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2021年版「新・カスタマーサクセスの10原則」 新旧10原則の差分に見える”今”からの取り組み

■はじめに

2013年にGainsight社によって提唱された「カスタマーサクセスの10原則」が、2021年9月に行われたSaaStr Annual 2021(クラウド・SaaS企業の重役やVCが一堂に会し、ワークショップやセッションを行う業界最先端の一大コミュニティイベント)にて、同社CEOのニック・メータ氏(Nick Mehta)によって刷新されました。今回は、2021年版「新・カスタマーサクセスの10原則」の解説とともに、旧10原則との比較から見えてくる現在の取り組みのポイントや課題についてお届けします。その背景にあるカスタマーサクセス取り組みの実情を現したアンケート結果も併せてご紹介します。”今”取り組むべきカスタマーサクセスの課題発見にぜひお役立てください。

■旧10原則

2013年の旧・カスタマーサクセス10原則は、顧客の”維持”に主眼を置いた“Critical Defence”がテーマになっていました。
旧原則の復習はこちら

① 正しい顧客に販売しよう
② 顧客とベンダーは何もしなければ離れる
③ 顧客が期待しているのは大成功だ
④ 絶えずカスタマーヘルスを把握・管理する
⑤ ロイヤルティの構築に、もう個人間の関係はいらない
⑥ 本当に拡張可能な差別化要因は製品だ
⑦ タイムトゥバリューの向上のとことん取り組もう
⑧ 顧客の指標を深く理解する
⑨ ハードデータの指標でカスタマーサクセスを進める
⑩ トップダウンかつ全社レベルで取り組む

■新10原則

一方、2021年の新・カスタマーサクセス10原則のテーマは”Growth Engine”。カスタマーサクセスこそが企業の”成長力”であるとする、攻めの原則になっています。
(弊社翻訳および前述の旧10原則に対応する順番に並び替え)

① 営業からカスタマーサクセスまで一気通貫のジャーニーを構築する
② 常に価値を提供し続ける(でないと解約されてしまう)
③ カスタマーサクセスには顧客からのコミットも必要とする
④ カスタマーサクセス業務に投資する
⑤ 顧客スポンサー交代時の対応を仕組み化する
⑥ 製品開発部門とカスタマーサクセス部門は”生涯の友”になるべき
⑦ 製品にテコ入れしてタイムトゥバリューを加速させる
⑧ NRR(売上継続率)を深く理解する
⑨ カスタマーサクセスは指標ドリブンであるべき
⑩ カスタマーサクセスを企業の核に据える

■新旧比較と解釈

カスタマーサクセスという言葉ができて間もない2013年に比べ、言葉の普及が進むとともにその有効性が浸透し始め、現在カスタマーサクセスに取り組みを始めている企業ではその必要性を感じる企業が増えています。(弊社とアイティクラウド社のカスタマーサクセスに関する共同実態調査結果より)

図11

さらには、その業務内容も、元々カスタマーサポート色が強く各顧客の売上をいかに”維持”するかに重点が置かれていたのが、今は維持に加えて”拡大”にシフトアップしています。原則の内容を見ても、旧原則を理解して実践できるようになっている礎の上に存在している新原則もあるため、忘れている方は、まずは旧原則をおさらいしましょう。
旧原則の復習はこちら

このような背景を踏まえ、各原則が更新されることとなったポイントを、ニック・メータ氏の講演内容を中心に見ていきましょう。

原則①
【旧】正しい顧客に販売しよう

【新】営業からカスタマーサクセスまで一気通貫のジャーニーを構築する

カスタマーサクセスの言葉通り、顧客の成功(成長)をゴールとするならば、自社製品と顧客がマッチしているだけでは必ずしもゴールを達成できるとは言えません。顧客とのファーストコンタクトから、成功に至るまでの全てのプロセスを一気通貫のジャーニーで描き、導くこと。つまり、顧客が製品を使いこなし成功に至るまで、伴走し続ける必要があります。
そのためには、営業部門とカスタマーサクセス部門(および他部門)の機能が分断されていてはなりません。
簡単に言い換えるならば、「部門連動でサクセスを届けよう」ということです。

