見出し画像

「父性的経営から母性的・子性的経営へ」OPEN VUILD #13

建築テック系スタートアップVUILD(ヴィルド)株式会社では、多様な領域で活躍する専門家をお招きして、さまざまな経営課題や組織のあり方についてオープンな場で語り合うトークイベント「OPEN VUILD」を開催しています。

新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言発令直後の4月8日、オンライン配信形式で行った第13回のテーマは「父性的経営から母性的・子性的経営へ」。ゲストには、共創型戦略デザインファーム株式会社BIOTOPE CEOの佐宗邦威さん、クラウドファンディングサービスを運営するREADYFOR株式会社 CEOの米良はるかさんをお招きしました。

企業を経営するお2人とともに、「父性・母性・子性」をキーワードに、トップダウンの組織体制を敷く経営者像ではない、新しい時代のオルタナティブな経営者像を探求しました。

また今回はテーマを離れ、新型コロナウイルス感染拡大に際しての社会変化にも話題が発展。ウィズコロナ/アフターコロナのリーダー像、ありうべき社会像についても議論しました。

Text by Naruki Akiyoshi

メタファーとしての父性・母性・子性

画像1

画像9

note_秋吉-01

秋吉 今回議論したいテーマは、「父性的経営・母性的経営・子性的経営」についてです。もともとのきっかけは昨年11月のSNSの投稿です。これに米良さんと佐宗さんが反応してくださっていたので、お2人とこれからの経営者像やリーダシップ像についてお話できればとお呼びしました。

スクリーンショット 2020-07-17 10.37.28

また、VUILDは3月にビジョンやミッション、バリューをあらためて策定し、CI(コーポレートアイデンティティ)を刷新しました。

我々は自律分散協調という、インターネット的な価値観で建築や都市空間などの物理空間を作り出すことを目指しています。インターネットは誰でも音楽を作曲してアップロードできたり、誰でも自由に文章を書いて公開できたりするような社会に変えました。それと同様に、誰でも家具や建築を自分たちの力で作れるようにして、自らの生活や社会を作っていける社会をビジョンとしています。

分散と協調が成り立つためには、まず一通り自分で自立できるスキルやマインドセットを備える必要があると考えています。ウォーターフォール型で専門分化してやるのではなく、個人個人で能力が完結した上で専門特化していく組織体制を目指しています。

今回、READYFORやBIOTOPEのCIもかなり参考にさせて頂いたので、それぞれの会社のCIについても伺えたらと思います。

米良 まずは前提として、父性・母性・子性の定義についての認識をある程度合わせた方がいいように思えます。家族形態の多様化や性役割意識の変化などが進む現在、センシティブな言葉なので。

秋吉 ここでの父性・母性・子性は、ジェンダーや性役割から切り離したメタな段階での属性として考えています。そもそも子に関して言えば性別を問わない存在ですし、企業や人を見る上での指標として有効性のあるメタファーだと思っています。

佐宗 秋吉さんはこの父性・母性・子性をどういうイメージで捉えているんですか?

秋吉 SNS投稿時点では厳密に言語化・定義化できていませんでしたが、いまは、トップダウンM・マウンティング・競争・権力の象徴として父性を、柔らかく愛情で包み込んで繋がるものの象徴として母性を、好奇心や遊び心といったものの象徴として子性をイメージしています。

画像9

佐宗 子供は未来や創造の象徴だと言われますよね。そう考えると、父性は力優位なあり方、母性は愛優位なあり方、子性は創造性優位なあり方とも言えるのかもしれません。時期や会社の状態、社会情勢によって、求められる要素はかわってくると思います。経営者はそれらをどうやってミックスさせるべきなのか、どのようにバランスを取っていくべきなのでしょうか?

秋吉 僕自身はリアリストというよりビジョナリストの側面が強いため、子性的と言えるかもしれません。もちろんそれだけでは会社を運営していくことはできないので、父性的に抑止しながら、母性的にサポートする関係を社内で生み出すことが重要です。会社を経営する上で、それぞれの属性に偏ることのないバランスを保つことが求められるのかもしれません。

佐宗 では、米良さんはどのようなバランスで会社を捉えていますか?

