読書感想『うらはぐさ風土記』中島 京子

30年ぶりに日本へ帰国し、武蔵野の一角・うらはぐさ地区の伯父の家にひとり住むことになった大学教員の沙希。
大学時代によく通っていたこともあり懐かしく馴染みのある叔父の家で日本での生活をスタートさせた沙希だったが、住みだして早々、庭に見知らぬ人物が入ってきて警察を呼ぶことに…。
聞けばその不審者は叔父の友人で庭の管理を請け負ってくれている秋葉原という地元住民だった。
懐かしさと現在が交錯するうらはぐさで、沙希が新しい出会いと生活を手に入れていく物語。
長くアメリカに住み、日本に帰ることなど考えてなかった沙希だったが、いろんな巡りあわせにより逃げるように日本へ舞い戻ったところから物語は始まる。
日本の風土などすでに遠い記憶のかなただった彼女だが、彼女の住み着いた叔父の家には柿の木のある庭があり、そこを管理してくれている秋葉原は野菜を育てる名人だった。
庭に生える草木を愛で、地でとれる野菜を食し、その地に昔から暮らす人々と触れ合う何気ない日々が面白おかしくつづられている。
沙希の出会う人々は、一度もきちんと働いたことのない秋葉原や、刺し子に夢中なその奥さん、変な敬語を使う女子大生と一癖も二癖もある面々である。
そんな彼らとともに、うらはぐさという地についての知見を深め、過去を知り未来を思う彼女たちの飾らない日々の物語だ。
日常を送りながら季節の変化に目を向け、庭に来る鳥に和み、地元の行事に参加してみる沙希の日々は誰にでも覚えのあるような素朴さにあふれている。
でもそんな日々をこうやってゆっくり楽しむと、そこには新しい発見や気持ちの琴線に触れる物事であふれている事を気づかせてくれる。
何か大きな事件のあるような話ではないぶん、より一層その何気ない日々の愛おしさが際立つような一冊である。
時代によって変わっていくことを受け入れながらも、今までに築き上げられてきたものを尊重し、これからのことを考える日々がとてもよかった。
沙希の日々をまたのぞいてみたくなる一冊でした。


・小川 糸『ツバキ文具店』

・古矢永 塔子『七度笑えば、恋の味』

・古矢永塔子 『今夜、ぬか漬けスナックで』

人のつながりと食って何気のない、当たり前のことだけども誰にでも等しくあるドラマだなぁって思わせてくれる本たち。

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