間の現実が描かれます。

ジミーは、成功を収めるにつれ当初の信仰心が消え失せ、宗教を利用して人々を騙し、金儲けに走るように。
その一方でタミーは、寄付金を募ることが神の思し召しと本気で信じ、布教と慈善事業を行いつつも、残ったお金は自分の衣食住のために使い込みます。

夫婦ともども、それ自体は明らかな違法行為であり、社会的制裁を受けるべき対象です。
ただ、この映画を見ていると、タミーには情状酌量の余地が与えても良いのでは…と思ってしまうのです。

その理由は、彼女の「人間に対する無垢な愛情」にあります。

福音派では不寛容な部分が大きいという、同性愛者や女性などのマイノリティに対し、タミーはいち早く理解を示して積極的にポジティブな発信を続けていました。

厳格な福音派のTV伝道師ジェリー・ファルウェルは、ベイカー夫妻より早くTVで成功を収め、当時影響力を誇った人物でしたが、タミーは彼に全否定されながらも「神は不完全な人間など作らない」と堂々と言い放つシーンには、ある種のカタルシスも感じます。

※ちなみにジェリー・ファルウェル役はMARVELドラマ『デア・デビル』のキングピン役の俳優さんです!(終盤まで気が付かなかった)

ヴィンセント・ドノフリオ

タミーの自由で、真っ直ぐで、才能溢れるところに劣等感を抱いたジミーは、
次第にタミーに興味を示さなくなっていきます。

一方のタミーは富と名声を手にしながらも、ひたすらジミーの愛情を求め続けました。
不安定になっていく精神に追いつこうと、厚化粧や抗不安剤に頼り切り、集金イベントの舞台袖では直前まで憔悴していても、スポットライトが当たると無理やり笑顔を作り出します。

この一連の場面から感じるのは、「世間から見える華々しい活躍の陰で、成功者たちはギリギリの精神状態を保ち続けている」ということでした。

ジミーのスキャンダルが表沙汰になると、味方と思っていた周囲の人々が失脚を狙うハイエナに急変するのにも、人間に潜むエゴと非情を感じざるを得ませんでした。

人間にとって、何が成功であり、何が幸せなのか。
「成功者の表舞台と舞台裏」を赤裸々に語る本作は、非常に見応えのある映画でした。


アカデミー賞、2部門受賞の予想が当たると嬉しいな!

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました😊

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