米良 READYFORは昨年、約10か月かけてCIをリニューアルしました。その時会社が目指す方向について社内で話し合ったのですが、READYFORには母性という言葉がマッチするという結論にいたったんです。これはもちろん私が女性経営者だからという単純な話ではありません。私たちもベンチャー企業なので成長やスピード感は常に意識していますし、ある種の競争も大切なのかもしれませんが、READYFORのアイデンティティは、人の何かをはじめたいという想いを大切に守りながら実現に近づけていくことだと考えています。なので、包み込んで大切にしてあげるような母性は意識していますね。

佐宗 僕の会社は、今の既存の生態系の近くにある新しい生態系、命が生まれる場所という意味合いを込めてBIOTOPEという名前にしました。命が生まれる場所というのは、極めて母性的な場所なんですよね。その意味でも会社のCIは米良さんの考え方に近いかもしれません。

企業ロゴに表れるコーポレートアイデンティティ

米良 私はデザインのことに詳しくないですが、ロゴのデザインによってCIの伝わり方や会社の印象が全く変わってくるように思えます。READYFORはテクノロジーを使ってお金の流れを作る事業を運営している会社なので、初稿案のロゴは、テクノロジーっぽさを盛り込んだ直線的なデザインでした。もちろんいい意味でスタートアップ感がある素敵なデザインだったのですが、一番伝えたいメッセージの温度感がわかりづらくなるのではないかという話になり、現在のロゴになりました。

画像5

https://corp.readyfor.jp/ 

佐宗 BIOTOPEのロゴは、2年ほど前にもう少しCIを落としこんだデザインにリブランディングしました。最初はもっとパステルカラーのカラフルな色味でクリエイティビティを中心に据えたデザインでしたが、現在のロゴはある種の機械的なものと生命的なものが交わっているイメージになっています。母性的な場所を理想とする一方で、自然界には生き残る強さというのも必要なので、ある種の父性的な意味を込めて黒地にしています。

画像6

https://biotope.co.jp/

米良 READYFORのロゴは生まれてくるものを大切にしていくというCIを反映して、人のようなものを包み込んで大切にする胎内のようなイメージになっています。ちなみにサイトトップのロゴは、「未来をつくる、『流れ』をつくる。」というメッセージに合わせて、流動し続けるようにデザインされています。私たちは金融領域の会社なのですが、既存の金融の仕組みでは実績があるものやキャッシュフローがすでにあるものにしかお金がつきません。しかし、いま社会に必要なまだないものにもお金が流れてほしいと思っているので、その思いをサイトデザインにも込めています。

佐宗 水滴っぽくもあり、アメーバっぽくもあり、細胞っぽくもある面白いデザインですね。

秋吉 僕は父と母の間に子供が生まれてる、もしくは抱かれているように見えました。

米良 よく細胞や血液、心臓などと言われますが、クリエイターの意図以上に見え方が色々あるのがロゴの面白さだと思います。それこそ、血液や心臓などはなくてはならない大切なものですし、父と母が子供を抱いている姿というのもまさしく大切なものを守ろうとする姿勢の表れだと思います。私たちが伝えたいことが色んな角度で伝わればいいなと思っていたので、その受け取られ方は嬉しいですね。

秋吉 VUILDも創業当時はまさにテック感全開のモノクロ直線のロゴでしたが(笑)、現在リニューアル中で曲線的なやわらかいロゴに調整しています。(※鼎談開催後の5月13日にリニューアル)

画像7

VUILDは、建築設計・木製品開発および製造、デジタル加工機ShopBotの販売・導入、デジタルものづくりサービス「EMARF」の開発・企画・運営の3つの事業を展開していますが、この3つの事業を木のメタファーに落とし込んで、枝葉の部分の「分散」が子性、幹の部分の「自律」が父性、根っこの部分の「協調」が母性という位置付けで考えています。

会社としては自立した個を育てられる土壌・環境を作ることを目的としているため、WEBサイトは土をイメージしたカラーでデザインされています。土は木が自立するための栄養を供給する環境的要因であり、木が育つためにもっとも強い影響力を持つ存在です。土が木を育てるように、VUILDが個人の創造性を育てるような存在なりたい。そんな思いをコーポレートカラーには込めています。

