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[推薦図書]遅読・精読のオススメ~ニューヨーク・スケッチブック(ピート・ハミル)


平野啓一郎さんの「本の読み方」を読了後、わたしの読書の仕方が完全に変わりました。

速読家の知識は、単なる脂肪である。
一冊の本をじっくりと時間をかけて読めば、実は、一〇冊分、二〇冊分の本を読んだのと同じ手応えが得られる。

「本の読み方」平野啓一郎

まさにそのとおりで、今読んでいるピート・ハミルの「ニューヨーク・スケッチブック」などはショートショートの連作短編集なので以前のわたしならあっというまに読んでいたはずですが(それくらい面白い)、1日2、3話のペースで読んでいるのでまだ読み終えていません。しかしだからこそ読んでいて楽しいし、物語への理解が深まります。
例えば最初の短編は42丁目の地下鉄を出たところにあるカフェで出会う中年の男女の何気ないやりとりを捉えた作品ですが、42丁目はといえばミュージカルのタイトルで有名ですが、マンハッタンの中心部にある目抜き通り。わたしはまさに42番街のホテルに仕事で長期滞在していたのですぐに頭に浮かびますが、行ったことがない方は、ニューヨーク、マンハッタンという地名は知っていても具体的なイメージはわかないかもしれません。わたしはスローリーディングに徹すると決めてあるので、グーグルマップを開いて念の為場所を確認しました。そして昔滞在したのが42番街のホテルだったことを思い出しました(笑)。
さらに主人公はカフェで新聞を読みますが、ブロンクスでの物騒な事件やイディ・アミン、ザイールの戦闘などのキーワードがさらっと出てきます。イディ・アミン誰だっけ?と調べると「黒いヒトラー」と言われるウガンダ大統領のことで当時の不穏な情勢がわかります。
また「二人でプロスペクトホールでダンス」とあるから、プロスペクトホールってなんぞやでまた調べます。今はネット検索があるから便利ですね。ビクトリア様式の由緒ある大きな宴会場じゃないですか(今はもうないですが)。さらにオイスターベイ、ベンスンハースト、82番街、次々と地名が出てくるので片っ端から調べます。
それでやっと主人公が陸軍に入るまでの彼女とどれだけ華やかにおつきあいしたかがわかります。戦争で離れ離れになり除隊してから彼女を求めてニューヨークをさまようのですが見つからず忘れかけていたころカフェで偶然出会うわけです。そしてラストシーンへと向かいます。たったそれだけですがよくできた短編です。
5W1Hを調べながら読んでいるので数ページのショートショートなのに時間がかかります。しかしわれわれはNYに住んでいないのですから仕方ありません。イメージがわきませんから。
以前のわたしならさっと流して読んでいたでしょう。スローリーディングのおかげで、ショートショート読むだけで色々な知識を得ることができたし、理解度も深まりました。

思えばピンチョンの「競売ナンバー」読了後に消化不良だったのは、各所に出てくる地名や人名、その他の隠喩、暗喩の類を調べることなくスルーしていたせいでしょう。脚注はついていましたが、全てについているわけではないですしね。要するに読み込みが浅かったんだと思います。

さて「ニューヨーク・スケッチブック」に話を戻します。
まだ10数編読んだところですが、どれもスナップショットのように中年や高齢の家族や男女のワンシーンを描くだけですが、それだけでそこまで辿ってきた人生がわかり、ときにはほのぼのした気分になり、ときには悲しくなるという仕掛けになっています。


この本、おすすめです!ショートショートですから合間に一編読むというのにも良いですね。

ちなみにピート・ハミルは、「幸せの黄色いハンカチ」の原作者でもあります。といっても、彼は最後のシーンを書いただけでそれを山田洋次監督が気に入ってあの映画にしたそうな。この短編集の物語と同じ構造ですね。

それではまた!

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