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既製品×EMARFを探究した、永く愛されるものづくり

3ヶ月間に渡り、EMARFアンバサダーとして活動してくださった銅銀さん。ゴム紐に始まり、波板や穴開きアングルなど、既製品とEMARFで加工した木部材を組み合わせ、家具を製作されてきました。

そんな銅銀さんがアンバサダーとして活動するにあたりテーマとしたのは、”制限から生まれるデザイン”。例えば、一作目の「縫うスツール(Sewn Stool)は、加工時に刃の逃げとなる”フィレット”のような、言わばCNCルーターが持つ制約を、加工の中で生まれるチャームポイントと捉え、ゴム紐と掛け合わせることで生まれた作品です。

これらの驚きを生むアイディアはどのように生まれたのでしょうか。

今回は、制限がもたらす新しい意匠的要素の創造に取り組んできた銅銀さんから、既製品を活用した永く愛される創作へのヒントを探ります。

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▲一作目「縫うスツール(Sewn Stool)」

▶︎アンバサダーとしての活動テーマを語ってくれた銅銀さんの前回インタビューはこちら

素材が持つチャームポイントを引き出す

縫うスツールから二作目となった「自宅の造作棚」は、合板部分と既製品の衝突部分を丁寧にEMARFで緩衝することをコンセプトに制作されたということで、ご自身、ご家族共に実際に使ってみてどうでしたか?前作同様にゴム紐の工夫も凝らされていますね。

もともとあった機能や収納の配置をあえて変えずにコピーしたため、家族もスムーズに移行することができました。ホゾの組み上げを父母にも手伝ってもらいましたが、素早く完成したので驚いていました。

向かって右には新たに収納棚を追加しましたが、これまで散乱していた物を整理するのに役立ったため、好評でした。

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半ば無理やり通したゴム紐も、以外にも使いこなしてくれています。ハウスメーカーにそのまま修繕を頼むよりも、使いやすく愛されるものができたのではないかと思っています。

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ー ご自身で製作されたものが家や他者に馴染んでくる過程で、一作り手としての気付きや失敗談や心情の変化があれば教えてください。

収納の追加は必須だったので仕方ないといえば仕方ないのですが、新たな棚の部分がリビング内に妙な死角を作ってしまいました。モデリングの世界と実際にできたものの空間への馴染みのギャップを痛感します。設計段階での視野角検討や、ARを用いたスタディなど、今後挑戦してみたいことが増えました。

以前のインタビュー時に「賃貸空間をチューンナップする」というキーワードが出てきましたが、賃貸空間に手を加えることの醍醐味を教えてください。

賃貸の家具デザインにおいては、いわゆる原状回復義務に応える方法を考えるのが面白いと感じました。それはつまり、部屋での暮らしが終わったあとの〈その後の物語〉を考えることでもあります。

三作目となった「FourDesksForTwo」は、二人暮らしを始めたクライアントに向けて友人と協同で作ったワークデスクとダイニングです。といっても、タイトルが示すとおり実際に作ったのは4つの小さなデスクの天板ユニットで、穴開きアングルとボルトのシステムを利用し、用途に合わせてさまざまにつなぎ変え可能になっています。

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現状は、小さな向い合せ接続の2つで正方形のダイニングとし、残りの2つを横並び接続してワークデスクとしていますが、もし家族が増えたら、計4つをつなげて2x2の大きなダイニングにすることもできるのです。子供の勉強机にしてもいいですし、そもそも退去時に4つの小さなデスクとして知人に配ってしまってもいいかもしれません。

いずれにせよ、デザインする僕たち自身も納得できる〈その後の物語〉まで設計できたということです。設置して終わりではないというところが賃貸ならではの難しさであり、面白さだと改めて思いました。

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▲「Four Desks for Two」 (協同: 平林航一・相澤怜)

常識からのズレを楽しむ既製品活用法

4作目の波板を使った靴箱を制作した背景と経緯を教えてください。

依頼者にEMARFの話をしていたら、靴箱の話を持ちかけてくれました。建築学生ということもあり、デジファブの面白い使い方を考えたいというモチベーションにも共感してくれました。

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▲波板ラック (協同: 田淵ひとみ)

具体的にどのような流れで進んで行ったのでしょうか。

外形寸法を指定してもらい、いくつか案を見せながら数回打合せをしました。依頼者の協力もあり、使い勝手よりも、まずはモノとしての面白さを優先させ、その上で機能面を調整していくというアグレッシブな進め方をすることができました
依頼者の家にパーツを直接送付し塗装しておいてもらい、組立ては二人で行いました。

