読書感想『あなたの大事な人に殺人の過去があったらどうしますか 』天祢涼

横浜に本社を置くオオクニフーズの相模原支社に勤務する藤沢彩。
引っ込み思案な彩は自分の感情を表現するのが苦手で、人付き合いもうまくできない。
仕事のことで悩んでいた彩だったが、そんな彩を気遣い言葉を待ってくれる一年先輩の田中心葉のおかげで徐々に職場になじんでいく。
心葉と同期の佐藤千暁とも気安く接するようになり、日々が楽しくなる中で徐々に心葉に惹かれていく彩だったのだが、ある日の心葉の告白に職場の空気が一変してしまう。
『僕は過去に人を殺したことがあります』
誰も予想していなかったその告白は、彩だけではなく周りの人すべての心葉の見方を変えてしまう。
一方、心葉の同期である千暁は実の兄を殺された過去を抱えていた――

過去に人を殺した心葉、兄を殺された千暁、今の心葉しか知らない彩の心情を丁寧に紡ぎながら進む社会派ミステリーである。
現在の心葉はおよそ人を傷つけるとは思えない、思慮深く優しい青年である。
その仕事ぶりも真面目だと評価され、職場での信頼も厚い。
今の心葉と彼を取り巻く人々の間には、確かに信頼関係がありそこには穏やかな時間が流れているのである。
ところが、そんな心葉が、実は人殺しだった、のだ。
お、重い…めちゃくちゃテーマが重いです、重すぎますよ、天祢先生…!!!!
今の心葉からはそんな気配は微塵もなく、すでに過去の事件の罪は法的には償ったとされている。
じゃぁ、何も問題ないね!とは…とてもならないのが、人情である。
心葉に惹かれていた彩だったが、彼女は今の心葉を信じたい、力になりたい、と思いながらもどうしても芽生えてしまった恐怖を拭えない。
そして、同期であり心葉と飲み仲間でもある千暁の心情はもっと複雑なものになる。
子供のころに兄を殺された千暁は、その犯人を憎み続けてきた。
その過去を誰にも言えぬまま、たまたま同期として知り合った心葉に心を許し友情を育んでいたのである。
なのに、その心葉が…なのである…。
もうねぇ、めっちゃくちゃやるせないし、心の痛い、でも読むのを止められない…そんな一冊です。
人を殺すなんて言語道断、そんなことをしたのがそもそも間違っている!というのは大前提で、そのことは心葉が一番わかっているのがまたつらい…
もうすでに起こったしまった過去は変えられず、その過去一点が露呈した瞬間に現在にも多大な影響を与え、関わる人すべてが傷ついてしまう痛々しい一冊だ。
そんな登場人物たちの心情だけでも押しつぶされそうな内容なのに、本書はミステリー…更なる事件が起きてしまい、彼らは疑心暗鬼と混乱の渦に取り込まれてしまうのだ。
今の心葉を信じていいのか? 心葉は過去に事件を起こした時、いったい何を考えていたのか…
物語が進めば進むほど息苦しく、けれども、彼らの出す答えを見守らずにはいられない一冊でした。
面白いんだけど、面白いって表現が正しいとは思えないんだよなぁ…こういう時なんていえばいいの??
めちゃくちゃ切ないので、ゆっくり噛みしめて読んで欲しい。

・東野圭吾『手紙』

・薬丸 岳『最後の祈り』

・逢崎 遊『正しき地図の裏側より』

自分は当事者にはならない、と思ってる余計に興味深く読めるけど考えただけで息苦しいですね。
後どうでもいいけどタイトル長すぎるよ(笑)内容は一発で伝わるけどさぁwwww

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