受け流す術 #164 柔よく剛を制す
武道では良く掲げられる心技体という言葉があります。
勝負の優劣に大きく起因する要素を並べたものです。
まずは、健康であることが大前提であり、そのにテクニック、更には、マインドやメンタルの強さが必要になってきます。
何が特に重要なのではなく、どれも重要であって、後は、その状況に応じたバランスとも言われます。
少年柔道を指導していた時のことです。
小学低学年であるにも関わらず、高学年並みに大きな体の子がいました。
大会に出たら、その体を活かして勝ち続けます。
対して、技の基本を指導しますが、同級生たちが取り組む傍らで、なかなか本気で取り組もうとしません。
おそらく、取り組むことなく結果を出していた驕りから、そうさせていたのだと思います。
結果、学年が上がって、同級生たちも体が大きくなり、力も強くなると、その子は勝てなくなりました。
「柔よく剛を制す」と言う言葉があります。
これは、古代中国の老子の思想を基調に書かれたと言われる三略の中の有名な一節です。
その意味は「柔軟性のあるものが、そのしなやかさによって、かえって剛強なものを押さえつけることができる」ということです。
1990年代、柔道の普及に努めていた創始者の嘉納治五郎師範は、デモンストレーションとして自分より大きな体の外国人を軽く投げ飛ばしたと言われます。
その様から「柔よく剛を制す」は、柔道の代名詞的な言葉として使われるようになりました。
勝負には、体力が大きな影響があることは間違いありません。
しかし、それを正面からぶつけたら、力の強い者が勝ってことは明らかです。
柔道には、この柳が風を受け流すかと如く、崩しであったり、いなすなどの術があります。
力の弱い者が勝つためには、相手の力を利用した技の習得が不可欠です。
ここで勘違いされる方がいます。
小さな身体というだけで、身体が弱いことではありません。
「柔よく剛を制す」を体現するための技を繰り出すには、華奢な身体では不可能であり、小さな身体なりに鍛え上げた体力が不可欠です。
また、技を極めたところで、大きな相手に挑むには、それ相当の勇気が必要です。
技を支える体力、精神力があるからこそ、「柔よく剛を制す」を体現できるのだと思います。
VUCA時代と呼ばれるように、状況が著しく変化し、先を読みにくい環境が続きます。
また、人間関係も複雑な時代です。
この様な時代、環境において、私たちができることは、正面からぶつかるだけではないはずです。
情勢をよく見て、環境を利用して、時には柳が風を受け流す術が必要な時代なのかと思います。
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