画像8

https://vuild.co.jp/vision/

佐宗 CIは、基本的に創業者が生み出したあと、少しづつ成長していって会社のキャラクターや文化になるのだと思います。企業ロゴも、もちろん時流に左右される部分もありますが、そのCIの意味合いを反映して少しづつ具象的なデザインから抽象的なシンプルなデザインに変化します。抽象レベルの高いロゴは、時代を超えて普遍的な共通イメージを持つものです。十字架や五芒星のような宗教的な世界観を示したシンボルはまさにそうですよね。その意味では、BIOTOPEのロゴはまだ具象的で抽象化しきれておらず、まだ統合されていないのかもしれませんが、シンプルになっていくプロセスはあると思っています。

父性→母性→子性 変遷する理想的なリーダー像

視聴者コメント「尊敬する、父性/母性/子性的な経営者(もしくはリーダー/監督/歴史上の人物など)はいらっしゃいますか?」

佐宗 この質問でそれぞれのキャラが見えてくるように思えます。僕が尊敬するリーダーは、元オリックスの仰木彬監督です。彼は人を見る目と人を出す才能に優れていて、イチローや野茂、長谷川、吉井らを大リーグに送り出しています。仰木監督のような名伯楽キャラに強い憧れを持っているので、僕自身も誰かの子性をサポートしたいと考えていますね。

米良 私はベンチャーの大先輩であるDeNA創業者の南場智子さんとよくお会いさせていただくのですが、南波さんが会社のメンバーのことをひたすら褒めるところが好きなんですよね。私は自社の採用にも深くコミットしているのですが、メンバーを家族のように思っています。南波さんからは会社のメンバーに対する愛が伝わるのですごい素敵だなと思っています。

佐宗 ユング心理学における父性とは物事を分けたり統一したりする力の象徴として書かれており、母性はその逆で包括するもの、全て肯定して包み込むものとして書かれています。1990年代前後から母性的な価値観が求められるようになりましたが、その反動でナショナリスティックな独裁者が国家のリーダーになるような父性の復権と呼べるような動きも見られるようになっています。

秋吉 それら相反するものの間に新しく生まれる、未来に対して強いビジョンを持つ創造的な姿勢を子性とするなら、これからのリーダーにとって子性が最も重要な要素なのではないかと僕は考えています。

佐宗 例えば50代以上のクリエイターの世界であれば、ある種独裁的に押し進めていく父性的な強いリーダー/クリエイター像が理想とされていました。しかし現在、秋吉くんのように、それに対して批判的なスタンスをとるリーダー/クリエイター像が現れてきています。これが流行り廃りの一形態なのかはまだ判断できませんが、時代によってリーダーシップの理想像は変化していくことは確かです。

秋吉 いま世代論はあまり意味を成すものではないかもしれませんが、建築領域における世代ごとの理想的なリーダー像や組織像は、団体名に特徴が現れています。つまり、40〜50代以上の方々は「個人名+〇〇事務所」と名付けることが多く、最近の人たちは共同設立というかたちで、あえてアノニマスなチーム名にすることが多いんですね。

活動の傾向に関しても、いまの80〜90代の建築家は特に父性的に社会に対するビジョンを明確に打ち出していました。対して、50〜60代の方々はわりと内向的かつ作家主義的な作品が多いように思えます。我々の世代はまた社会に対しての意識が強まっており、80〜90代世代の傾向に回帰しているような印象があります。

最近の建築領域では、母性的な繋がりを重視したプロジェクトがよく見られますが、他者との同調に止まってしまうため、強いビジョンを示せないというデメリットを抱えています。なので、父性的に事業を水平展開しつつも母性的な繋がりを持ち、子性的なビジョンや創造性を打ち出していくことが重要なのではないかと思っています。

「完璧ではない」からこそ素直に仲間に頼れる、新しいリーダーのあり方

佐宗 米良さんはどういうリーダーシップのスタイルなんですか?

