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弱いほど強くなるものなーんだ。

今週もウェブ解析士のnoteをご覧いただきありがとうございます。
今週はちょっと違った視点で書いてみようと思います。

東海地方に記録的な大雨をもたらした台風15号。被害を受けた皆様に心よりお見舞いを申し上げます。
その被害を目の当たりにして、マーケター視点で何かできることはなかったのかなと「中の人」は考えていました。そこで、マーク・グラノヴェッターが提唱したSWT(Strength of Weak Ties)理論を発信することで、有事の際の備えに貢献ができるのではないかと思い至りました。
ということで、今回は「弱いつながりの強さ」についてご紹介したいと思います。

SWT理論とは

SWT理論とはソーシャルネットワーク理論の一つです。
ソーシャルネットワークには、情報やアイデアを伝播・感染させる力があるとされています。(当たり前ですが)その力は各々のネットワークの特性によって差が生じてきます。そして、グラノヴェッター氏はそのネットワーク内のつながりの強弱に着目しています。
そもそも、「強い・弱い」は相対的な尺度になります。例えば「兄弟」と「すれ違えば挨拶する程度の知人」で比較すると、つながりの強弱は歴然ですよね。
だとすると、強いつながりと弱いつながり、どちらの方が重要だと思いますか?
大多数は「強いつながり」と答えると思いますし、「中の人」もこれを学ぶまではそう思っていました。
しかし、このSWT理論は「弱いつながり」は、情報の多様性と迅速性を担保する。という面において「強いつながり」よりも優れているとしています。
この後詳述していきますが、この情報の多様性と迅速性は、災害時に情報の伝達(避難所情報や安否情報、支援物資情報など)において有効的に機能するのではないかと思い、今回この記事を書くに至っています。

SWT理論の要「ブリッジ」

ブリッジとは効率的に情報を伝達するために必要なソーシャルネットワーク論の中で鍵となるものです。そんな重要な要素ですが、実は「弱いつながり」の中でしか機能しないというか、成立できないものなんだそうです。

入山彰栄『世界標準の経営理論』P458図表1-a参照

上図をご覧ください。AとC、BとCそれぞれが繋がっており、AとBに接点がない場合、A-C-BというルートがAとBを結ぶ唯一のルートになります。このように誰かを介してのみつながることができる状態をブリッジと呼ぶそうです。

入山彰栄『世界標準の経営理論』P458図表1-b参照

一方で上図のようにAとBを繋ぐルートがCを介するものと、A,Bが直接繋がっているものがある場合、「ブリッジはない」とするそうなんです。
まぁ、この場合わざわざCを介さなくても、直接やりとりする方がよっぽど効率的ですからね。
で、このブリッジというものは、「弱いつながり」の上でしか成り立たないんです。
どういうことかと言うと、例えば、AとCがかなり親しく、BとCも同様に親しい場合、AとBもそのうち親しくなってしまうので、結果的に2つ目の図表の形式に落ち着いてしまうそうなのです。
確率論で言うと、AとCが80%の時間を共に過ごし、CとBも同様に80%の時間を共に過ごすとすると、80%×80%=64%の確率でAとBも繋がってしまう。と言うことのようです。
その他にも、「友達の友達は友達」理論で、なんとなく親しい人が親しくしている人に親近感を抱く。「類は友を呼ぶ」理論で、似たような人同士はつながりやすい。など、複数の観点から強いつながり同士ではそのうちブリッジが消滅してしまうと言われれば納得です。
一方で、弱いつながりでは全く逆のことが言えるわけですね。
弱いつながりが必ずしもブリッジになるわけではないですが、「ブリッジは全て弱いつながりの中にある」と言う結論に至っています。

ブリッジの効果

さてさて、弱いつながりの中にブリッジが生じることは分かりましたが、依然としてそのブリッジがあると何がいいのかってところがいまいちよく分かりません。
ここで、そのブリッジの効果を検討してみましょう。
下図のAとBのつながりβを見てみましょう。このβは、AとBを繋ぐ唯一のつながりではありません。しかし、それ以外のルートではAからBへの情報伝達に最短で12人を経由する必要があり、極めて非効率です。βを通した情報伝達の方が圧倒的に早く効率的です。

出所:入山彰栄『世界標準の経営理論』P460図表2-b(図表作成をサボって転載)

このように別ルートよりも圧倒的に短く(速く)、効率的なルートは実質上ブリッジと同じ働きをすることから「ローカル・ブリッジ」と呼ぶそうです。まぁ。実際にスコープを狭めて。AとBそれぞれ周辺の5人だけを見れば、ブリッジと呼ぶことができますしね。

