私家版歌集『生殖の海』購入ページ
暑苦しい前置きを読んでみる
いまから約800年前、藤原定家とその同時代の新古今歌人たちが追い求め、歌の形に顕現させようとした、“及ばぬ高きすがた”。
プラトンの述べた“美のイデア”に等しいそれ、新古今の精神を、平成令和の世に生きてなお追い、願いたい。
その一心で歌の道、新古今の精神を歩んできた。
人からの評価や目に見える形、わかりやすい何かを願わない。
行くべき道を行き、理想に近い歌の詠めるよう努力し、できるかぎり理想に近い歌を残す。人の言う理想ではなく、【“歌という概念”の言う理想に近いそれ】を。
それ以外の雑事に決して惑わされることなかれ。
一生を費やしても及びようのないその“およばぬたかきすがた”に、それでも及びたい、及ぼう、と志すのだから。
私にとり新古今の精神を追うこととは、ひたぶるに歌を学び詠むことだ。
それらをひとつの形にまとめたり人から評価されやすい形にしたりすることでは、決してなかった。
その日までは。
2019年5月、そのおもいは突然私の頭を殴って掛かった。
「歌集、出さなくちゃ。これまでどうして歌集を出そうとせずに、私、生きてきたのだろう!? 」
それは、ほぼ同い年の、闘病中の歌友の容態の悪化を知らされた日だった。
生きているあいだになんとか歌集を、と彼女に近しい友人たちが奔走しているという。
うつ病からの自殺未遂もした、レイプもされたしホームレス経験もある。死をまったく意識することなく歩んできたつつがない人生では、決してなかった。
それでも、和歌に出合ってからの充実感に、それ以降の数年ほど、自分が死ぬことについて考える時間の少なくなっていたのも事実。
近づく歌友の死期は、すべての人間に平等に与えられている死というタイムリミットを私に突き付けるものだった。
彼女に近づいている死が、私には数十年先のものである、とどうして言えるだろう?
「死ぬまでに歌集を出さなくちゃ。どんな手を使ってでも」
毎年7月末を締め切りとする、第1歌集をまだ出版していない歌人向けの300首詠の賞への応募を決めた。
残り2ヶ月という短期間で過去作をまとめ、章立てし推敲し、応募。大変という言葉では表せない大変さだった。多作であることを恨めしく思ったのは初めてだったかもしれない。
その間に、病床の歌友は亡くなった。
その賞の結果の出るまでに、縁あって優勝賞金10万円のスピーチ大会への応募もした。
予選を通過し、大会準備をしている最中、7月提出の300首詠が予選を通過したものの受賞は逃したと知らせを受けた。
スピーチ大会の理解不能な結果を引きずる間もなく、ならば自力で稼いで出版するまで、と当時住んでいた島根県から東京に出稼ぎに出ることにした。
出版社を通した自費出版に掛かるのは200万円弱。これは逆立ちしても払えない。
けれども、出版社を介さずすべての工程を自分で引き受け印刷だけを業者に発注する“私家版”という形ならば、和歌仕事と合わせて数日間出稼ぎすれば費用は賄える。
画家である友人にぜひとも依頼したい表紙のデザイン料も、2,3ヶ月働けばなんとかなる。
スピーチコンテストの結果の出た2週間後には東京の友人宅に身を置き、かつて東京に住んでいたころのアルバイト先に出戻りしていた。
好きとはいえ体力と神経を使う肉体労働に励みながら、休みの日や夕勤の日の午前中、通勤時間などを使い、
数ヶ月前にいったん完成させたはずの300首詠に手を入れていった。容赦なく。
その過程で完全に削除した章も、新たに組み立て3ヶ月や2ヶ月で仕上げた章もある。
「この歌は入れたい」というエゴを突き放し「この歌は入れるべきか」と“およばぬたかきすがた”に問う。
だいたいの答えは「否」だった。心がどんなに叫んでも、「否」と出た歌は削除した。
そうして、私家版歌集『生殖の海』を世に出した。
歌友の死から11ヶ月、歌集を出そうと決めてから1年。無我夢中だった。
2020年5月に上梓し、2021年9月時点で、100冊印刷したうちの半分以上に当たる60冊近くが旅立って行った。
現代短歌業界の贈答文化には疑問が否めないので、原則それはしない。特例の3冊を除き、すべて買われたものだ。
その結果を誇らしく思う。
そして、有名人でも何でもない歌人の、一般の流通ルートに乗らない私家版歌集がこんなにも買われている、そのことへの感謝も尽きない。
むろんこの『生殖の海』が私の到達点ではまったくないが、
2020年5月までの私の、“およばぬたかきすがた”希求の歩みの一端の表れたものではある。
残り40冊強、然るべき方の手にお届けできることを願い、また信じている。
同時に、私の“およばぬたかきすがた”追究のさまを、今後も見守っていただけたら、これ以上幸いなことはない。
不慮の事故についてはわからないながら、数年以内に死にそうな病気や自死を選びたくなるような苦悩を抱えることは、いまのところない。
あと50年ぐらいは生き、この道を行くつもりでいるから。
長々とした思いの丈をお読みくださり、ありがとうございました。
歌集を買う
梶間和歌私家版歌集『生殖の海』
価格:1冊2,750円(2,500円+消費税)
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waka-kajima@hotmail.co.jp
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※手数料はご負担ください。
※7日以内を目安にお振り込みをお願いいたします。
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☆3冊以上同時にご注文の方には、3千円相当のプレゼントを同梱しております。
☆サイン代わりに、1冊につき1首和歌をお詠みし、歌集に書き込みます。
ご不要な方はご遠慮なく備考欄に「和歌の書き込み不要」とお書きくださいね。
梶間和歌ってどんな人?
新古今見ざる歌詠みは遺恨のことなり。
1986年、島根県生まれ。
2009年~13年、自作の詩歌の対面販売に従事。
2012年、近代短歌に触れて短歌を詠み始める。
その年の夏、式子内親王の和歌に衝撃を受け、古典和歌、特に中世の和歌(新古今和歌、京極派和歌)に傾倒。
2014年、ながらみ書房『短歌往来』3月号「今月の新人」に作品寄稿。
2020年、ながらみ書房『短歌往来』4月号の特集に評論寄稿。
同年5月、私家版歌集『生殖の海』上梓。
2021年、現代短歌社「現代短歌新聞」4月号「島根県の歌人」に作品寄稿。
2022年、ながらみ書房『短歌往来』8月号に作品寄稿。
2023年、ながらみ書房『短歌往来』9月号に作品寄稿。
2024年、隠岐後鳥羽院大賞 令和5年和歌部門 大賞(古事記編纂一三〇〇年記念大賞)受賞。
2021年~22年、オンライン講座「歌塾」講師。
2023年~、裕泉堂歌会講師。
新古今和歌と京極派和歌の良き読者を増やすことを生涯の仕事とする。
心の友は藤原定家、心の師は永福門院と光厳院。
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