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わかおの日記6

「若い時の苦労は買ってでもせよ」とはよく言うが、苦労などしないに越したことはない。親の脛はかじれるときにかじっておいたほうが、かえって親孝行なのではないか、とすら思うのである。ありがたいことにぼくは小学校から私立の学校に通い、大学の学費も親に負担してもらっている。そのようにして親が整えてくれた土壌のもと、すくすく成長し、ぼくは立派な脳みそを培ったのである。しかしぼくは今、そのありがたい脳みそを時給にして1200円程度ですり減らしている。中学受験の算数などという、この世で最も不毛な問題たちに向かっていると、ぼくの哲学的な脳細胞はどんどん死滅していってしまうような気がする。

父よ母よ、不孝の息子をお許しください。ぼくだって本当は、こんな頭脳労働を買って出るつもりはなかったのです。ただオンライン授業の間の暇つぶしとして始めただけだったのです。夏期講習のテキストを開くと、旅人算や鶴亀算が牙をむいて襲い掛かってくる。たかしさんは何の目的もなく無作為に食塩水を混ぜ続け、池の周りを走る兄弟たちは、自分たちがいつすれ違うのかを知らないまま、走るのをやめない。教育指導要領を無視した狂気の宴である。

要はバイトが面倒くさいのだ。今日のぼくのスケジュールは、午前は塾講師、午後は家庭教師と苛烈を極めていた。そのおかげですこし疲れているのである。午前も午後も働くなど、正気の沙汰ではないように思われるが、一般的な社会人は午前も午後も働いているのである。ぼくが聞いたところによると、社会人は週に2日しか休みがないらしい。正気の沙汰ではない。

不平に不満、ぼんやりとした不安をここまで書き連ねたが、別に人にものを教えるのが嫌いなわけではない。むしろひとから「先生」などと呼ばれるのは気持ちのいいものである。すなわちぼくとしては、理想のワークライフバランス(ワーク2に対してライフ8)を実現するために、日本政府がベーシックインカム制度を導入するのを望むばかりである。

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