速く・効率的に情報を伝達できることがブリッジの最大の効果です。ブリッジは弱いつながりの中にしか存在しないことから、弱いつながりで構成されたネットワークはブリッジが多い。すると、情報がスピーディに伝達されます。
また、弱いつながりは強いつながりよりも簡単に作れます。親友を作るのは難しくても、挨拶する程度の知人ならばすぐに作れますよね。といったように、弱いつながりは拡散力があり、遠くまで伸びていきます
遠くまで、素早く情報を伝達できることが弱いつながりの強さと言えます。
さらに、強い繋がりは似た者同士になりやすい。弱いつながりはその逆だと考えると、多様な情報が飛び交うことになります。
ここまでをまとめると、「多様な情報を、素早く、遠くまで運ぶことができる」と言うのが弱いつながりの強さと言えるでしょう。

SWT理論の活用場面

経営の中では、このSWT理論はイノベーションを引き起こすために利用されるそうです。
イノベーションの起点は新しいアイデアにあり、新しいアイデアは既存のアイデア同士を掛け合わせて生み出されると言われています。多様な情報が迅速に飛び交う弱いつながりこそ、イノベーションの起点を生み出すのに打ってつけなんだそう。
以前ご紹介した、エフェクチュエーションと言う考え方の中の「手中の鳥」と「クレイジーキルト」の原則に近い考え方だと「中の人」は考えています。
エフェクチュエーションについてはこちらの記事をご参照ください。

さらに、このSWT理論は、SNSマーケティングでも活用できそうなのです。
SWT理論で説明される「スモールワールド現象」と言うものをご紹介します。

互いに面識のない2人組をランダムで抽出し、一方に対して、もう一方の人へ届くように手紙を書いてもらう。と言う実験をします。
しかし、面識がないのですから、自身の人脈の中から最もその人に近そうな人へ手紙を出し、受け取った人もさらに最終目的の人に近そうな人に手紙を出す。。。と言うことを繰り返すチェーンメールの要領で実験を行なっていきます。

この、上記のような実験をおこなった結果、手紙が届くまでに介した人数の平均がたったの6人だったそうです。1960年台のアメリカで行われた実験なんだそうですが、アメリカという広大な土地で人口2億人を超える中、たった6人で他人同士が繋がってしまうそうなんです。

これに着目したのがフェイスブック社(現Meta社)です。
フェイスブック上の活動を解析したデータから以下の2点がわかったそうです。

①人は、フェイスブック上で頻繁に交流している「友達」が発信した情報をシェアしがち。

②友達がシェアした情報をさらにその友達がシェアする確率は
【頻繁に交流している場合 < ほとんど交流がない場合】となった

弱いつながりの友達がシェアする情報は、シェアされた人にとっても「目新しい情報」であり、さらにそれをシェアしたくなる。
SNS登場以前は、せっかく知り合ってもしばらく会う機会がないと疎遠になってしまうため、弱いつながりの維持は難しかったそうですが、昨今はSNSのおかげで弱いつながりを維持しやすくなっています。
フェイスブック社がおこなったスモールワールド現象の再研究では、平均4.7人を経由すれば誰とでもつながることができるようになっているそうです。

SNSマーケティングでは、顧客とコミュニケーションをとることで「深いつながりを作りなさい」と言われたりします。
一方で宣伝効果と割り切り、遠くまで速く自社情報を拡散したい場合は「弱いつながり」が有効かもしれません。特に、「中の人」のような個人事業主(フリーランス)の場合はエフェクチュエーションも念頭に「弱いつながり」を持っていることが強みになるかもしれません。

あとがき

今週も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
このSWT理論は経済学でも経営学でもなく、社会学の中で生まれた理論です。何を隠そう「中の人」は大学時代に社会学部に所属しコミュニティ論を専攻。しかし、SWT理論に出会ったのは社会人になってからです。(笑)

さて今回、この記事を書こうと思ったのはTwitterで見かけたこんな投稿がきっかけでした。

災害があった時にすぐ動けるのは個人ですが
どこに何が足りてなくて何をすればいいかが把握できない。
(中略)
普段からゆるく、つながっておくコミュニティが必要とされているなぁと感じました。

台風がもたらした東海地方の甚大な被害に、何かできることはないかなと考えていた時に、この投稿を見て「ゆるい繋がり」=SWT理論だ!と思ったんです。
このSWT理論の有効性を布教することで、有事の際に、もっと効率的に素早く、必要な情報を必要な人へ届けることができるようになるのではないか。そんな淡い願いを抱えて、記事を書いています。


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