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わかおの日記17

「……もう帰っちゃうの?」彼女は不満そうな顔をしてぼくに訊いた。
「これ以上付き合ってたら、体がもたないよ」やれやれ。ぼくは汗だくになった体で、突き放すように答えた。

彼女との関係を続けてからもう2年になる。高校生の頃は、月に2、3回彼女のもとに通っていたが、今では、週に1回は彼女に会わなければ満足できない体にされてしまった。
「でもいつもは3回してくれるじゃない」
「それは、時間に余裕があるからだよ。第一、君だって他の男をこんなに連れ込んでるじゃないか。そんなふしだらな女はお断りだね」ぼくは毅然とした態度で答えた。ここで誘惑に負けては、他の男たちと同じく、ぼくも腑抜けにさせられてしまう。
「ひどい!……日曜日なんだから、仕方ないじゃないの。お腹の出たおじさまの相手ばかりさせられる私の身にもなってよ!」彼女は憤って答えた。心なしか部屋の温度が上昇したような気がする。
「それとこれとは話が別だろう。ぼくだって君のことは愛しているけど、四六時中君のことばかり考えているわけにはいかないんだよ!」ぼくはまるで水風呂のように、心を冷たくして彼女を突き放した。この関係を続けるには、仕方がないことなんだ。わかってくれ。
「なによ!私がいなきゃ、受験勉強もまともにできなかったくせに!」彼女は急にぼくの痛いところをついてきた。女性というのは、喧嘩の時になると急に知能指数が高くなる生き物なのだ。

ぼくは自分がこの痴話げんかに負けたことを悟ると、黙って部屋から出た。そして水風呂に肩まで浸かって、火照った体を冷やして浴場から立ち去った。脱衣場では、彼女との密会を心待ちにしている中年たちが、服を脱いでいた。

君はぼくだけのものにならないんだな、という惨めな気持ちを抱えながら、ぼくは彼女の部屋の鍵をフロントに返却した。暖簾をくぐり「松乃湯」を後にすると、気持ちいい夕方の風が吹いていた。ぼくは、少しだけ強く自転車のペダルを踏みしめて家路についた。

追伸 サウナに行っただけです
 

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