米良 新型コロナウイルス対策でもトップダウン型の意思決定の早さが評価される空気があるかと思います。もちろん有事の際には、意思決定権限の所在をはっきりさせることや、強いリーダーによる素早い意思決定などは大切だと思いますが、私はそこでこぼれ落ちてしまうさまざまなものを繋げて解決する社会こそ必要だと思っているので、それを意識して事業を展開しています。

インターネットの世界はこれまで見落とされてきたものごとを繋げてきました。そういう社会をいかに作るかを考えることが好きなので、会社を経営しているというよりは社会作りをしているという意識が強いですね。スタートアップなので当然目標などはありますが、そういう社会を守ること、作ることを強く考えています。

個人の経営スタイルですが、自分はできないことが多い人間なので、場面ごとに得意な人に任せきるようにしています(笑)。会社が大きくなればなるほど、自分ひとりでできないことがたくさん出てくる。だからこそ仲間集めが大切だと思っていますし、仲間と一緒にやるのが好きなんですよね。私は会社のメンバーが大好きです。ひとえに自分はなにもできなすぎるという意識に由来しているのですが、自分が足りてないことを助けてもらいながらどうにか生き抜いているというイメージですね。

秋吉 カヤックの柳澤大輔さんやMistletoeの孫泰蔵さんなど、一緒に仕事をしている経営者や株主の方々には、共通して「ONE PIECE」のルフィ的な感じというか、子性的な部分や親しみやすさがあると思っています。その全員に共通する要素ではないのですが、いい意味で完璧ではない人が多い気がしていて(笑)。そういう人たちは性別関係なく、童心を忘れない永遠の少年感、週刊少年ジャンプ感のある人が多いように思えて自分も共感しています。自分も完璧ではないので(笑)。

VUILDも最近、ビジネス経験豊富な方が入ってくださったことで会社としてのバランスがとれるようになってきました。社内の空気や社員の属性に合わせた業務分担などをうまく操ってくれているので、いまのVUILDにとって彼らの存在は大きいですね。会社などの組織は、能力をうまく補完しあえるのが魅力だと思っています。なので、父性的にトップダウンでやってしまうと自分の能力でカバーできる範囲の人しか集まってくれないような気がしています。

佐宗 自律的に回っている組織を見ると、できないことをできないと素直に言える経営者が多いような印象がありますね。「あの人案外ダメなんですよ」と、内々で言われるくらいのほうがバランスがいいのかもしれない(笑)。

秋吉 謙虚さやオープンネスなスタンスは大切です。やっぱり真摯さや素直さがないと、真に反省することはできないし、上手にコミュニケーションを取ることは不可能なので、成長して次に進めないと思います。VUILDの求人ではこの真摯さは強調していますね。

米良 当たり前のことですが、他の人は自分とは違う人間です。なので、自分がわかっていることが相手にはわからないかもしれないという意識や全く違う人たちと一緒に生きているという感覚、だからこそお互い理解しようとし合う意思は大切だと思います。自分が思っていることは当然伝わっているというのは勘違いだし、違う人と一緒にやるからこそ自分ひとりだけでできなかったことを実現できる面白さがあるはずです。社員同士にその意識が共有されているので気持ちよく働けています。この考え方は、すこし前の画一的な社員教育スタイルとは違ってきているのかなと。

佐宗 漫画でも色んなキャラがいないと面白くないし、むしろ相反するキャラがいるともっと面白くなるということはよくありますよね。それこそ父性・母性・子性はパラメーターのようなもので、それが混じり合ったものが個人ないし会社のキャラクターとして現れるのかもしれません。

時代時勢に左右されない普遍性と自律性を持ったビジョン

秋吉 ここからは、今回のテーマから離れて新型コロナウイルスに際しての変化についてお話できればと思います。米良さんは現在READYFORでいくつかの取り組みを展開されているかと思いますが、どのように変化を感じていますか?

米良 今目の前に本当に困っている方があまりにたくさんいらしゃるので、それをサポートさせていただくのにもういっぱいいっぱいです。正直、ウィズコロナやアフターコロナについてはまだ今の段階では考えきれていません。

いずれにせよ、人々の当たり前はこんなに簡単に変わるんだなと実感しました。これまでコミュニティと言われてきたものは基本的に人間の温度感を直につなぐもので、リアルイベントがベースにあるもの、また、そこに物理的に移動して行くことが当たり前だと考えられていましたが、テクノロジーを介せば物理空間で会わずとも成立するということがわかりました。当たり前だと思っていたことは全然当たり前ではないんだなと。

