読書感想『ひとつの祖国』貫井 徳郎
第二次世界大戦で西はアメリカに、東はソ連に占領され日本は西と東に分断された。
資本主義で成功を収めた西日本に対し、共産主義で貧困を抱えた東日本…やがて日本は再び統一を果たすが、両者の格差は埋まらなかった…。
やがて東日本では、再び西日本とは分かれて独立をしたいと願うものたちがテロ組織を結成する。
父親の仕事の都合で幼馴染として友情をはぐくんできた西日本出身の辺見と、東日本出身の一条…出身地は違えど一緒に育った二人には家族のような絆があった。
ところが一条が意図せずテロ組織に関わってしまったことで二人の運命が大きく分かれる。
自衛隊特務部隊に所属する辺見は、テロ組織を追っていた…。
設定として日本がドイツと同じような戦後をたどったSFである。
が、内容はなかなかリアリティがあり絵空事と笑い飛ばせない切実さのある社会派エンタメでもある。
統一したものの西日本から安価な労働力としか見なされていない東日本は全体的に貧困に喘いでおり、東日本に生まれた時点で自分たちの将来を諦めている。
資本主義の旨味を味わったことがなく、ただただ搾取されている彼らはいつの日からか「これならば統一前の方が良かった」と考えるようになるのである。
そのためには東日本として独立をしなければ、と願いテロ組織『MASAKADO』が結成されたのだ…。
東日本出身で貧困ながらも仕事はあり、細々と暮らしてきていた一条は知らぬうちにテロリストに仕立て上げられMASAKADOの一員として迎え入れられてしまう。
一条をよく知る辺見は、彼がテロリストになるわけはない…と信じながらも、MASAKADOの全貌を解明するべく日々任務に就いているのである。
物語の大筋は意図せずテロ組織に取り込まれた一条が、自分も組織の一員として生きるしかないのかを悩み、精一杯自分で未来を選び取ろうとする物語である。
巻き込まれる形でテロ組織に入ることになった一条だが、組織の人たちとの対話の中で共感できる部分もあり自分ができることを模索する。
その一方で、誰かの命を奪うテロという行為については疑問を持っており、彼らの言葉に受け入れられないものも多くある。
強い信念があるわけでもない一条は、テロリストたちと過ごしながら自分の納得できる答えを探すのである。
なんだろうな、現世界で実際にある意見の違いや人々の苦悩やその中でどう声を上げるかなどを日本を東西に分けることでコンパクトにわかりやすく論じつつ、ミステリーな要素もありしっかりエンタメに仕上がっている印象である。
突然テロリストにされてしまい、そのテロリストに保護されて自分もそうならざるを得なくなる一条の混乱や、何とか折り合いをつけようとする思考などはなかなかリアルで面白い。
何が起こっているかはわからないながらもそんな一条を思う辺見との対比もいい。
まぁ若干最後は意外なところに落ち着いたので、個人的にはもうちょっと辺見がキーになるようなラストが望ましかった気もしますが…。
日本にいるとなかなか…犠牲者の出るテロを起こすほどの思想が理解できないと感じることが多いので、ちょっといろいろ新鮮な気持ちにもなったり…。
次々に起こる非日常な出来事と、強い信念の発露に引き込まれてるうちに読み終わってしまった一冊です。
日本では社会派エンタメだな~って対岸の火事で済む感想も、きっと切実に共感できてしまう人たちもいるんだろうなと思い複雑な気持ちになりました。
…日本って平和よね…いや、平和ボケしてるだけか…僕含めて。
・逢坂 冬馬 『同志少女よ、敵を撃て』
・伊坂幸太郎『モダン・タイムス』
・ジェームズ・マクティーグ監督作品『V・フォー・ヴェンデッタ』
…いや最後映画なんですけど、この本が気に入った人は絶対面白いと思う…たまたま最近見て通じるものを感じてます。
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