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憎しみの履歴書

妹が生まれた時、私は4歳。
人生で初めて寂しいという感情を知った。
こんにちは負の世界。

5歳、小学生になって仲間外れにされた。自分勝手だった私は集団行動の洗礼を受ける。
周りの大人が助けてくれない事を知り、人間不信になる。大人も周りもみんな嫌い。
それから小学校生活6年生まではほぼ1人だった。
周りを恐れ、大人を憎んだ。

母親はよく私を叱った。
「どうして出来ないの」もういつ言われたのか何度言われたのかも思い出せない。
頭の中で繰り返されすぎて妄想な気もしてきた。
妹と同じ事が出来ない、母親の言う通りにできない自分。そのうえ感情のコントールも上手く出来なくて直ぐに癇癪を起こして暴力をふるう。
悔しくて惨めで恐ろしくてあまりにも出来損ないの自分は人では無いんじゃないかと思った。
もしかしたらこの皮の内側には醜い鱗や鋭い爪なんかが隠されているんじゃないか?
バケモノ。
だから私はこんなに人として当然の事も出来ないし、凶暴なんだ。私はバケモノなんだ。怖い、いつか内側から本物のバケモノがこの体を食い破って見た目も変わってしまうかもしれない…。
自分も怖いし、お外も怖い。
お母さん、お父さん、神様…ねえ神様どうか助けてください。助けてください。お願いです。もう誰でも良い、お願いです、誰か助けてください。
誰も助けてくれやしなかった。
だからいつも布団の中に潜りうずくまって、暗闇でバケモノを周りから隠していた。

中学3年生、私はクラスの男子から塾の男子、男子大学生のアルバイト講師からイジメを受けた。
私が臭いって。
ヒソヒソ笑う声がした。ジェスチャーで示されたり、私の前を通る時にわざとらしく息を止めて通り過ぎたら思いっきり息を吸う、そんな行為を複数人でやって私の反応を見て笑ってた。
楽しかったかな。

私は絵を描くのが好きでずっと描いていた。あまり気にしていなかったのだけれど、周りから浮いていたらしい。
イジメは別の理由だが、その最中でも私は描き続けていた。あらゆるものに兎に角沢山描いていた。印刷用紙にノートに教科書、机。机は一面隙間なく落書きだらけだったと思う。
ドールが好きだった私はよくヌードを描いていた。ダークファンタジーの影響や自身の苦しみから痛々しい絵を描く事も。
「裸を描くのはやめてほしい」「絵が怖いよ。笑った絵も描いたら良いのに」
先生から否定された気がした。しょうがないじゃないか。好きなんだ。
裸って…皆服の中は裸じゃん。皆持ってるものなのにイケナイものなの?
苦しいんだもん、しょうがないじゃん。こういう世界観を、私は可愛いと思ったんだもん…。好きなものも間違ってるって、言われた気がした。

父親に泣いて縋ったことがある。
「死にたくないのに、死にたいの。辛い。どうすればいいの」
父親は笑った。
「はは、俺も分からないな」

あれだけ叱られていた母親にも縋った。
「何かあったらいつでも私に言ってね」そう言ってたから。
信じてた。
「苦しいの、死にたい。どうしよう、怖い」
母親に毎日言っていた。

「もうその話しないでくれる?」
プツン。
何かの、糸のようなものが切れた音がした。

あぁ、そうなんですね。私が、私という存在が間違ってたみたいです。ごめんなさい。

いつも、いつもいつもいつも正しくあろうとしたのにどう足掻いても私は否定され拒絶される。
ちゃんと分かりました。
私は人ではない。バケモノなんだ。
間違っている、この世には悪い存在でした。

常に私の名前が呼ばれている。「死ね」「死にたい」「死のうよ」無数の声が頭の中でいっぱいでそれに耐えるのに必死で、授業も友達の話も入ってこない。時々、視界が真っ暗になって階段から落ちそうになった事もあった。