原則②
【旧】顧客とベンダーは何もしなければ離れる

【新】常に価値を提供し続ける(でないと解約されてしまう)

継続的に顧客をフォローしていたとしても、不満を解消しているだけでは成功に近づくことは難しく、価値も感じてもらいづらいのが実情です。顧客は特定の瞬間のために製品を買うのではなく、継続的な成果を求めています。
つまり、顧客との関係性を継続し向上させるうえでは、一歩でも着実に顧客の成功に近づく必要があります。日々より多くを提案し続けること。この姿勢と行動が重要です。
簡単に言い換えるならば、「常に期待に応え続けよう」ということです。

原則③
【旧】顧客が期待しているのは大成功だ

【新】カスタマーサクセスには顧客からのコミットも必要とする

ベンダーが一方的に結果にコミットし、顧客側は待っているだけでは、成功は得られないことが痛感されてきました。顧客側にもタスクがあって然り、カスタマーサクセスのプロセスに顧客を引き込むことが成功に至る上で重要です。
そのためには、顧客とベンダー双方のサクセス計画(Mutual Success Plan)が必要です。
簡単に言い換えるならば、「顧客にも成果にコミットしてもらおう」ということです。

原則④
【旧】絶えずカスタマーヘルスを把握・管理する

【新】カスタマーサクセス業務に投資する

カスタマーヘルスなどの指標が可視化できても、数字を見ているだけでは不十分です。顧客の成功に向け、数字を活用する必要があります。数字によって顧客の状態を早期に察知し、非属人的に行動できなければなりません。
指標の理解、および数字に対応したオペレーションの定義に、あらかじめ工数やコストを割いておく必要があります。
簡単に言い換えるならば、「カスタマーサクセス業務を科学しよう」ということです。

原則⑤
【旧】ロイヤルティの構築に、もう個人間の関係はいらない

【新】顧客スポンサー交代時の対応を仕組み化する

それまで順調だったサクセスプランや良好だった(ロイヤルティが構築できていた)関係性が、顧客側の体制変更によって白紙に戻るケースが多く見られました。体制変更や転職が当たり前の現代では、スポンサー(およびキーマンや担当者)の交代さえも、あらかじめ想定して業務を定義しておく必要があります。
チャーン回避だけでなく、継続的成長のために、顧客側の体制を広く把握し、良好な関係を構築しておきましょう。(スポンサーマッピングが重要)
簡単に言い換えるならば、「(スポンサー交代という)ピンチをチャンスに変えよう」ということです。

原則⑥
【旧】本当に拡張可能な差別化要因は製品だ

【新】製品開発部門とカスタマーサクセス部門は”生涯の友”になるべき

カスタマーサクセス部門から製品開発部門に顧客の声が伝えられても、それが正しく理解され、正しく製品に反映されないケースが見られました。製品開発部門とカスタマーサクセス部門では、それぞれ異なる方針の下、異なる業務の中で異なる指標を追っていることがその主な理由です。
顧客に成功を届け続ける製品に育てていくためには、双方が理解を摺合せ、意思疎通の精度を上げる取組みが必要です。
簡単に言い換えるならば、「製品開発部門とカスタマーサクセス部門は一枚岩であろう」ということです。

原則⑦
【旧】タイムトゥバリューの向上のとことん取り組もう

【新】製品にテコ入れしてタイムトゥバリューを加速させる

旧原則ではタイムトゥバリュー向上のための手段が明示されていなかったため、ミーティングや訪問などのオフラインサービスが頻発し、工数を圧迫する状況がありました。タイムトゥバリュー向上のためにはオフラインサービスが第一に来るべきではありません。
直感的操作性の実現やガイドポップアップを製品画面に組み込むなどにより、製品単体で成功に導く力を向上させる必要があります。(プロダクトサクセス)
簡単に言い換えるならば、「顧客がすぐに成果を体感できるよう製品を改善しよう」ということです。

