真夏の君と白いカーテン Episode 3

「悠人、今回のテストは何位だった?」

「8位。お前は?」

「5位」

「そっか。今回も俺たちよくやったな」

「そうだな」



 施設出身を馬鹿にされたあの事件をきっかけに、今でも悠人と一緒に勉学に励んでいる。毎日放課後になると図書室に籠もり、長机に教材を並べながら互いに教え合って下校時間まで勉強している。俗に言うガリ勉になったのだ。おかげで俺たちは学年上位の学力を手に入れることができた。そして誰にも施設出身であることを馬鹿にされなくなった。



 あの時の嫌みったらしく軽蔑した悠人の担任は翌年他の学年のクラスを持つことになり、毎日顔を合わせずに済むようにはなった。それでも同じ校内にはいるのでたまに通りすがりで会うのだがその度に申し訳なさそうに苦笑いをし、会釈をしてくるのだ。その姿はあの時のことは他の教師には言わないでおくれと頼み込んでいるように見えて、なんとも滑稽でいい気味だと思った。たぶん教師の間でも俺たちの学力の伸びは話題になっていて耳にしたのだろう。だったら、はじめから言わなきゃ良かったのに。



 あの頃は悠人の担任を見返すためにひたすら勉強して馬鹿と言えなくなるほどの秀才になってやるなんて思っていたが、学年上位の学力を手に入れた今となっては少しさみしくも思えるのだ。クラスメイトだけではなく学年全体の注目の的になったのだが、どうも一歩引いたような接し方をされる。それはただ俺たちが他人とあまり積極的に仲を深めようとせず、さらにはガリ勉と言われるような根暗な雰囲気が出ているのが最も大きな理由なのかもしれない。



 俺たち自身が施設出身ということを誰よりも気にしている。なぜなら頼ることができるのは施設長しか存在しないからだ。だから迷惑をかけるわけにもいかないため自分の身は自分で守るしかないと縛られた考えを仕方ないと受け入れ、他人との間に壁をつくってしまうのだ。そうすることで自分を守ることはできるだろうが余計に孤独に感じる。まるで自分の首を自分で絞めているかのようだ。誰にも見下されたくないから関わりたくない、しかし互いに馬鹿をしたりぶつかり合うことのできる青春の友が欲しい。そんな矛盾した気持ちが日に日に増していくのだ。



 毎日、自分の将来のために勉強をして他人との関わりを断絶しているのではなく、ただ自分の心が弱くて周りの目を気にして怯えながら生きているのも辛いからせめてナメられないように優等生並の学力を身につけ、他人と関わらずに殻に閉じ籠もっている、そんな自分は情けなくて自分じゃないとも思う。けれども何かを劇的に変えられる余裕もなく、変化を恐れ平凡を求めている。今の自分ではやっぱり何もできないじゃないか、とテスト結果が公開されて騒がしくなる廊下で一人悔しくて空を睨んだ。



 

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