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ダビデ像は何が評価されるのか 〜読むだけで詳しくなったフリができる芸術解説〜

世界で一番の傑作彫刻と言ったらこの「ダビデ像」を思い浮かべる人が多いでしょう。ですがこのダビデ像、具体的に何がすごいのか良く分からんって人も多いと思います。この記事では読むだけで美術わかってる人みたいになれるよう、要点を絞って制作しています。

ダビデって誰?

ダビデ像という名前は知っているけど、ダビデが誰なのか知らない人多いんじゃないでしょうか。ダビデという人物は旧約聖書に登場するイスラエル王の名前です。

このダビデ像では、若かりし頃のダビデが巨人ゴリアテとの戦いに臨み、岩石を投げつけようと狙いを定めている場面を表現しています。ちなみにこの後、ゴリアテはダビデの投げた石が額に直撃して一撃で倒されちゃいます。その時の戦いの様子がオズマール・シンドラーの「ダビデとゴリアテ」という絵画に表現されています。ダビデ像はこのシーンの直前を表現しています。参考にどうぞ。

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上の絵画を見るとわかるように、ダビデ像が持っているこのタオルみたいな物は、タオルではなく石投げです。それを踏まえて彫刻を見ていくとダビデ像がどういう場面にいるのかわかってくるでしょう。

バランスの秘密

ダビデ像が美しく見える一番の理由はコントラポストと呼ばれる表現方式による物が大きいです。コントラポストとは片足に体重をかけたように表現する事で、左右非対称でありながら調和や均衡の取れた構図を作り出す表現技法です。ダビデ像の場合は右足に体重をかけていて、左足は少し浮いた状態になっています。

ダビデ像はコントラポストを使って緊張とリラックスが両立したかのような構図を表現しています。これはゴリアテとの戦いに挑むダビデの決意と緊張と、投石のフォームへと移っていくリラックス状態を表しているのでしょう。

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ダビデ像を制作したミケランジェロは非常に解剖学的な彫刻をする事で知られています。ダビデ像の生々しさはそのミケランジェロの技能によって生み出されています。しかしよく見てみると右手や首が少し大きすぎる様に感じませんか?これは単なるミスではありません。そのあたりの理由も見ていきましょう。

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設置場所の秘密

ダビデ像は現在はフィレンツェにあるアカデミア美術館に所蔵されています。ですが元々はヴェッキオ宮殿のシニョリーア広場に面した入口前に設置されていました。ですが制作当時はサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のクーポラの下のドラムの部分に設置する予定でした。

なのでダビデ像は下から見上げた際に最も美しく見えるように体の縮尺を調整しているのです。ですがダビデ像があまりに素晴らしい出来だった事と、5.17mもある像をそこまで持ち上げるのは難しいという事で、ヴェッキオ宮殿の前に置かれる事になりました。

アソコの秘密

ダビデ像で最も注目すべき点の一つは陰茎です。ダビデ像の陰茎の表現について知る事はルネサンスの美術について知る事と同意義でしょう。

ダビデ像は冒頭で説明したとおり旧約聖書に登場する人物です。つまりダビデはユダヤ教の人物で割礼を受けていない事が不自然なのです。割礼とは陰茎の包皮を切除する宗教的な施術です。ですが見ての通りダビデ像の陰茎には包皮が残ったままになっています。これはミケランジェロが肉体の自然美を追求する上で人工的な割礼という表現をしたくなかったのが理由であったと思われます。

ちなみにダビデ像は多くのレプリカが作られていますが、エルサレムにレプリカを寄贈しようとした際、裸体で陰茎が見えてるのは卑猥だとして寄贈を断られた他、島根県の奥出雲町にレプリカが設置された際には地元住民から下着を履かせるよう苦情が入るなど、なかなかダビデの陰茎は受け入れられない事もかなりあるようです。

瞳の秘密

実はダビデ像の瞳をよく見るとハート型に掘られている事がわかります。戦いに挑むのに目がハートとはどういう事でしょうか。

これは別にダビデが戦闘狂だとかそういう意味ではありません。この目の彫込は目の反射を表現するための物です。戦いに挑む眼力を表現するためのものなんですね。

そしてよく見ると目が外斜視のようになっている事が分かります。これはミケランジェロのミスという説も多いのですが、私はこれも表現の一部だと考えています。

冒頭でダビデ像は緊張とリラックスの動的な表現だと言いましたね。私はこの目を今この瞬間にゴリアテを睨みつけようとしている瞬間を表しているのだと思います。極度の緊張によって固まっていた瞳が今動き出す、その瞬間の眼球振盪がこの瞳の揺れなんじゃないかなと。

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まとめ

ダビデ像。まるではじめからそこに立っていたかのような美しさは、これが大理石を削って作られた彫刻作品だという事を忘れさせてくれます。今戦いに挑むその瞬間を表したこの像は私達の想像力をどんどん膨らませていくような魅力があります。

ちなみにこのダビデ像を見たいけどイタリアまでは無理という方は長野県の美ヶ原高原美術館や滋賀県の希望が丘文化公園にレプリカが展示されているので一見してみてはいかがでしょうか。

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