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ものづくりにおける「自由さ」とは?制限を研究し非設計者の道を模索する建築学生 EMARF学生アンバサダー紹介vol.3

VUILDがローンチした日本初のクラウドプレカットサービス「EMARF」を使い、「ものづくりの文化を広げる」とともに、「学生ひとりを独立した企業家に育てる」ことを狙いに3ヶ月に渡り活動するEMARF学生アンバサダー。7月頭にスタートをきってから、約2ヶ月が経過しました。

7月末には月次報告会を終え、残り2ヶ月の活動予定をメンバー同士で共有。活動期間残り1ヶ月を残した今、このnoteでは、多くの応募のなかから選出された10組のアンバサダーの方々にインタビューを実施し、応募当時の思いと、これまでの活動、そして今後の活動予定について伺いました。

第三弾は、ラフさを許容するDIYと精巧なデジファブとの間にあるギャップに向き合いながらものづくりに取り組む銅銀一真さんと、EMARFで発注した部材は、設計者以外の非熟練者にとっては組み立てが難しいのでは?という仮説をもとに組み立ての段階に着目することで、より多くの人に届けるユニバーサルな手法を模索する佐塚有希さんのインタビューをお届けします。

ラフさを許容するDIYと精巧なデジファブとのギャップに向き合う 銅銀一真

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ー 大学で学んでいることを教えてください。

早稲田大学院の吉村靖孝研究室で建築意匠に関する研究を行っています。その傍らで、DIYを中心とした活動も行っています。

具体的には、新型コロナウイルスの影響を受け自分の生活空間のことを考えるようになったことをきっかけに、素人施工の制限をいかにデザインに取り入れられるかと考えるようになったので、その実践として自分の部屋を実験台にDIYしたり、友達から依頼を受けてアドバイスやサポートをしながら一緒に吸音壁を制作したりしました。

ー アンバサダーに応募したきっかけを教えてください。

通常DIYでは、素人施工の制限の中で出来上がるデザインに重きをおきます。一方でEMARFはこれとはまた別の方向性を持っていると思っています。EMARFを使うことで様々な造形が自由になる中で、デザイナーとDIYの関わり方がどう変化していくのかというところに興味があり、今回アンバサダーに応募しました。

ー 7月に制作したものを教えてください。

7月は「紐で縫えるスツール」のプロジェクトに取り組みました。CNCルーターで切削を行う際に出るフィレット穴の見た目がいかがなものかという旨の議論をSNSで見かけたので、今回そのフィレット穴をアドバンテージ、ひいてはチャームポイントとして捉え直せないかと思い、穴を縫い合わせるような家具をデザインしました。そのために、プラグインでつくれるデフォルトのフィレット穴を少し編集して深くすることで縫いやすくしました。
*刃物を逃がすための穴

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例えばコンクリートのセパ穴のように、材料や加工の制限がもたらす厄介な形が時代を経ることでかっこいいものとして見なされて行くことはままあると思います。同様にしてCNC切削に関しても制限がもたらす新しい意匠的要素の創造にささやかながら貢献したいと思ったのです。

ー スツールのアイディアはどの段階で浮かんだのですか?

制限から生まれるデザインには以前から興味がありました。デジタルファブリケーションというと、どんな形でも完璧に作ってくれる夢の機械かのように言及されることが多いと思いますが、やはり技術である以上何らかの制限はあると思っています。それを無視してデザインを進めるというよりは、それらと仲良くしながらデザインをするための道具にしていきたいという意識を持っています。

ー 以前ShopBotを使ったことがあるということですが、今回EMARFを使って制作してみてどうでしたか?

プラグインの使い心地がすごく面白いなと思いました。特にEMARFのプラグインで使える臍(ほぞ)やあい欠き、あられ組みなどのディテールはこれまでわざわざモデリングしなかった範囲でした。そのような操作が簡単にできるようになったからこそ、じゃああられ組みを使ったらどういうデザインがあり得るんだろう、というようなディテールの検討をしやすくなったと感じました。

ー 8月の活動について教えてください。

まだ未発注ですが、壊れてしまった実家の造作棚を設計しました。合板部分と既製品の衝突部分を丁寧にEMARFで緩衝してあげるのがコンセプトで、例えば、天井と棚の隙間を最小限にするために棚の内側に突っ張り用のアジャスタ金具を貫入させることで、通常のDIYで生じる既製品とのぶつかり合いを面白いかたちで逃してあげる、みたいなことを考えています。

また、電源タップを避けたり、先月同様フィレット穴に紐を通して雑誌を引っ掛けられるようなゾーンをつくったりしたいとを考えています。

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ー 7月の制作を踏まえて工夫された点はありますか?

