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効率的な工程管理 #173 ドラム・バッファ・ロープ

製造業が生産性を高める手法と言えば、従来は、コスト削減の一辺倒であったかに思えます。
しかし、コスト削減には限界があります。
更に無謀なコスト削減は、生産性を高めるどころか、低下させてしまう可能性もあります。

対して、操業実績の長い工場ほど、既成概念、固定概念が強く、新しい手法を取り入れるにも抵抗感が強くなかなか受け入れられません。

製造業に向けた著名な書籍にThe Goal(ザ・ゴール)があります。

その中で提唱されているのがTOCです。
TOC(制約理論:Theory of Constraints)とは、サプライチェーン・マネジメントの理論の一つとして用いられるものです。
生産を通じて、バリューチェーン(Value Chain)を最適化させて、スループット(売上高)を増やしながら、同時に在庫と業務費用を減らすこと・・・つまり、利益を増やすための理論です。

TOCを推進する上で、「ドラム・バッファー・ロープ」という手法があります。
「ドラム・バッファー・ロープ(drum・buffer・rope)」とは、製造工程を、進む速度の違う人を縦一列に並べて進む隊列の様子に例えた考え方です。

この場合、後ろの人の進む速度は、前の人を追い抜かさない限り、前の人の進む速度に依存します。
例えば、歩くのが遅い人の後続は、仮に歩くのが早い人であっても、早く歩くことはできません。(依存的事象)

また、本来、歩くのが早い人であっても、天候や道路の状態など何らかの状況変化により、一定速度で歩けるとは限りません。(統計的変動)
結果、どうなるのかと言うと、この隊列は、目的地までの到着(スループット)が遅れたり、先頭から最後尾まで長さ(在庫)が長くなってしまったり、予想外の労力(業務経費)を要したりする可能性があるわけです。

「ドラム」とは、音楽で使う「ドラム」です。
速度を依存する、もっとも歩くのが遅い人(ボトルネック)に合わせて「ドラム」を鳴らし、全体の同期を取ることを意味します。
さらに、隊列の先頭から最後尾の人まで、一定の長さの「ロープ」を持って進むことで、隊列の長さが広がることを防ぐことを意味します。
隊列の人たちを互いに「ロープ」でつないで、「ドラム」の音に合わせることで、依存しなければならない歩くのが遅い人の速度に合わせ効率よく進ませる考え方です。
また、予測できない速度の変化に対応するために、「ロープ」を少し長くして、最も歩くのが遅い人が前を歩く人にぶつからないようにすることを「バッファ」としています。
これにより、最も歩くのが遅い人の速度を、他の人が原因で、遅れさせることを防ぐことができます。

「ドラム・バッファー・ロープ」を現場に置き換えてみます。

ポイントとなるのが、処理能力が与えられた仕事と同じか、それ以下のであることから、全体の生産能力(スループット)を左右する「ボトルネック」を特定することです。
制約工程(CCR:Capacity Constrained Resource)と表現したりもします。

一般的に、「ポトルネック」は、悪の様に扱われますが、ここでは、単なる「事象」であると捉えます。
故に撲滅させると言うよりは、その工程の処理能力を高める取り組みを行います。

各工程の処理能力を蛇口から出る水の量とします。
対して、バッファは、前工程からの受けタンクです。
タンクが溢れて、水を垂れ流ししたらムダになってしまいます。
よって、「ボトルネック」の工程の蛇口は全開して、前工程と後工程の蛇口は、それに合わせて調整することとなります。
最終的には、各工程のタンクを溢れさせることなく、如何に最終工程の蛇口から、より多くの水を流すかができるかが大切になります。

ドラム・バッファ・ロープでは、「ボトルネック」を徹底活用し処理能力を全開させるかが重要となります。
次に「ボトルネック」の処理能力以上に合わせた資材や仕掛の投入調整です。

「ボトルネック」の処理能力以上の資材や仕掛を投入したら余剰在庫となってしまいます。
かと言って、バッファ(余裕)を持たせておかないと仮に、「ボトルネック」の前工程でトラブルがあった場合に、「ボトルネック」の処理能力に悪影響を及ぼしてしまいます。
これらを加味した適正な投入調整が必要です。

また、「ボトルネック」の後工程の処理能力を高め過ぎても、結局は「ボトルネック」は、その処理能力に追いつくことができません。
結果、後工程では、仕掛不足となり、生産が止まり、無駄な業務費用などが発生してしまいます。
そこで、「ボトルネック」の後工程では、「ボトルネック」の処理能力に合わせた処理能力に調整することが必要となります。

「ドラム・バッファー・ロープ」とは、TOCを推進する上で、「ボトルネック」の能力を最大化して、それを停めないことで生産工程のムダをなくすための有効な手法であると言えます。

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