夜は明日が怖くて眠りたく無かった。頭の中の声が煩くて髪を引きちぎったり、最初は正気を保つためにカッターで壁を切っていたけれど次第に腕も切るようになった。
流れる血を見ると、少しだけ落ち着く気がした。
朝は起きれなくなった。目を開けたら学校に行かなくちゃいけないから、塾に行かなきゃいけないから。

一日の時間の感覚が、意識が段々と無くなっていった。
気付いたら3限目を迎えていた。下校していた。布団の中にいた。夜だ。怖い。

歩いてた。下校していた。もう学校終わったんだ。そう思った時に気がついた。
あれ、私って今、生きてるのかな?
体は動いてるけど、何をしてるのか分からない。目が覚めたら学校まで歩いて、学校から家まで歩いてるだけ。何も覚えてない。何も感じない。
そっか、私死んじゃったんだな。

中学生の時、私は生きたまま死にました。

虚しかったな、私の想像していた神様ってやっぱいなかったみたい。救いはありませんでした。



女である事について。

高校生になって飲食店でアルバイトをした。
容量の悪い私は沢山叱られたし、中学のトラウマから男性が怖かった。特に同い年の男子と男子大学生に対して異常に警戒していた。目の前にいられるだけで体が強張り、呼吸が出来なくなった。少し体が触れるだけで視界が真っ白。頭の中は中学時代の記憶でいっぱいになって動けなくなった。
この男性は、私に怖い事をしないだろうか?そんな事を常に考えていた。

専門学生時代、ネットカフェでアルバイトをした。
スタイルが良いね、とニヤニヤしたオジサンのお客さんからの視線をよく浴びていた。終電を逃した時に店に泊めてくれた先輩が私と同じ部屋に入り不自然に体をくっつけてきた。
執拗に私とシフトを重ねようとしてくる人もいた。
気持ち悪かった、怖かった。
私が女だから?
消えるものでもないものが消費されていった。

好きな人ができた。
私の気持ちが重かったのは分かってる。だから諦めさせたかったのかもしれない。
「貴方は若いし、正直エッチな体してると思う。もっと男と遊んでみたら?男なら喜んでATMみたいになってくれるよ」
好きな人から出た言葉があまりにショックで正確な言葉は覚えていない、けれどそんな事を言われた。
あぁ、私っていう存在より若い女体であることに価値があると思われているんだなあ。そう解釈してしまった。

同時期にストレスと生活習慣、体質、色んな要因が重なって生理がおかしくなった。
2ヶ月間毎日、呼吸も出来ない動けない痛みと大量の血が流れ続けた。
激痛と貧血で意識が朦朧とする日々。
ある時ごろっと内臓のような塊が股から出てきた。
このままでは身体的に死んでしまうかもしれないと思いやっと病院に行った。
あまりにも辛いのでミレーナという避妊器具を子宮内に入れた。
入れて一時間後には歩いて帰れる。
そう聞いていたのに、麻酔が切れた瞬間の激痛はもう例えられない。
下半身が無くなった。
泣き叫ばないと耐えられない。
腕を母親の肩にかけてもらい下半身は引きずられるようにして帰宅した。

三日は寝たきりになった。
腰を曲げると子宮の中にゴツゴツと異物があたり、何も出来なかった。血も出るし、異物が子宮をえぐるように内側から殴ってくる。
楽になりたかったのに。今後の生理痛を無くす代償が、同等かそれ以上の激痛だった。
一ヶ月…いや三ヶ月は異物による流血と激痛で苦しんでいたと思う。
クソが。生理なんて嫌いだ。女という性別はこんなところでも弊害があるのかよ。生きてるだけで罪だから罰を受けているんですか?

もう女という性別すらも憎たらしいよ。あんなに好きだったのに、こんなにも好きなのに。


小学生は孤独だった。
中学生で心が殺された。
専門学生の頃は精神と肉体を痛めつけられた。
就職した今も、孤独に苛まれて何も出来なくなった。
最初は大人を憎んだ、次に神を、男を、女を。
この世が憎いよ。
生きていると苦痛を伴う。苦しみとか憎しみとかどんどん増えていく。

それでも私は全部背負っていくね。

これが私の憎しみの履歴書です。

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