先月はプラグインのフィレットをそのまま深くするだけだったので、今回はもう少し紐を通しやすくするためにオリジナルのフィレットを考えようかなと思っています。

ー 9月の活動予定について教えてください。

ここまでは自分のためのものを制作してきましたが、次は友人のために、賃貸物件の棚のユニットを使って賃貸空間をチューンナップするといったことを計画してます。

ー どういう流れで今回友人の家具を制作することになったのですか?

もともとDIYのアドバイスをするユニットを友達と組んでいて、周りに「やるよやるよ」と言いふらしているうちに、だんだん「じゃあやってよ」と声をかけられるようになってきたんです。今回も、デザインをお手伝いしながら依頼主と一緒に制作する予定です。

ー もともと誰かと制作することが好きだったのしょうか?

実は全然そうではなくて、自分でこそこそ完璧に仕上げて、完成した後に1人でニンマリするようなタイプだったんです。ですが、自分の部屋のDIYをした時に満足することはできたものの、それと同時に自分の引き出しだけでものづくりをすることの限界を感じはじめました

逆説的ですが、新型コロナウイルスの影響で外出できなくなったことをきっかけにコミュニケーションベースの設計のことを考えるようになったんです。今後は、他者と設計作業を共有し合いしながら進めていくためのマインドセットの構築を頑張ろうと思っています。

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春に制作した本棚。規格材をそのまま使う、長さの精度の低さを許容するなど、DIYに特化したデザインを試みた。▶︎note記事「"DIYデザイン"?

ー ではこの春が銅銀さんにとって転期だったと思うのですが、人とやってみてどうでしたか?

クライアントがいるDIYというのは矛盾があるというか、難しいと思いました。デザインとしてこうしたいということは沢山あるけれど、それが必ずしもDIYに適合しなかったり、その逆も然りです。今はデザイナーが関与するDIYという、一見矛盾するやり方がどのように可能かに興味を持っています

ー EMARFアンバサダープログラムの前半を終えた感想を教えてください。

“ラフな仕上がりも愛でる” みたいなことがDIYの本来の理念だったと思うのですが、デジタルファブリケーションを使うことで基本的には精巧な加工が可能になりますよね。これは、裏を返せば設計から施工まで精巧であるべきというプレッシャーにもなりえます。そこが通常のDIYと、EMARFによるDIYの相容れない部分だと感じています。

また、DIYerは現場でアドリブ的に継ぎ足して作ることを前提とする人が多いと思います。ですが、EMARFでは100%まで完成させてからアップロードしないといけないので、「EMARFでDIYやってみなよ」と無邪気には言えない。このハードルの高さは今後考えていくべきだと感じさせられました。

最初から100%を作らないといけないEMARFと、ゆっくり住環境をよくしていきたいDIYerの間にあるモチベーションのギャップを、デザインを使ってどう埋めていけるだろうというのが今回は感想でもあり課題として感じていることです。
*DIY愛好者

ー 今後の予定を教えてください。

精巧さを求めるデジファブとラフさを愛するDIY精神の間をとりもつ緩衝材のような役割は、デザイナーがまだ介入できていない領域だと思っていて、EMARFとDIYを改めてフィットさせる方法をさぐりたいと思っています。

繰り返しになりますが、そのためにも「夢の技術」としてではなく身近な道具として、その制限もうまく取り込むようなデジファブの使い方を考えることが重要だと考えています。

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▶︎「縫えるスツール」のプロジェクトについて銅銀さんがnoteで3回に渡りまとめています。ぜひご一読を!
「縫えるスツール ―木工CNCルーターの制約を長所として活かすー」
WHY?編
HOW?前編(設計とモデリング)
HOW?後編(組み立て・塗装)

ここまで読んで頂きありがとうございます。EMARFに興味を持って頂けた方はぜひこちらから会員登録をお願いします!
次は家具や建築における記述方法を研究する佐塚有希さんをご紹介します。EMARFで発注した部材は設計者以外の非熟練者にとっては組み立てが難しいのでは?という仮説をもとに、現状発注までしかサポートされていないEMARFに問題を提起していきます。

ものづくりにユニバーサルな記述方法を付与する 佐塚有希

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ー 大学院で学んでいることと、アンバサダーに応募したきっかけを教えてください。

