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「こんな小説があったら面白いな」という妄想をして、その妄想の読書感想文を書きます。

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    妄想した作品の感想文です

最近の記事

世界は分たれて、未来は輝いている

……しかしそれでも、私たちの元に訪れるのは昨日までと変わらない日常なのです。だから皆さん、恐れないで。喪ってしまったかもしれない物に想いを馳せないで。きっとそれだけが、私たちに残された歩むべき道なのです……。 ラジオから流れる託宣が僕らの間を裂いていたから、僕はラジオを掴んで、目下に広がるグラウンドに向かって投げつけた。錆びた銀色のラジオから流れる声はドップラー効果で低くなり、やがて硬質のプラスチックが地面にぶつかる音がして、止まった。 明日花が僕の肩を小突いた。 「下に誰

    • 連想の否定

      僕たちの出会いは高校までさかのぼる。 文化祭の日のことだ。 僕はあまり賑やかなのが得意ではなかったから、校舎内の展示を見て回っていた。 ある教室の、パーテーションと展示物の迷路の先にいたのが彼女だ。 軽く会釈をすると、彼女も会釈を返した。 彼女が座る前の机には糸で綴じた小冊子があった。 小冊子の表紙にタイトルは無く、隅に小さく『ヒロコ』と書かれていた。 奇妙な詩集だった。 ・ダイヤモンドにチェリー。・サンザシのコンクリート。・リアス式電球。 連想を否定するような、不思議な言葉

      • コーヒー・ブレイク

        まずは彼に謝らなければいけない。僕は非常に個人的な憂鬱を抱えていて、一人でいるならばそれは僕だけが抱える時限爆弾なのだけれど、こと共同生活においては危険なホット・ポテトになるということに今更になって思い至った。僕がそのことに気づくまで彼もきっと憂鬱な時間を過ごしたことだろう。陰惨たる精神状況は感染する。悪いことを考えると悪いことが重なる。だからこそ僕たちは楽しく過ごさなければいけないのだ。何故僕は今更になってこんなことに気が付いたのか。ここに移り住む前の僕はそれは悲惨な暮らし

        • 家具家電・憑き物件

          さて僕は住み慣れた街を離れ同志の厚意によって氏の部屋の片隅に転がり込んだわけだが、どうもこの部屋には何か良くないものが憑いているらしい。それは姿を見せる事はない。ナメクジの這った後のようなぬめる気配がする時、それは見慣れない家具や家電の裏に潜んでいる。それは氏を蝕んでいる。談笑をする中でふと氏の顔が陰る。その時氏は僕の顔の向こうに何かを見ているのだろうか。それとも、やはりというべきか、氏もそれの気配を感じているのだろうか。それは待っている。僕が眠りにつく時を待ち構えている。瞼

        世界は分たれて、未来は輝いている

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          9本

        記事

          SNS (掌編小説)

          知人にSNSの利用を勧められたので、登録し、母校のコミュニティに入ると、穴空きではあるが、学生名簿を思わせる、懐かしい名前が並んでいた。名前を指で撫でると、個人のページで、めいめいが仕事の愚痴や家族への思いを、誰に宛てるでもなく洩らしている。しかし、薄情ながら、彼らと交わした会話や共に成し遂げた事など何も思い出す事が出来なかった。彼らの、よそ行きの言葉の中に、郷愁を揺さぶる物は無かった。致し方ない事だ。卒業してから何年も経ち、皆、仕事を始めている。家族を持つ者もいる。高校時代

          SNS (掌編小説)