波板を活用することになった経緯と、他に考えていたものがあれば教えてください。

側板と棚板は、力学的に全く違う役割を持っています。そのため、それらを別のしくみで作りたいというのは、はじめから決まっていました。特に、棚板はたわみ(曲がり)に耐える性能が求められますが、12mm厚の合板に靴を載せてもたわまないのはあまりに当たり前で、驚きに欠けます。なので今回、EMARFはあえて側板だけに使い、棚板は別の作り方にしようと決めたのです。

マテリアル選びに関しては、ホームセンターで誰でも手に入れられるというのも重要なポイントとなっていますが、最も意識したのは合板との素材感のコントラストです。なので、軽く、透明で、無機的というさまざまな点で合板と対比が効くポリカ波板を選びました。

結果的に、工業製品がもともと持っている見逃してしまいそうな美を可視化することができました。

SNS内外含め、どのような反響がありましたか?

TwitterやFacebookでも大きな反響をいただきました。一瞬、「ん?どうなってるんだ?」と思わせる違和感のある画像が、強い印象につながったようです。コンセプトに関しては、自分もうまく言語化できていなかったような部分を沢山の人がうまく表現してくれました。

「意味と制約のどちらも混ざるのが気持ち良い(@nosuke_sfc)」「合板の接合金物化(@04Hsk)」「負ける木加工(@connie_tkht)」などです。

また、サイズを変えて同じようなものを作って欲しいといった声も頂いています。これから個人的に売っていこうと思っているので、欲しい方はkazumadogin[a]gmail.comまでお気軽にご連絡ください。サイズ違いや、組立まで/パーツ送付まで/データのみといった販売形態のバリエーションも可能な限り対応できたらと考えています。

参照と制限を一繋ぎに考える、アイディア創出法

EMARFを知ってくださっている方の中には、使ってみたいけど何を作ればいいかわからないという方もいるようです。日常生活におけるものづくりを実践する際のマインドやアイディアの根元、そして前述のような方々にアドバイスがあればぜひ教えてください。

僕自身も湯水の如く作りたいものが浮かんでくるタイプではないので、「①マネする」「②制限を歓迎する」といった思考法で制作しています。縫うスツールはそれの良い例で、①マックス・ビルの名作から寸法を借用し、②フィレットというCNCの厄介な条件を歓迎することで、作ることができました。

自分好みの品を作ることができるDIY、どんな形も制作可能にしてくれるデジファブ、いずれも「自由」が売りですが、だからこそ膨大な選択肢が考えられ、途方にくれてしまいがちです。そこで、①先人たちのデザインを参照したり、②ホームセンターで使える材料・道具を調べたりすることで、意外とすでに選択肢は限られているんだということが実感でき、気持ちが軽くなります。

今後の活動予定があればぜひ教えてください。

年内にでも、今年考えたDIY家具をまとめてZINEを作ったり、Eコマースを立ち上げられないか画策しています。売り方やプロモーション方法のデザインにも興味があるからです。

また、今後のものづくりの興味に関してですが、EMARFを使った建具の設計は絶対にやってみたいと思っています。加工時間などの制限から個人がEMARFでいきなり建築を作ることはまだ難しいですが、建具であれば、少量の加工で効果的にオリジナルな建築空間を実現出来るはずです。また、窓や扉は平面的な形で立体的な効果を得るものなので、EMARFと相性が良いようにも思えます。

EMARFはユーザーのニーズに答えながら、日々アップデートを続けています。今後EMARFにどのような展開を期待しますか。

まず、僕たち学生のインキュベーションにもなりうる今回のような企画はとてもありがたかったです。お礼を言いたいとともに、今回だけでなく定期的に開催して学生のデジファブデザイン開拓の機会を作り続けていただきたいと思います。「EMARFアンバサダー1期生」と名乗りたいのです(笑)。

また、同じような意味で、「EMARF Forum*」 がEMARFでなにか設計してみたい人(とくに学生)と、CNCで切削された家具を組み立てて使いたい人とのマッチングの場所になっていくといいなと思います。

*EMARF Forumでは、開発チームからのお知らせやTips、さらにはユーザーからの作品投稿や公開データを見ることができます。ぜひご活用ください!

▼アンバサダーとしての活動テーマを語ってくれた銅銀さんの前回インタビューはこちら

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