オンライン授業の誤解と幻想(5)
前回、オンライン授業の普及を考えたとき、従来の「時間で学修量をはかるシステム」の再考と、学生の「多様性」への対応について考える必要があると述べました。
今回は、オンライン授業による「多様性」への対応について考えます。ここでいう「多様性」とは、ひとまず学生の学力・学習意欲の多様性をさします。ポイントは、下記の通りです。
・オンライン授業では、学生の学修状況を「見える化」することができる。
・学生の学修状況にあわせて課題の量や出し方を調節することができる。
・教員はオンライン上の再生履歴等を参照して、授業の難易度や進め方を調整することができる。
・オンライン授業の実施によって、受講方法の選択肢もひろがり、学生の期待値もあがる。
学修速度と理解度の多様性
学生の「多様性」から派生する問題は、学生の学修速度や理解度のばらつきです。たとえば。60分の映像コンテンツを理解するのに90~120分かかる学生もいれば、極端にいえば、30~45分で理解してしまう学生もいます。このようにいうと、「30~45分で理解できるような簡単な内容をつくる方がおかしい」という声も聞こえてきそうですが、授業の難易度を調整するというのは、一般に考えられているよりも、かなり難しい作業です。クラス内での調整が難しいだけではなく、年によって受講生の能力にばらつきがありますから、教員は試行錯誤しながら、難易度を「チューニング」していく必要があります。もはや、学生の学力・学習意欲が均質であることを前提にはできないのが現状です。
さて、このような学修速度や理解度のばらつきに対応するには、学修速度が速く理解度も高い学生には、さらに高度な課題をあたえ、逆の場合は、ゆっくりと時間をかけて勉強するように促せばよいでしょう。映像コンテンツを配信する授業の場合、何度も繰り返して観ることができるメリットがあります。ライブ配信の授業でも、録画されたものをあとから観ることはできますし、場合によっては、別の補足的なコンテンツを観るように促すこともできます。
映像コンテンツを配信するオンライン授業では、多くの場合、ログインの有無(=出欠)、映像コンテンツの視聴時間、巻き戻し・早送りなどの履歴が記録されます。このような履歴をうまく活用することで、教員は学生の学修速度や理解度を把握することができます。また、巻き戻し・早送りの履歴は、授業の難易度や進め方を調整するのにも役立ちます。たとえば、何度も巻き戻してコンテンツを観る学生が多い箇所については、さらにくわしく説明するように改善する必要がありますし、逆に、早送りをする学生が多い箇所では、すこし説明を省略することも可能です。このように、オンライン授業の場合、学生の学修状況を「見える化」することが簡単です。そのことで、学生の学修速度と理解度の多様化にも柔軟に対応できます。
受講方法の選択肢
学生の「多様性」からくる問題は、学修速度と理解度の多様性だけではありません。今回のように、やむをえずとはいえ、オンライン授業が可能であることが実証されると、対面よりもオンラインで学びたいという学生もでてきます。つまり、学生の多様なニーズについても考える必要があります。
オンライン授業を今後も希望するかというアンケートについては、大学によって回答にばらつきがみられます。たとえば、麗澤大学の場合、4割弱が対面授業を希望する一方、オンライン授業の継続を望む学生は約半数いました。また、秋以降の授業をオンラインと対面の選択制にすると発表した関西国際大学では、7割がオンライン授業を希望しているといいます。いずれにしても、オンライン授業に対してポジティブな印象をもつ学生が比較的多いと考えられます。これは、オンラインだと交通費が不要であることや、自分のペースでリラックスして学習できるというのが理由でしょう。「オンライン授業の誤解と幻想(3)」でふれた「ホーム&アウェイ」の視点からすれば、オンライン授業で学生たちは、まさに「ホーム」の心地よさを感じているといえます。
もちろん、学生のニーズに応えて、オンライン授業だけにするという極端な選択をするならば、大学はオンライン大学になってしまいます。大学での学びで大切なのは、やはりキャンパスでの対面での人的交流です。その意味でも、オンラインと対面をいかにブレンドするかが重要になってきます。
また、不登校の子どもたちがオンライン授業をきっかけに授業に参加できるようになったという事例について以前に紹介しました。大学においても状況は同じで、人間関係でつまずいて大学に来られなくなった学生が、オンライン授業が学びを再開するきっかけになった例もあります。様々なタイプの要支援学生についても、オンライン授業のほうが学びやすい状況を提供できるかもしれません。
大学のリソースにも制約がありますし、すべての学生のニーズに応えられるわけでもありません。しかし、オンライン授業が実施可能であることが分かった以上、学生の期待値もあがるのは当然です。「オンライン授業の誤解と幻想(3)」でふれた、オンライン授業と対面授業の三つの組み合わせについて、各大学は真剣に考える必要があります。
(1)対面を主とした科目とオンラインを主とした科目のすみわけ。
(2)ひとつの科目を対面とオンラインで同時に開講する。
(3)ひとつの科目のなかで、対面の部分とオンラインの部分を使い分ける。
「オンライン授業の誤解と幻想(6)」に続く
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