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オンライン授業の誤解と幻想(2)

前回オンライン授業によって、日本で誤解されて運用されている「セメスター制=単位制」の弊害が、あらためて浮き彫りになったと指摘しました。つまり、1学期に10~12種類の異なる科目を履修するような制度設計の結果、「生真面目な」学生ほど課題に追いつめられて疲弊する反面、課題の多さをはじめ、様々な理由からオンライン授業から離脱する学生がおり、両者の二極化がみられるということです。
 このような、日本版「セメスター制=単位制」の弊害をなくすためには、「単位制の誤解と幻想(1)」でふれた、本来のセメスター制(完全セメスター制)に移行して、1学期5~6科目をじっくり学ぶシステムにするのが根本的な解決方法ですが、現時点でそれは困難でしょう。現行の制度のなかで、「じっくり学ぶ」というところに焦点をあてれば、オンライン授業と対面授業の組み合わせに、ひとつの可能性が見出せます
 そこで、オンライン授業と対面授業の組み合わせについて考えます。なお、今回のポイントは以下の通りです。

・文科省はオンライン授業を積極的に活用する方針をだしながらも、対面授業をすべての基準・原則とする「対面授業原理主義」の立場に立っている。
・重要なのは対面かオンラインかの二者択一ではなく、両者の組み合わせ。
・2020年は、オンライン授業の格好の実験期間である。
・様々な試みをしておくことが、今後の緊急事態やオンライン授業拡大への対応に役立つ。

「対面授業原理主義」の終わり

 いまオンライン授業と対面授業の組み合わせについて考えるといったばかりですが、文科省や大学では、オンライン授業か対面授業かという二者択一の議論や、対面授業をすべての基準・原則とする「対面授業原理主義」があるようにみえます。
 たとえば、コロナ拡大に対応して文科省がだした「学事日程等の取扱い及び遠隔授業の活用に係るQ&A等の送付について(5月 22 日時点)」では、オンライン授業の実施について、「面接授業に相当する教育効果を担保する」「面接授業に相当する教育効果を有する」といった表現が多く登場します。なお、ここでいう「面接授業」とは、一般にいう「対面授業」のことです(以下「対面授業」で統一)。つまり、対面授業がすべての基準である、ということです。
 この考え方は、ICT(情報通信技術)の発達を受けて、オンライン授業(文科省のいう「メディア授業」)を積極的に活用しようという考えとは若干矛盾するものです。ただし、文科省がオンライン授業に積極的に踏みこめない理由もわかります。ひとつには、オンライン授業の普及で、映像コンテンツを垂れ流すだけの授業が増えることを危惧しているからでしょう。また、対面授業を基準にしたほうが、「一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもって構成する」という例の「呪文」について語りやすいからだと思われます。「大学における多様なメディアを高度に利用した授業について」という資料でも、次のように強調されています。

メディア授業

 とはいえ、前回も指摘したように、皮肉にも、オンライン授業が授業外学修時間の増加に寄与し、「生真面目な」学生ほど多くの課題に追われて疲弊しているようです。課題の量については、オンライン授業がさらに普及すれば、教員側も適切な落としどころがわかり、おのずと解決するでしょう。
 さて、今後のコロナの拡大状況等を考えれば、対面かオンラインかといった二者択一的な思考や「対面授業原理主義」に固執することはできませんむしろ、対面とオンラインをいかに有効的に組み合わせるかを積極的に考えたほうが得策です

2020年こそ格好の実験期間

 対面とオンラインの組み合わせといっても、大学教職員のなかには、まだまだオンライン授業に対する誤解があります。その典型的なものは、コロナが収まれば「オンライン授業はできなくなる」あるいは「オンライン授業は単位として認められない」といったものです。
 しかし、文科省が「メディア授業」という名前で認めているもののなかにオンライン授業は含まれます。京都大学高等教育研究開発センターの「メディアを利用して行う授業」では、具体的な事例に即して、どのような授業が文科省が認めるメディア授業にあたるかを示しています。また、大学設置基準にも、卒業要件124単位中、60単位までメディア授業で修得可能であることが示されています
 オンライン授業に関する誤解が生じる背景には、コロナ禍までは、多くの大学でオンライン授業を実施するという発想がなかったことや、あったとしても技術的・財政的な制約が大きかったことがあると思われます。しかし、zoomをはじめとして、比較的安価で使い勝手のよいツールが多く登場すると、オンライン授業のハードルは一気に低くなりました。
 また、2020年度の新入生は、最初に体験する大学の授業がオンラインですから、当然、それが初期値になります。そう考えると、教育プログラムのなかにオンライン授業をいかに組み込むかが大きな課題となります。
 では、対面とオンラインの組み合わせという場合、具体的にどのようなケースが考えられるでしょうか。おおむね下記のようなものがあげられます。

(1)対面を主とした科目とオンラインを主とした科目のすみわけ。
(2)ひとつの科目を対面とオンラインで同時に開講する。
(3)ひとつの科目のなかで、対面の部分とオンラインの部分を使い分ける。

 各ケースの詳細については次回にお話しますが、いずれも大学設置基準に抵触しない範囲での運用が可能ですし、今年度に関しては、特例も含めて、かなり実験的な試みができます。オンライン授業で著作物を利用する際の補償金についても、今年度については特例措置として無償となりました。
 したがって、各大学にとって今年度こそオンライン授業の格好の実験期間であるといえます。この時期に様々な実験をしておくことが、今後のコロナ禍等の緊急事態に役立ちます。また、オンライン授業拡大の流れは変えられないと考えられますから、一歩でも先に動きだすことが重要です。

オンライン授業の誤解と幻想(3)」に続く



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