読書感想『二人目の私が夜歩く』辻堂 ゆめ

幼い時、両親の運転する車で事故にあい、一人生き残った茜はそのトラウマで睡眠障害を抱えていた。
入眠がうまくできず、一度眠ると夢も見ない…朝起きることが苦手な高校生の茜は、ある時『おしゃべりボランティア』に半ば強引に参加させられる。
そこで出会ったのは、交通事故で脊髄を損傷し首から下が動かせない、自発呼吸もできない少し年上の女性・咲子だった。
交通事故の後遺症を抱える咲子にシンパシーを感じた茜は、少しでも彼女の役に立ちたいとボランティアを続けることにする。
咲子と出会った直後から、茜は夜な夜な自分の身体が勝手に行動するようになってしまったことに気づき…
交通事故で人生が狂った茜と咲子、彼女たちは気づけば一つの身体を「共有」していた―――

茜主体の昼の話は、少し不思議な体験がつづられる。
偶然出会った何も自力ですることができない咲子に、何かしてあげたいと願う茜は自分のことよりも咲子の願いを優先しようとする。
茜が眠りにつき意識がなくなると、茜の身体は茜の知らないうちに行動をしていて、それは咲子の意識が乗り移っているのだというのである。
本当の身体は全く自分の意志で動かせない咲子に、茜は夜だけでも自分の身体を使って好きなことをしてほしいと願う、オカルトチックな前半『昼』。
そして、茜が眠っている間に、実際は何が起こっていたのかが明かされる『夜』。
前半の雰囲気と打って変わり、後半の夜は交通事故によって損なわれた咲子の本音が生々しく明かされる。
事故によって自分では何もできなくなってしまった咲子、昼に茜が出会った彼女の印象と夜に本音で語る彼女は実は全然違うのもとてもリアルだ。
自分一人では生きれない彼女を支える人たちの中で、何もできずにかわいそうな咲子、というレッテルが知らず知らずにはられており、それは本来の彼女と乖離していることが明かされる。
そしてその咲子が、茜の眠っている夜に、何をしていたのかが綴られるのだが、それがもう前半の不思議な雰囲気を全部ひっくり返す内容なのである。
オカルト、じゃ、なかった…だと!?な夜…そして、その夜に明かされるのは咲子の本音と、過去の交通事故の真実である…。
あぁ…とても辛くて息苦しい…埋もれている真実に押しつぶされそうになる一冊だ。
本当は「夜」に何があり、そしてどうして事故は起こったのか…そして、その結果の今が辛くのしかかってくるのだ。
うぉー…辛い…。
彼女たちの出会いで咲子は救われたのだと信じたい…。
最後の最後までどこか虚しさが付きまとう切なく苦しい一冊でした。


・下村 敦史「闇に香る嘘」

・岡崎 琢磨『鏡の国』

・小川糸『とわの庭』

主人公たちに何らかの制限のかかっている話って面白いのと同時に、何とかしてあげたいと強く思うんだけどその中で勝手な同情があることを指摘されちゃうと否定できないよね…。

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