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宮崎のリゾート地で「隙を見せる」経営合宿をした話。心理的安全性を確保するための“遊び”について

ゴルフして、サーフィンして、ディナー食べて、カラオケして、一緒の時間を過ごす。
5月11日から2泊3日で行った経営合宿は、これまでどうもしっくりきていなかった、組織づくり、チームワーク、チームビルディングに対する“答え”があるような気がしました。

九州随一のリゾート地で経営合宿?

バリュエンスの執行役員が集まったのは、九州屈指のリゾートエリアといわれる宮崎県青島エリアにあるNOT A HOTEL AOSHIMA。その名の通り、ホテルではなく“ホテルにもできる別荘”として話題のNOT A HOTELは、日本にこれまでなかったリゾートの価値観を持ち込む、とても面白い 宿泊施設なので、こちらもまたの機会にご紹介しようと思いますが、経営合宿を私が個人で所有し、たびたび家族や友達と訪れているNOT A HOTEL AOSHIMAで行ったのにはいくつかの理由がありました。

経営合宿、幹部合宿というと、企業の経営陣が集まり、会社の中長期的な経営方針について話し合ったり、今後の戦略を検討したりするものという認識の方が多いと思います。

その中で、いわゆる日常の「会議」と差別化を図るために、リゾート地や自然豊かなロケーションを利用して非日常を演出し、普段とは違う視点でゆっくり話をしようという目的や、合宿形式にすることで幹部・役員同士の結束を深めようという狙いがあったりします。

今回私が狙ったのは後者なのですが、単に結束を高めよう、仲良くなってもらおうというだけではありませんでした

ゴルフ、サーフィンにカラオケ? 会議なしの合宿の真の目的とは?

宮崎にある周囲1.5kmほどの小さな島、青島の対岸にあるビーチリゾートで行った2泊3日の合宿でお願いしていたのは、18時からのディナーには全員が参加すること。基本的にはこれだけでした。

ミーティングの時間もあえて設定しませんでしたし、かといってアクティビティでチームビルディングをしようという時間を設けることもしませんでした。

参加者は自分のやりたいことでチームに分かれ、ゴルフに行く人、サーフィンをする人、観光に行く人、それぞれが思い思いにやりたいことに時間を使います。

私が裏テーマとして狙っていたのは、お互いが“弱み”を見せ合う機会をつくることでした。

利便性や効率が高まった一方で失われた生身のコミュニケーション

ここ数年、リモートワークがかつてないほど定着し、私たちのコミュニケーションのあり方は劇的に変化しました。

企業でも「オフィス不要論」をはじめ、働き方の変化、効率化を求める声が多く上がっています。場所や時間にとらわれず必要なタイミングで働けるのは素晴らしいことですし、たくさんの人が移動時間を考慮せずにパッと集まって話ができるリモート会議の恩恵は、特に私のように人に会うことが重要な仕事である経営者にこそ大きいものです。

ただそれによって失われたもの、利便性や効率では生まれないものもあるはずなのです。
私は、むしろリモートワークやオンラインミーティングなどの“ソフトウェア”に当たる部分は生身のコミュニケーションの上に成り立つ信頼があって初めて意味を持つのではないかと思うのです。

そういうことを感じ取っている人は、意図的に部下や同僚とリアルなコミュニケーションを取り、食事に行ったりお酒を飲んだり、遊びに行ったりしているのですが、それもなかなか難しい時代です。

完璧追求モードが加速したコロナ禍以降のオフィス

飲んで本音を語れとか、プライベートを会社のために使えとか、昭和の“飲みニケーション”を復活させようというのではありません。私が危機感を感じているのは、あまりに便利な“ソフトウェア”やツールが普及してしまったために、みんながきちんとしすぎていて「あまりに隙がない」という点です。

その傾向は、役職が上がるにつれ、担っている役割がハイレイヤーであればあるほど強まっているような気がします。

オンラインでのコミュニケーションは、よくいわれているように必要な伝達事項、自分の考える正論を伝える機会が多く、雑談がほとんど発生しません
リアルなコミュニケーションにある適度な“遊び”がなく、知らず知らずのうちにお互いが完璧追求モードになってしまっていることがあります。

