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読書感想『誰かが見ている』宮西真冬

こんなはずじゃなかった…

「夏紀ちゃんがいなくなりました」
幼稚園からかかってきた電話に、榎本千賀子は不安を募らせた。
こうなったのは自分のせいだ…
自分の子供が姿を消した…その原因を作ったのは自分だと打ちひしがれながらも、どうしても彼女は考えてしまう。
…このまま夏紀が帰ってこなければ、自分は母親の肩書を捨てられるのではないか…。
そんなことを考えていると再び電話が鳴る。
それは夏紀が見つかった知らせではなく、<彼女>からのものだった。
子供に関わる4人の女のジレンマが交錯するサスペンス。


夫の協力が得られず子供のことも自分の子のように思えない千夏子、年下の夫とのセックスレスに悩むアパレル店の店長を務める結子、結子の店の常連で幸せを見せつけるようにマウントを取ってくる夕香、幼稚園で勤めいい加減な母親たちと横暴な先輩にうんざりしている保育士・春香…
それぞれが不満を抱え、劣等感を抱く彼女たちと、最近タワーマンションに引っ越してきた美しき母子・柚季と杏。
複数の親子と、子供を望む女、子供を望まない女のそれぞれの思惑や承認欲求が交錯するサスペンスである。
全体的には面白い…ドロドロした女同士のマウントの取り合いや自己中心的な姿が描かれ、加えて家庭に非協力的な旦那たちまで登場する。
家のこと=女の仕事、という認識を隠そうともせず好き勝手にふるまう旦那にもなかなかイライラさせられる一冊である。
登場人物のほとんどが、なぜ自分がこんなしんどい思いをしないといけないのか?という視点で動いており、それが余計に他者に軽んじられたり無自覚に誰かを傷つけていたりという描写がリアルだった。
自分より不幸な女を見て安心し、他者の持っているものばかりに気を取られる彼女たちの、そんな心根が日常生活の歯車まで狂わせていく様が描かれている。
こういうドロドロ系はいやそこまでひどい奴いる?とかもちょっと思いつつ、登場人物が自分勝手であればあるほど嫌悪感も募って面白いのだが、どうしてもそこで苦しむのは本人よりも子供なのでその辺は心苦しい。
最終的には、あーなんだかんだ割と平和のところに落ち着くのね…という若干の肩透かしも食らいつつ、案外現実ってこんなものかなって気がする。
読んでいて気分の悪くなってくる本だが、それはそれだけ未熟で自分勝手で、そこが妙にリアルな人たちのオンパレードだからってことでそれだけ真剣に読めたからですかね。
うん、大人はもうちょっと他者を思いやれるようにならないとだめだわ…って教訓になる。

こんな本もオススメ


・中脇 初枝 『きみはいい子』

・窪 美澄『水やりはいつも深夜だけど』

・湊かなえ『母性』

子供が苦しい本は心苦しいんだが、こういうことは実際世界に溢れているのよね。

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