原則⑧
【旧】顧客の指標を深く理解する

【新】NRR(売上継続率)を深く理解する

これまで見ていた顧客指標はチャーンとリテンションを主とする、顧客維持のためのものに焦点が当てられており、拡大や成長につなげるための要素が薄くなりがちでした。そこで注目したいのがNRR(売上継続率)です。
NRRにはエキスパンション(拡販)の要素も強く反映されるため、本来目指すべきベンダーおよび顧客双方の企業成長には不可欠な指標であると考えられます。
簡単に言い換えるならば、「顧客により良くより多く製品を使ってもらおう」ということです。

原則⑨
【旧】ハードデータの指標でカスタマーサクセスを進める

【新】カスタマーサクセスは指標ドリブンであるべき

「指標・データドリブンで取り組むべき」という指針は、カスタマーサクセス業務を担当する特定の部門に絞られた発言と捉えられてしまいがちで、それ以外(他部門および全社)に認識されづらい状況がありました。
カスタマーサクセス部門だけではなく、企業における全てのカスタマーサクセス活動を指標によって連動・可視化し、指標を基に行動を変え、数字で報告する必要があります。
簡単に言い換えるならば、「全て(カスタマーサクセス)指標ありきで取り組もう」ということです。

原則⑩
【旧】トップダウンかつ全社レベルで取り組む

【新】カスタマーサクセスを企業の核に据える

CEOによるトップダウンの指揮はあるものの、発言だけで業務実態が伴っていないケースが見られました。ホームページに書く、会議で言う、などの外面は整えるものの、カスタマーサクセスが企業の一機能に留まってしまっていたのです。
体裁だけでなく、企業活動の幹にカスタマーサクセスを据えること。すなわち、全ての従業員が、企業におけるあらゆる行動の際にカスタマーサクセスを意識し、業務に当たることが重要です。
簡単に言い換えるならば、「いつも心にカスタマーサクセスを」ということです。

■ボーナス原則

ここまで新旧の10原則を見て参りましたが、実は今回のイベントにて⑪番目のボーナス原則が示されました。

原則⑪ カスタマーサクセス=ヒューマンファースト

新原則では、数字をベースとしたシステマチックな業務が多く想定される中、数字以外の部分を忘れてはなりません。企業、ブランディング、事業活動、キャリア、顧客、カスタマーサクセスに関わる全てのものは人間のために作られています。業務の最適化や、属人化の排除が進む中でこそ、人間らしさが価値になり、顧客個別のニーズに人間が応えることが重要な差別化に繋がることを肝に銘じておきましょう。
簡単に言い換えるならば、「そこにいるのは”人”であることを忘れずにいよう」ということです。

■原則のカテゴライズ

カスタマーサクセスと一口に言っても様々な意味合いを持っているため、理解が難しかった箇所もあったのではないかと思います。
そこで、原則を改めて整理する目的で、従前弊社が提唱しているサイエンスとアートのカテゴライズに当てはめると下記のようになります。

図15

カスタマーサクセスの最も大きい言葉の分類としては、サイエンス(思想実践のための業務運営の仕組み)とアート(思想や哲学)があり、サイエンスはさらにカスタマー(業務)、プロダクト(製品)、エンプロイー(従業員)に分けられます。
カスタマーサクセスの推進にはサイエンスとアートの両輪を並行して検討することが不可欠です。
サイエンスとアートについて詳しく説明した記事がございますので、こちらも併せてお読みください

■最後に

本記事で見てきました10+1原則をインプットに、貴社の成長、さらには日本のカスタマーサクセス発展に貢献できれば幸いです。
弊社とアイティクラウド社のカスタマーサクセスに関する共同実態調査結果から、実際に、カスタマーサクセスへの取り組みを開始している企業の多くが成果(売上向上)を実感していることがわかります。

図13


一方、日本のビジネスシーン全体を見渡すと、まだまだカスタマーサクセスの日本における認知は低く、チャンスが残っているとも言えます。(同調査結果より)

図14

カスタマーサクセスは、その特性上、早く始めるほどに高い効果が期待できる(効果を実感するまでに一定の時間を要する)ため、新たな指針が世界的に打ち出された”今”こそ、1つの節目でもあり、行動のチャンスです。
本記事に関するご不明点、並びにカスタマーサクセス全般に関するご相談がございましたら、弊社までお気軽にご連絡をいただければと思います。
最後までご覧いただきありがとうございました。

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