明治大学の大学院で構法計画(門脇耕三)研究室に在籍している佐塚です。大学では、「建築に用いる記述方法(notation)と施工に関する研究」をしていて、同時並行でその研究に基づいたプロジェクトを進めています。また、これらをEMARFと繋げることで施工者がより設計に加わることができたらと思い、アンバサダーに応募しました。

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研究と同時並行で進めているプロジェクト「tke」

研究内容を簡単に話すと、例えば、建築施工では三面図などの設計図が記述方法として用いられることが一般的ですが、三面図は情報量が多い分、組み立て順序の指示がなかったりするので、ものづくりに慣れていない人にとっては難易度が高いメディアでもあります。一方でIKEAなどで見られるような簡単な組み立て図は、文字がほとんどないのでグローバルなメディアです。他にも電化製品の組み立てに用いられることの多い画像付き説明書は、施工順序が事細かに書かれていたりと、それぞれ多様な記述方法があるんです。

このように、メディアの違いによって最終成果物がどのくらい違ったり、施工順序による施行中の誤差がどのくらい出るのかということを分析するために、様々な施工技能レベルのひとに対して共通の馬脚つくえを制作してもらいその結果を集めています。そして最終的にはものとして用途も形状も素材も自由であることを一つの説明書としてユニバーサルな記述を提示するということを目指しています。

今後は家具スケールのレベルだけではなく建築へ一般拡張し、スケールフリーな建築の記述方法とはについて考えていきたいと思っています。

ー アンバサダーとして行っていることについて教えてください。

EMARFアンバサダーとしては、自分の研究と絡めて、EMARFに合った記述方法を模索しています。EMARFが3.0までバージョンアップしたことで、建築を学んでいない非熟練者の人が設計プロセスからものづくりに参加することへのハードルがとても下がったと思います。

一方で現在EMARFでは、届いたものに対しての組み立て指示書のようなものがなく、設計・切り出しまでしかサポートされていません。ある程度建築を学んでいる人が組み立てるのであればあまり問題はないと思うのですが、例えば、私が設計したものを実家の母(非熟練者)にプレゼントして、それを母が組み立てる場合、指示書がなかったら難しいんじゃないかなと。

具体的な取り組みとしては、設計したものを自分で組み立てるだけでなく自分以外の誰かに組み立ててもらったり、他のアンバサダーに対してEMARFを使った感想をヒアリングしたものを分析したうえで、記述方法を提示したいと思っています。詳しくはnote記事「【EMARF】EMARF3.0から4.0へ?」をご覧ください。

ー 記述方法(notation)に興味をもったきっかけを教えてください。

学部の卒業設計では、感情を数値化しそれを建築化したらどんなものが生まれるのかについて考えました。仮にそのシステムをつくり出すことができれば、映画や音楽など、人間が感情を抱くものをなんでも建築化することができるのではと。なにか新しいシステムをつくり出したいという欲望はずっと持っていて、つくったものを世に広めるためには記述方法の分析が必要だと思ったのがはじまりです。

自分の卒業設計や研究室のプロジェクトを通して興味がどんどん深まっていって、いまでは分析の次に新しい記述方法を生み出したいというところまで発展しているので、自分の興味軸からいろいろ派生できて楽しいです。

ー 現在制作しているものについて教えてください。

食洗機の後ろに置く棚をメラミン合板で制作中です。メラミン合板は現状EMARFに対応していないのですが、今回、記述方法を模索するのと同時に、EMARFに対応していない異素材をShopBotで切ってみたら実はもっとバリが出たとか、組み立て時の向き不向きなどについてもっと知りたかったので、VUILDの方に相談して切削できないかお願いしています。

スケジュールが押してしまっているので、今は切削に先行して記述方法を考えている段階ですが、メラミン合板で発注できればまずは自分で組み立てた後に、母に被験者として組み立ててもらい、フィードバックを得られたらと思っています。

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ー 9月の活動予定を教えたください。

コロナ禍において、自宅はもちろん、外を歩いていても慣習が変わってきていると感じることが多くなってきました。そこで、街をEMARFでハックする、みたいなことができれば面白いかなと思っています。自分が実際に組み立てるというよりは、記述方法を用いて誰か第三者がつくったりするのがいいかなと。何をつくるかは現在構想中です。

ー 今後やりたいことはありますか?

アンバサダーとして活動したことをしっかり吸収して、EMARFと修士研究を繋げられたらいいなと思っています。論文に入れられるかどうかはまだわかりませんが、自分が興味があってやってることなので、きちんとまとめたいなと思っています。

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