私たちのサービスはたまたま東日本大震災直後にスタートしました。その時は震災前のことがわかりませんでしたが、今回の新型コロナを受けて、人々の動きと私たちの役割が大きく変わっていくのだろうと感じましたね。

秋吉 VUILDでは、限られた地域内で調達できる材料とデジタル技術で完結するものづくりの仕組みを使い物流をゼロにして、人が動くことで家が建てられる社会を作ろうと考えていました。例えば、「まれびとの家」のようなものを建てることで、人口密度が分散した場所に人が流れる導線を作れたらと思っていたのですが、人が移動することによる感染拡大のリスクが前提になってしまったのでその理想図は若干崩壊してしまいました。

一方でこのコロナ禍は、独自性の低い金融資本主義的なコワーキングスペースのような空間の限界が見えた契機でもあり、「まれびとの家」のようなコミュニティー内で共有する空間のあり方への追い風になるのではないかと思っています。

また、東日本大震災の時は都市空間や建築物などのハードウェアの問題でしたが、今回は目に見えないソフトの問題として起きています。我々の仕事は物理空間上で物事を形作ることでソフトを変えていくアプローチなので、それがもう少し難しいフェーズに入ったような印象を覚えます。

佐宗 これからVUILDはどういう施策を予定していますか?

秋吉 5月末にクラウドでものづくりが完結するサービス「EMARF3.0」をローンチする予定です(※鼎談開催後の5月27日にローンチ済み)。リモート化により、家庭空間のオフィス化・充実化が進むと思います。その追い風になる仕組みではないかと考えています。

今回あらためて、時代時勢に左右されない普遍性と自律性を持ったビジョンを作らなくてはいけないと思いましたね。

佐宗 グローバリゼーションが完全に終わりを迎えている状態なので、大掛かりな物流や人の流れがなくとも完結するリージョナルな仕組みはさらに求められるようになるでしょう。VUILDが考えている自律分散型社会は想定よりも早く到来するのではないでしょうか。

リモートワークで変わる再生型リーダーシップ

視聴者コメント「コロナショック前に大事や重要だと思っていたのに、一瞬で意識が変わっちゃったことってありますか?」

米良 リモートワークを初めて1か月半ほど経ちましたが、コミュニティーの運営に物理空間は必要条件ではないとわかったので、オフィスをどうしようか考えていますね。

当然リーダーシップのあり方も変わっていくだろうと思います。これまでは同じ空間で顔を合わせていたため誰がどんな仕事をしているのか大体把握できていましたが、リモートになると完全に把握することが難しくなります。全てログを残す、録画するなどの対応もありますが、監視社会的であまり好きではありません。なので、個々人がミッションを持ってやり切ることがベースとして求められるのではないでしょうか。

そうなると会社に帰属する必要性に対する疑問が広がっていくかと思います。その時会社として、どのようなあり方が必要なのか、どうすれば同じコミュニティである実感を持ってもらえるのか、どのようなコミュニケーションを取ればメンバーとの信頼関係を築けるのか。まだ答えはありませんが考えていきたいと思います。

佐宗 リモート化によってより自律型の組織への進化への取り組みが進むと思います。ティール組織のような概念も、最低でも大企業の企業現場では10年以上かかると思っていましたが、意外と早く実現するかもしれません。その場合、逆に全員が全員自立して生きていけるほど強くないので、リーダーは場作りや支援を通じて底上げしていく役割が必要です。心理的な動機をうまく引き出すことは大事ですが、現環境ではその役割を担う存在が抜け落ちているため、意図的に導入しなければならないと考えています。

自律分散型社会や地域完結型社会は、究極的にすでにあるものに力を与えて流動性を高めるものです。その時、人やモノの巡りをよりよくする再生的なリーダーシップと世界観が求められるのではないでしょうか。まだ答えを持ちませんが、そういう社会に向かっていきたいと思っています。

秋吉 力を吹き込むという意味で、それは新しい父性と呼べるかもしれませんね。

佐宗 生み出す父性というのか、子性と父性の間にある考え方なのかもしれません。

見えない人々に対して、どのように手を差し伸べるべきなのか

視聴者コメント「コロナ禍で『出会い』をどう創出するかはまだ見えないなと考えあぐねています。いまあるつながりを育てることはできそうだけれど、出会いを作ることは(すでに発信力があるという)特権になるのだろうか?と。」