管理職、執行役員ともなると、部下に求める以上「自分がまず完璧でなければ」とますます隙を見せなくなります。生身でコミュニケーションしていればちょっとした瞬間に垣間見える人間らしさを感じることもあるのですが、オンラインや限られた時間のなかではなかなかそういう機会がないというのが現状です。

個の力をチームの力として有機的に活用するために

執行役員が集まる会議では、当然シビアな稟議が続くことが多いので、ピリピリモードで進行することも多く、ボードメンバーがどんな人なのか、どんなことに興味を持って、どんなときに笑うのかということを知らないことも珍しくありません。

経営者として感じるのは、こうした完璧追求モードの人材は、個としての能力は非常に高いのですが、チームになったときのマネジメント、チームをチームとして機能させたり、チームのメンバーのパフォーマンスを引き出して最大化することが不得手だということです。

バリュエンスが企業として、個人の成長のために使うお金を現状の3倍、5倍にすることは現実的ではありません。しかし、上に立つリーダーがコミュニケーションのあり方を変えることができれば、メンバーのモチベーションが上がり、パフォーマンスが5倍にも10倍にも向上する可能性はあります。

こうした可能性を追求するために、私は今回の経営会議を「隙を見せ合う時間」にしたかったのです。

「完璧なビジネスパーソン」の意外な一面が心の距離を縮めるきっかけに

狙いは……驚くほどピッタリはまりました。

普段難しい顔をしてなかなか新規事業にGOを出さない慎重派のあの人が、初めてやるサーフィンで波と格闘? どころか波に呑まれ慌てている。スポーツと縁遠そうなエリート然とした役員が、ドライバーをかっ飛ばす。個人的な会話をしたことがなかった無口なあの人が、その風貌からは想像もつかないような甘い声でカラオケを熱唱している……。

どの一面もオフィスやオンラインでは知り得なかった顔ですし、思わぬ弱みや強み、人間としての好きや遊びを見ることで、心の距離がグッと近づくのがわかりました。

職場での心理的安全性を担保する方法

人間がパフォーマンスを発揮する際に「心理的安全性」が担保されていることが重要だということがよくいわれるようになっています。各企業はオフィスにフリーアドレスのスペースやカフェバーをつくったり、さまざまなイベントを行ったりして、職場での心理的安全性を確保しようと試みています。しかし日本社会に限らず、職場や仕事の現場では、なかなか心理的安全性を確保するのは難しい。元々の企業風土、カルチャーの問題もあると思いますが、ではどうやったらそういう空気感をつくれるのか、執行役員からまずは変えてみようというのが今回の試みでした。

企業の成長とともに新しい執行役員を外部から迎えることも増え、自分なりの成功体験や“正しさ”を持ってバリュエンスに加わってくれる人材も増えました。これはもちろんバリュエンスに新しい力を与えてくれる資産なのですが、お互いの正しさを振り回し合っていては、それこそ心理的安全性の担保にはほど遠く、不安や恐れを助長してしまうマイナス面が強調されてしまいます。

今の段階でこれをなんとかしておきたい。

本当のリーダーはありのままをさらけ出す

私自身、完璧な経営者としてメンバーを引っ張って行くタイプではありません。
「その辺は全然わからへんし、できへんから頼むわ」と、むしろ頼りない経営者をある意味演じることで、その仕事をメンバーに任せて、強みを活かしてもらうスタイルでやってきました。これは普段から意図的に弱みや隙、遊びの部分をつくっているからこそできることでもあります。

今回の経営合宿を経て、執行役員同士の心の距離は格段に縮まったはずです。

それぞれが今回の合宿で感じたことを持ち帰ってくれ、自分のポジション、チームでも隙を見せるマネジメントをしてくれれば、その効果は掛け算となって倍増するはずです。

単なる組織ではなく、心の距離が近いチームができれば、個の力×人数の掛け算ではなく、チーム力としてそこで発揮される力は指数関数的に高まるはずです。

隙を見せるということは、ありのままを見せるということ。

人は完璧な自分を手放せたとき、ありのままをさらけ出せる本当のリーダーになることができるのではないかと思っています。

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