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オンライン授業の誤解と幻想(3)

前回オンライン授業と対面授業をいかに組み合わせるかが今後の課題であり、2020年度はその格好の実験期間である、と指摘しました。
 今回は、その組み合わせ方について具体的に考えます。ポイントは以下の通りです。

・対面であることを必須としない大人数の授業科目については、思い切ってオンラインにする選択肢もある。
・ひとつの科目を対面とオンラインで同時に開講する選択肢もある。
・「ホーム&アウェイ」の視点からみれば、対面・オンラインの同時開講は学びの機会を広げる。
・対面とオンラインをうまくブレンドすることで、学びを深める仕掛けをつくることができる。

ホーム&アウェイの視点

 前回、オンライン授業と対面授業のおもな組み合わせ方として、下記の三つをあげました。

(1)対面を主とした科目とオンラインを主とした科目のすみわけ。
(2)ひとつの科目を対面とオンラインで同時に開講する。
(3)ひとつの科目のなかで、対面の部分とオンラインの部分を使い分ける。

 (1)については、今後のコロナ拡大等を想定した場合、大人数の授業科目で、対面であることを必須としないものについては、思い切ってオンラインにする選択肢もあると思います。私の勤務校でも、対面授業の再開にむけて、大人数科目の教室での着席方法についてシミュレーションをしていますが、一部の授業では、どう考えても密な状態がさけられない例があります。
 (2)については、日本では事例がすくないと思いますが、北米の大学では、ひとつの科目で対面かオンラインかを学生に選択させる例をいくつも知っています。
 15年前、私の勤務校で、ある科目の受講生に対面と(コンピュータ室での)オンラインのどちらかを選択させ、その教育効果について実験したことがあります。サンプルの属性や学力など、考慮すべき点はありますが、オンライン授業を受けた学生のほうが相対的に成績が高いという結果になりました。オンライン授業を選択した学生のなかには、もともと家で落ち着いて勉強したいという学生が多く、自分のペースで学習できたことが成績に結びついたとのことでした。
 最近のニュースによると、ひとつの科目について、学生にオンラインか対面かを選択させる大学もでてきました。考えてみれば、これまでの対面授業では、学生が教室に行くという意味では「アウェイ」の状態でした。これに対して、オンライン授業は家や自分が心地いいと思う場所で授業を受けるわけですから、「ホーム」の状態です。この「ホーム&アウェイ」の視点というのは、オンライン授業を考える際にも重要です。実際、オンライン授業をしてみると、学生たちはカメラとマイクをうまくオン・オフしながら、リラックスして授業を受けています。
 熊本市の中学校では、不登校の子どもたちがオンライン授業をきっかけに授業に参加できるようになった、との報告もあります。このことは大学生も同じで、人間関係でつまずいて大学に来れなくなった学生や、様々な支援が必要な学生に、オンライン授業は学びの機会を広げることになります

ブレンディッド・ラーニングの可能性

 さて、(3)ひとつの科目のなかで、対面の部分とオンラインの部分を使い分ける、という授業形態は「ブレンディッド・ラーニング」(blended learning)と呼ばれています。まさに対面とオンラインの「ブレンド」(混ぜ合わせ)です。
 代表的な例としては、事前に学習すべき知識についてオンラインのビデオ等で学び、それをもとに教室ではグループワークやディスカッションをして、事前に学習した知識についての理解を深める、という方法があげられます。従来の対面授業では、教室で知識を学び、自宅で知識について復習していました。その意味で、このようなオンラインと対面の組み合わせは、この関係を「反転」させたという意味で「反転授業」(flipped classroom)と呼ばれています。文科省も、アクティブ・ラーニングを促進するものとして、反転授業を推奨しています。
 反転学習では、教室で事前学習した知識について確認したり、知識を使った問題解決等に取り組みますから、学びが深まります。ただし、この仕組みがうまくまわるためには、事前学習が成立している必要があります。事前学習をしない学生が多ければ、教室での学びは深まりません。
 反転授業はブレンディッド・ラーニングの代表例ではありますが、それがすべてではありません。もともと、ブレンディッド・ラーニングは、複数の学習形態のブレンドという広い意味で理解したほうがよく、対面とオンラインのブレンドに限定されません。その意味では、フィールドワークや学外実習とオンラインのブレンドも可能です。
 いずれにしても、対面とオンラインをどうブレンドし、学生の学びを深める仕掛けをつくるのか、ということが重要になります

オンライン授業の誤解と幻想(4)」に続く



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