秋吉 新しい出会いのチャンスを与えるのが公共空間の本質的な役割だったと思います。公共空間が変容していく中で、どのように新しい出会いを作るかは大きな課題になるでしょう。

米良 個人的には、ミーティングするコストが大幅に減ったことによって、以前にも増して人と気軽に出会えるようになりました。今までは時間・空間的制約が大きかったのですが、テレワークスタイルになった途端に、10分だけ繋ぐということもできるようになりました。むしろこれまで以上に、多くの人に出会えているかもしれません。 

佐宗 先月、全国約250人の親と小学生が参加する「夢をカタチにする授業」と言うビジョンアート制作のワークショップをオンラインで開催しました。参加親子同士を繋いでワークをやったりしたのですが、先生方は初対面の子供同士が打ち解けることの難しさを懸念していました。たしかに、すでにある程度のソーシャルネットワークを持つ大人と比べるとその状況は大きく異なりますが、一方で親御さんからは、オンラインとリアルに差はなかったという意見もいただきました。

もちろん、オンラインで繋いでしまえば大丈夫ということはなく、地縁的な繋がりと同程度の人間関係の築き方を丁寧に作る必要はあります。それをやるのは行政なのか、民間なのか、それともNPOや個人なのかはわかりませんが、いずれにせよ、コミュニティマネージャーのような役割の重要性は増してくるのではないかと思います。

米良 オンラインでミーティングをすると背景にご自宅の様子が映ることが多いんですよね。パーソナルな部分が垣間見えるようになると、親密感が増すということはありえると思います。まさにお互いのホーム同士が直接繋がることで心の距離が縮まるような気がしますね。

佐宗 インターネット・SNS以前は、繋がることは貴重で贅沢なことでしたが、たくさん出会えるようになったことで出会いの価値が薄れていった15〜20年だったと言えるかもしれません。繋がりの価値が再評価されるきっかけになったと、ポジティブに捉えることができますね。

秋吉 いまの子供たちがリモートネイティブというような存在になり、そもそもいつでも誰とでも出会える感性が醸成されるのであれば価値観は大きく変わりそうです。また、米良さんのおっしゃった人と会いやすくなったというようなポジティブなマインドセットはこれからの時代大切かもしれません。

米良 新型コロナの影響で世の中は大きく変化しました。人々の行動がこれだけ変化した中で、誰も苦しまない、誰も取り残されない社会を作るために、私たちはどういう役割を果たしていくべきかを考えています。

私自身は、変化することや変化について考えることが好きですが、多くの人たちにとって変わるということはとても大変なことです。その変化に対して心を整えていく必要があるときに、もし周りに支えてくれる人がいなかったら、あるいはすぐにコミュニケーションが取れない距離にいたら、それはとても怖いことだと思います。そういう人たちをいかにうまくランディングできるようにするのか、積極的に繋がることが得意ではない人にとっても居心地のいい環境をいかに作っていけるのかはこれから大事になってくるだろうと思います。

佐宗 他人とコミュニケーションをうまくとれない状況が続くと、心理的にネガティブな影響が出てきてしまうのではないかと心配です。個人的にも関心がある分野の問題で扱いきれるものではありませんが、メンタルケアや日常レベルの認知行動療法など、自分にもできることがないかと考えています。

僕自身はネガティブな感情をノートに書き出すことで心を落ち着かせています。やっぱり、自分に無理をしたり嘘をついたりしてしまうとより悪化するので、社内のメンバーにはなにかあったら電話するようには伝えています。協調する関係を意識的に作らないといけないとつくづく感じます。誰でもストレスは溜まるし、ひとりで解決しきることは不可能なので、誰か話せる人を作ることは大切だと思います。

米良 声を上げてくれる人じゃないとその姿は見えません。本当に助けを求めている人はすぐには見えてこない。そういう人たちにどういうソリューションを提供していけばいいのか。いかに手を差し伸べるべきか。これは本当に大事なことだとあらためて思いました。

[2020年4月8日、YouTube Liveにて開催]
----------------------------------------------
facebook: https://www.facebook.com/VUILD.co.jp
instagram: @vuild_official & @vuild_architects
twitter: @VUILDinc






この記事が参加している募集

オープン社内報