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オンライン授業の誤解と幻想(6)

前回から、かなり時間があいてしまいました。各大学では、前期のオンラインによる授業がほぼ終わった時期で、教員にとっては、さまざまな課題と可能性がみえてきたと思います。
 現在のコロナ感染状況をみると、後期もオンライン授業を実施せざるをえない現実があります。そうなると、「オンライン授業の誤解と幻想(2)」でもふれた「対面授業原理主義」や「オンライン授業=対面授業の代用品」という考え方を見直す必要があります。ポイントは以下の通りです。

・オンライン授業は対面授業の「代用品」ではない。
・中長期的にみて「対面授業+オンライン授業」を初期値とする発想の転換が必要。
・すべての授業コンテンツを教員が自分で作る必要はない。
・インターネット上のコンテンツをうまく組み合わせる授業づくりも可能。

オンライン授業は対面授業の「代用品」ではない

 世間では「対面授業にもどす」という言葉がよく使われます。この「もどす」という表現には、オンライン授業が「例外的・変則的」なものであるという意味合いが含まれています。文科省も、卒業要件の124単位のうち、60単位までオンラインで修得可能であることを示していますが、基本的には、対面授業をすべての基準・原則とする「対面授業原理主義」の立場にたっています。このような背景があって、オンライン授業はあくまでも対面授業の「代用品」にすぎない、という考え方が一般的です
 しかし、中長期的にみた場合、対面授業を初期値とするのではなく、「対面授業+オンライン授業」を初期値として考える発想の転換が必要です。「オンライン授業=対面授業の代用品」と考える教員は、対面授業で想定されていた授業内容を、ビデオ撮りやライブ配信のかたちで、そのままオンラインに移しかえるでしょう。しかし、映像をはじめさまざまな教材を駆使し、学生の学修の進捗をリアルタイムで把握できるなどの点で、使い方によっては、オンライン授業は、単なる対面授業の「代用品」以上の意味をもちます
 とはいっても、これ以上オンライン授業に労力を費やすのは御免だ、という教員も多いと思います。実際、対面授業の内容をオンライン授業に「移しかえる」だけでも大変な労力がいります。また、オンライン授業にかかわる機器やソフトウェアの習熟、教材の準備等で、多くの教員は、対面授業の何倍もの労力を費やしているのが現状です。
 そこで、教材作成を省力化する方法を考えてみましょう。

教材開発は「借り物競争」

 対面授業の内容をオンライン授業に「移しかえる」という発想からすると、教員がすべてのコンテンツを自分でつくることが前提になります。しかし、すべて自分でつくる必要があるでしょうか。そうしなければ気がすまないという場合は別ですが、YouTubeやTEDをはじめインターネットには良いコンテンツがいっぱいあります。授業内容にもよりますが、これらのコンテンツをうまく組み合わせて授業を構成することも可能です
 たとえば、金沢工業大学のSDGs(持続可能な開発目標)ビジネスについて学ぶ「環境技術イノベーション」という科目では、TEDの動画と教員による解説、グループワークやディスカッションなどを組み合わせて授業が展開されています。ここでは、独自の教材作成ではなく、活用する教材の発掘に教員の労力が割かれています。
 この授業方式は、いわば運動会の「借り物競争」のようなものです。「借り物競争」では指定された品物を会場から借りてくるように、教材開発では、テーマと学習目標にあったコンテンツをインターネットから借りてくるわけです。そうなると、教員に求められるのは、良いコンテンツを発掘する目利きということになります
 TEDの場合、基本的に英語のコンテンツですが、日本語字幕がつけられたものが多く、ひとつのコンテンツの長さも5~15分程度で使いやすいです。私も以前から授業でよく使っています。また、講演内容を書き起こしたものも多言語で表示できますから、内容を理解するのに役立ちます。さらに、スマホのアプリには、英文・和訳を対比して表示したり、再生スピードを調節したりできるものもありますので、英語学習にも便利です。

 さて、「借り物競争」のように、他からコンテンツを借りてきてオンライン授業を実施することは大学設置基準から逸脱するのではないか、と不安になる教員もいると思います。そこで、京都大学高等教育研究開発センターの「メディアを利用して行う授業」であげられている事例をみましょう。

次の授業で扱う学習内容について、うまくまとまっているYouTube動画を見つけたぞ。今度の出張の日の授業は、この動画を見てもらい、あらかじめオンライン上にアップロードしておいた、例年、自分で授業中に行っているのと同じ内容の解説を読んでもらおう。演習課題は、対面授業の時間を使ってTAさんにやってもらおうかな。学生からの質問も基本的には心配なさそうだけど、もし対応に困る質問やコメントがあったら、出張から戻ってから対応するようにしよう。

 これは、文科省のいう「オンデマンド型」授業に該当し、コンテンツを他から借りてきても、大学設置基準に反するものではありません。ただし、この事例の解説に書かれている、下記の留意点は重要です。

授業担当者が、学生に授業の目標や学ぶべき事項、課題を提示して学習させるのであれば、他人が作成した教材を用いても問題ありません。ただし、面接授業に相当する教育効果を有することを前提とします。
また、「メディア授業告示第2号」における「十分な指導」を、指導補助者が行うことも可能です。

 また、ライブ配信型のオンライン授業でYouTubeやTEDのコンテンツを適宜挿入することも、もちろん可能です。
 授業コンテンツを自分で作成しないなどというと、教員がいかにも手を抜いているようにみえますが、決してそうではありません。授業内容と趣旨に合致したコンテンツがあれば、それをうまく活用したほうが、学生の理解が深まる場合もあります。

オンライン授業の誤解と幻想(7)」に続く

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