読書感想『物語を継ぐ者は』実石沙枝子
中学生の本村結芽は、小学生の頃出会った児童文学『鍵開け師ユメ』シリーズによって心を救われた。
孤独だった小学校時代、唯一の友達は『鍵開け師ユメ』であり、ユメが好きだったからこそ中学校で友達も作れた。
ある日、事故で急死した伯母の遺品整理を手伝わされた結芽は、そこで『鍵開け師ユメ』の新作原稿を発見する。
死んだ伯母が大好きなシリーズの作者・イズミリラだと知った結芽は大興奮するが、残された新作原稿は未完であり『鍵開け師ユメ』シリーズが完結しないことにショックを受ける。
どうしても最後を知りたい結芽は、自らの手で『鍵開け師ユメ』を書くことを決意する。
すると、彼女は何故か物語の世界に入り込めるようになって…。物語の世界と現実世界を行き来しながら、結芽の執筆活動が始まった。
大好きなシリーズの、納得のいく結末を知るために結芽は『鍵開け師ユメ』と作者である伯母のことをより深く知ろうとする。
文学少女の冒険物語であり、家族と向き合う一冊である。
物語の始まりは死んだ伯母の遺品整理なのだが、結芽は自分に伯母がいることも知らなかった。
ましてその伯母が、自分の大好きな本の作者だったということを、彼女が亡くなってから知ったのである。
伯母は家族との折り合いが悪く、その存在はまるでなかったかのように扱われており、結芽には知る機会するなかったのだ。
物語の中に入り込めることが出来るようになり、ユメの続きを思い描くことになった結芽だが続きを考えることはユメを知っているだけでは無理であると気づくのだ。
この物語を終わらせるためには、作者である伯母が何を考え、何を思っていたのかが分からないとダメなのである。
今まで存在すら教えてもらえなかった伯母のことを知るためには、彼女と姉妹だった母親と祖母の協力が不可欠なのだ。
それはつまり、結芽自身が彼女たちとしっかりと向き合い、その確執がどこにあるのかを読み解かなければいけないのである。
ひとつの物語を簡潔に導くために奔走しながら、伯母を知り、母を知り、そして自分を知っていく物語である。
小学生から中学生という子供から大人へ変っていく狭間の少女がみつける物語の結末を見守りたくなる一冊だ。
まぁ、こう、本に入り込んで~とか割とよくある設定っちゃぁ設定ですが、結芽の真摯な思いが響く素敵な一冊でした。
彼女が完結させようと思う思いの中に『この本に出会ったころの自分にきちんと最後を届けたい』というのがあり、個人的にはそこがとても好き。
自分が納得したいのももちろん、それ以上にこの物語に救われた幼い自分を裏切りたくないのだという思いが良かった。
読みやすい文体でサクッと読める一冊なので物語が好きな人に読んで欲しい本である。
こんな本もオススメ
・夏川 草介『本を守ろうとする猫の話』
・深緑 野分『この本を盗む者は』
・ミヒャエル・エンデ 『はてしない物語』
一回本の世界に行ってみたい…って本好きなら全世界共通で一回は夢想してると思ってます。
というか、好きな本って現実との境界線が曖昧になってる気がする…登場人物に抱く感情なんて下手すりゃリアルよりリアルだよ。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?